失語症研究
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11 巻, 4 号
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原著
  • 佐野 洋子, 宇野 彰, 加藤 正弘, 種村 純, 長谷川 恒雄
    1991 年 11 巻 4 号 p. 221-229
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        我々は失語症者の長期経過を知る研究の一環として, CT scan上,前頭,側頭,頭頂葉皮質のいずれにも損傷の及んでいる広範病巣症例が,標準失語症検査 (Standard Language Test for Aphasia) 成績上どこまで改善しうるのかを検索した。
        対象は,上記の条件の他,発症後3年以上を経過した失語症者32名。いわば到達レベルとも言える長期経過 (平均7.0年) 後のSLTA成績は極めて軽度から重度まで広く分布した。発症年齢別にみると,40歳未満例は,以後例より,総合評価点においても,また全項目での到達平均得点でも有意に良好であった。また改善が良好であった40歳未満発症例の各項目平均得点が,非失語症者の マイナス1標準偏差を,大きく下回ったのは,「口頭命令」と「文の復唱」の2項目であった。
        リハビリテーションの実施にあたっては,発症年齢による予後の差を十分に考慮する必要が示唆された。
  • 藤野 博, 岩倉 稔子, 渋谷 直樹
    1991 年 11 巻 4 号 p. 230-236
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    Goldsteinによって提唱された,いわゆる「範疇的態度」の障害を基本障害とする健忘失語の一症例を報告した。症例は59才の右利き女性。単純ヘルペス脳炎による左側頭葉の病変によって失語を生じた。臨床像は語義失語の特徴を持つ超皮質性感覚失語から健忘失語へ移行した。呼称や動作説明において次のような特徴が見られた。 (1) 対象の用途や細部の説明は可能だが呼称ができない。説明の中で目標語自身を使っているのに,あらためて名前を問われると,それを呼称できないということもある。 (2) 対象の個別性にこだわる。 (3) 微妙なニュアンスを表現しようとし,対象をひとことで簡単に言い表わせない。 (4) 対象から受ける印象を述べる。以上の特徴とカテゴリー分類テストの結果およびジェスチャー・ヒントの効果から本症例の基本障害は範疇化の過程にあることが示唆された。
  • —書字による談話について—
    太田 千明, 高見 武志, 下村 隆英, 竹田 契一
    1991 年 11 巻 4 号 p. 237-243
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        左被殻出血により失語症を呈した症例の自発書字を, (1) SLTA「まんがの説明」, (2) 課題作文の随筆様文章「秋」について検討した。 (1) では,発症後3か月より誤りを伴いながらも文の書字が可能となり,同9か月には1コマ毎に文による説明が可能となった。さらに同24か月以降は接続詞の使用などにより,全体でまんがの筋に対応する説明となり,各文が繋がりを持ち,全体で談話を構成するまで改善した。 (2) では,豊富な語彙で,適切な構造による談話が産出されていた。両者で仮名錯書等の文字表記の誤りが見られたが,文法的誤りは見られなかった。
        本例より,失語症者でも書字による談話の産生が可能であることが示唆された。その背景には失語症の改善,病前の書字習慣,言語思考力,書字に対する態度などの要因があると考えられた。
  • 藤田 邦子, 石川 裕治, 熊倉 勇美, 水田 秀子, 松田 実, 波多野 和夫, 濱中 淑彦
    1991 年 11 巻 4 号 p. 244-249
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    低酸素脳症の後遺症として特異な作話とこれに関連した行動異常を呈した1例を報告した。この症例は、一般的な知的能力及び瞬時記憶は保たれていたが、逆向性及び前向性健忘、並びに著しい作話が認められた。作話の多くには次のような特徴がみられた。 (1) 過去に受けた刺激内容を発話に取り込んで展開したり、 (2) 自分と無関係なできごとをあたかも自分の体験であるかのように述べたり、 (3) 作話生産の時点では、作話内容に出現した事前の刺激について、その内容の想起のみならず、そういう刺激を受け取ったという事実の想起すらも困難であった。さらに注目すべき点は、テレビの登場人物を実際に探しに行くなど、作話内容が患者の実際の行為面にまで及んだ点である。これらの現象の臨床的側面の詳細を報告し、その発生機序についても若干の考察を加えた。
  • 荒木 重夫, 河村 満, 塩田 純一, 磯野 理, 平山 惠造
    1991 年 11 巻 4 号 p. 250-255
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    左中心前回下部の脳梗塞により prosody の障害を主体とする持続性で重度の語唖症状を呈した症例を報告した。語唖症状の代償機能については,劣位半球対称領域 (Nielsen,1946=劣位半球代償説) または Broca 野の周辺領域 (Levineら, 1979=優位半球広範囲障害説) の役割を重視する二つの考え方が示されている。本症例は右 (劣位側) 中心前回下部に陳旧性病変を有しており,そこに存在するはずの語唖に対する代償機能が働かなかったと考えると,本症例にみられた語唖症状の持続が説明 (劣位半球代償説) 可能であると思われた。
  • 山岸 すみ子, 宮森 孝史, 永山 千恵子
    1991 年 11 巻 4 号 p. 256-261
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    脳血管障害患者の配偶者の心理的適応を調べるため,一側性の脳血管障害患者52名の配偶者を対象に役割交替,感情的問題,コミュニケーション上の問題の3つの領域に関してアンケート調査を行い,損傷側による差、高次脳機能障害の有無による差を検討した。役割交替では,高次脳機能障害を有する患者の配偶者の方が問題が大きかった。感情的問題では特に半側空間無視あり群の患者に対して,配偶者は否定的感情を強く持つ傾向が見られた。またコミュニケーション上の問題では,左半球損傷者のみならず右半球損傷者にも何らかの障害があることが示唆された。以上のことから,右半球損傷者,中でも半側空間無視を有する患者の配偶者は,心理的不適応に陥りやすく,援助の必要性が高いことが考えられた。
  • —口腔顔面動作訓練と構音訓練—
    越部 裕子, 宇野 彰, 紺野 加奈江, 上野 弘美, 加藤 正弘
    1991 年 11 巻 4 号 p. 262-270
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        非構音時の口腔顔面動作障害を認める純粋語唖1例について非構音時の高次口腔顔面動作と構音の関係を明らかにするため,口腔顔面動作のみの訓練と構音の訓練を実験的に行い,相互におよぼす影響について検討した。訓練は2期に分け,第1期は口腔顔面動作のみの訓練第2期は絵カードの呼称をエレクトロパラトグラフを主として用いた訓練を,各期10回ずつ行った。
        その結果,第1期では訓練を行った口腔顔面動作,および非訓練語の構音の正答率が有意に上昇した。第2期では訓練語および非訓練語の構音の正答率が有意に上昇した。同時に,訓練を行っていない口腔顔面動作の正答率が有意に上昇した。
        以上の結果は口腔顔面動作と構音のいずれか一方を訓練すると訓練を行っていないもう一方のモダリティも改善することを示している。以上より本症例においては非構音時の高次口腔顔面動作と構音との関係が強いと考えられた。
  • —とくに常同言語・反響言語について—
    八島 祐子, 菅 るみ子, 高松 文也, 菅野 正浩, 園部 夏実, 伊藤 光宏, 高橋 志雄, 熊代 永
    1991 年 11 巻 4 号 p. 271-278
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    “てんかん・失語症候群” は,近年, Landau-Kleffner Syndrome (LKS) と呼ばれている。LKSは,てんかん発作,高度の脳波異常,獲得性言語障害,および,行動異常などが主な症状である。著者らは,言語症状の経過を2型に分類した。すなわち,言語障害の慢性型と比較的短期間に回復する型である。本症例は後者に属する言語回復課程で,経過中に反響言語・常同言語を認め,次に,正常な言語の再獲得ができた。症例は,7歳の男児で,4歳11か月時,多動・集団困難などの行動異常が出現し,続いて脱力発作が数回あった。脳波所見は,側頭優位に周期性の棘波あるいは鋭波を認めた。発作出現と同時に,これまで獲得した受容性・表出性言語が消失し緘黙状態となった。発症4週頃からジャルゴン様の喃語,次に反響言語・常同言語が見られ,徐々に自発語を自然な抑掲で話し,さらに,語彙数が増加した。7歳の現在,言語知的機能はほぼ正常に発達している。
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