失語症研究
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12 巻, 4 号
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原著
  • 小島 千枝子, 藤島 一郎, 小島 義次, 大西 幸子, 堺 常雄
    1992 年 12 巻 4 号 p. 285-293
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    左頭頂後頭病変により純粋失書を呈した 2 症例を報告した。症例1 は50歳男性左頭頂後頭皮質下出血。症例2 は62歳男性左後頭葉を中心とする脳腫瘍。2症例とも写字や図形の模写には異常がなく, 書字障害のみを有していた。失書は両手に認められ, 漢字仮名の両方が障害されていた。書字困難な漢字の音読み訓読みが可能であったことより, 漢字の聴覚心像は保たれていると考えられた。また書字困難な漢字, 仮名文字の形態を口頭で表わすことが可能であったことより, 文字の視覚心像は保たれていると考えられた。さらに仮名文字の書字過程には, 漢字の書字過程と同様に視覚心像を介する経路も存在すると考えられた。本症例では Wernicke 野から左角回および左側頭葉後下部に病変が及んでいなかったことから, 文字の聴覚心像, 視覚心像が保たれたものであると思われ, 純粋失書の症状は, 視覚心像から運動覚心像に至る経路の障害によって生じたものであると考えられた。
  • 滝沢 透, 浅野 紀美子, 波多野 和夫, 濱中 淑彦, 森宗 勧
    1992 年 12 巻 4 号 p. 294-302
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    われわれは, 両側側頭葉前方下部に病変を有し, 比較的選択的に意味記憶の障害をきたした症例 R. N. を経験した。症例 R. N. は神経学的には異常を示さず神経心理学的には Korsakoff 症状群と超皮質性感覚失語を呈していたが, 大きな特徴は, 洗顔クリームの代わりに歯磨き粉を使ったりするように物品の使用に障害を示したことである。物品使用の障害は失語では説明できない現象であり, また, 物品使用の検査では, 症例 R. N. は観念運動/観念失行患者群および健忘症状群とは異なった反応パターンを示し, 症例 R. N.の物品使用の誤りは使用法の忘却に起因すると考えられるものであった。この現象は, 超皮質性感覚失語も考慮すると, 意味記憶の障害の反映であると考察された。症例 R. N.の意味記憶の障害には様態特異性と上位概念の保持は必ずしも認められるとは言い難かったが, 範疇特異性が一応認められた。
  • —正常例と軽度の失語症例との比較—
    川島 康宏, 柴崎 尚, 大江 千廣
    1992 年 12 巻 4 号 p. 303-312
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
        ポジトロンCT (C15O215O2持続吸入法) を用いて,障害を持つ脳の賦活の研究を行い,正常例と軽度の失語症を有する脳腫瘍2例の結果を比較し,この検査の持つ意義を検討した。課業 (前日に体験したことを想い出しながら喋る) に伴う,局所脳血流量,局所脳酸素代謝率の変化を調べ,賦活の指標とした。本課業により,正常人では左側シルビウス裂周辺の言語野のみならず,右側も含め,広範な脳の賦活が見られた。失語症例では,左側シルビウス裂周辺の賦活は正常例に比し不良であったが,運動前野や補足運動野の賦活は比較的保たれていた。本検査法は脳の統合機能および,障害を有する脳の可塑性の研究に有用と考えられた。
  • 杉浦 主子, 米田 行宏, 吉田 高志, 山鳥 重
    1992 年 12 巻 4 号 p. 313-322
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
         拍は,日本語の発音において最小の単位であり,同じ長さに (等時的に) 発音されることによって特徴づけられている。日本語のリズムは,拍の等時性と音声の休止により成立し,和歌,俳句などもこれを基礎としている。われわれは,重度失語症にもかかわらず拍の等時性が保たれた2例について報告する。
        症例1は,発話の大部分が新造語で占められており,拍をほぼ等間隔,無アクセントに産出したのが特徴的であった。さらに,休止によって数拍ごとにまとめられた発話は,日本の定型詩の韻律を思い起こさせた。
        症例2は,発音可能な音は限られていたが,それらの音で1拍および2拍の単位からなるリズムを形成し産出した。発話の形成過程が階層構造をなしていると仮定すると,そのひとつに母国語のリズムを構成する階層があり,今回の2症例は,脳損傷によりその階層のみが保存され表現される場合があることを示唆している。
  • —病巣と発症年齢に関する検討—
    佐野 洋子, 宇野 彰, 加藤 正弘, 種村 純, 長谷川 恒雄
    1992 年 12 巻 4 号 p. 323-336
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
         発症後3年以上を経過した失語症者72名にSLTAを施行し,いわば到達レベルの検査成績を,CT所見により確認した病巣部位と発症年齢の観点から比較検討した。SLTA評価点合計の到達レベルは,基底核限局型病巣例,前方限局損傷症例が高い値を示し,これに後方限局損傷例が続き,広範病巣例と基底核大病巣例は,最も低い値であった。発症年齢が40歳未満群は,軽度にまで改善する症例が多い。40歳以降発症例と,未満発症例で,到達レベルに有意な差が認められたのは,広範病巣例と,後方限局損傷例であった。前方限局損傷では,発症年齢での到達レベルの有意差はみられず,失語症状はいずれも軽減するが構音失行症状は残存する。これに対し,後方限局損傷例では,聴覚経路を介する課題や語想起の課題で発症年齢による到達レベルの差が認められる。このことから脳の,機能による可塑性が異なることが示唆される。また基底核損傷例は病巣の形状で到達レベルに差異が著しく,被殻失語として一括して予後を論ずることは難しい。
  • —病像と画像および鑑別診断—
    村井 斎子, 森 寿子, 原 賢治, 安田 雄, 寺尾 章
    1992 年 12 巻 4 号 p. 337-344
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
         進行性失語症候群の1症例を報告する。物品の呼称の障害が著しい健忘性失語で発症し,まもなくBroca失語を呈し発症後5年でほぼ全失語に至ったが,この時点でも高頻度使用語彙の聴覚的理解力・情緒などは保持されていた。現在まで性格や人格の変化は認められず,視覚認知機能も保たれている。
        CTでは初期に左Sylvius裂近傍の限局性萎縮が認められ,SPECTでは左前頭葉・側頭葉に限局した低集積領域が,後頭葉を残し次第に左半球全域に拡大し,次いで右半球へと及んでいく過程が認められた。
        SPECTは早期に病変を描出し,病像とよく相関していた。したがってSPECTは痴呆における高次機能の特徴的障害を描出する機能診断法として非常に有用であると考えられる。
  • 西田 博昭, 田辺 敬貴
    1992 年 12 巻 4 号 p. 345-350
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
         右前頭—頭頂葉皮質下出血後,本人の矢状面方向で前方に90度回転する「姿勢図式」障害を一過性に呈した1例を報告した。本例は,姿勢の認識の神経心理機構について示唆を与える症例である。症例 : 84歳右利き女性。左片麻痺,左半身知覚鈍麻を認めた。CTにて右前頭–頭頂葉皮質下に高吸収域を認めた。第4~6病日,患者自身はベッド上仰臥位なのに,患者自身の身体は垂直に立っていると訴えた。周囲の景色もそれに対応して前方に90度回転していた。本症状は閉眼状態でも持続し,座位では消失した。矢状面で前方に90度回転する「姿勢図式」障害はきわめてまれで,その発現機序は明確でないが,本例では視覚性の空間認識障害や身体図式障害だけでは説明困難であった。頭頂連合野に,血腫による刺激症状として,体性感覚系・視覚系・前庭系間の情報の統合障害による混乱が生じて,本例の特異な「姿勢図式」障害が出現する可能性が示唆された。
  • 會澤 房子, 相馬 芳明, 藤田 信也
    1992 年 12 巻 4 号 p. 351-355
    発行日: 1992年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
         実在語再帰性発話を呈した1例を経験した。Alajouanineは再帰性発話の経過について4段階説 : 1. 常同的言語表出の組成分化が生じる段階,2. 不随意発話をチェックする段階,3. 浮動的発話の段階,4. 言語常同症が完全に阻止される段階,を唱えているが,本例の再帰性発話はこの4段階説に忠実にしたがって改善した。
        症例 : 52歳,女性,右利き。CT所見で左被殻に高吸収域を認め,被殻出血と診断。
        言語症状経過 : 発症当初は発声・発語は全くなく,16日目から “おさえて” だけが再帰性に発話される。発症後1ヵ月の時点で初回の検査を行い, Broca失語と診断。その後直ちに訓練を開始したが,再帰性発話は流暢,その他の語彙は非流暢という特徴的な症状を呈し, 3.5ヵ月間持続した。実在語再帰性発話の経過報告例がほとんど無い現状において,貴重な症例と考えられたので,詳細な経過と併せて失語型,流暢性について若干の考察を試みた。
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