失語症研究
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13 巻, 4 号
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原著
  • 松田 実, 水田 秀子, 原 健二, 熊倉 勇美
    1993 年 13 巻 4 号 p. 279-287
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    語義理解障害を中核症状とする超皮質性感覚失語の3症例を報告した。 3症例とも fluent な自発語, 良好な復唱, 喚語困難, 単語レベルでの理解障害, 仮名よりも漢字に強い失読失書を呈した。3症例の言語症状の特徴は表出・受容の両面にわたる語彙レベルでの著明な障害に対して, 言語の音韻的側面や統辞的側面が保存されていることであった。表出のみならず, 理解においても語彙と統辞は分離可能な言語能力であると考えられ, 著者らの考案した syntax 理解カテストを紹介した。また, 語彙判断課題の成績より, 症例1の語義理解障害は心内辞書の語彙目録そのものが不安定になっていることによると考えられ, 症例2, 3の語義理解障害とは性質が異なることが示唆された。さらに, 病巣の分析により, 持続する語義理解障害には両半球性病巣の果たす役割が大きいのではないかと考えられた。
  • 斉田 比左子, 藤原 百合, 山本 徹
    1993 年 13 巻 4 号 p. 288-295
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    視野に入った文字を自動的に音読してしまう特異な現象を呈した症例を報告した。症例は80歳の右利き女性。発語不能と右不全片麻痺で発症。発症後約1ヵ月の転院時の言語所見では, 発動性の低下を前景に, きわめて乏しい自発語に対し復唱は良好で反響言語と理解力障害を認め, 混合型超皮質性失語と診断した。回復に伴い理解力が改善, 反響言語は減少し自発的語彙が増え超皮質性運動失語により近い病像に移行した。その回復過程で, 言語訓練中や検査時に, カレンダーや物品上の印刷文字などを前後の文脈と無関連に音読する現象がたびたび観察された。この音読現象は, 「強迫的音読現象」 (田丸ら1986)や「視覚性反響言語」 (波多野ら1987 a, 1987 b, 1988)に類似の現象と考えられた。本症例はMRIで確認された補足運動野を含む左前頭葉内側部に限局病変を有し, 同部位が本現象の発現に関与した可能性が示唆された。
  • 佐野 洋子, 加藤 正弘, 宇野 彰, 小嶋 知幸
    1993 年 13 巻 4 号 p. 296-305
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
        視床, 被殻を中心とした大脳基底核に責任病巣を求めた視床失語, 被殻失語の存在が提唱され久しいが, 視床や被殻を失語症発生の責任病巣とすることには議論があり, 必ずしも定説を得ていない。今回, われわれは, CT および MRI 所見で, 被殻を含むレンズ核, または視床に主病巣を認めた右利き左半球損傷 55名において, 失語症状の発生および経過を検索し, 次のような結論を得た。
        1. レンズ核に限局した病巣の症例では失語症状は残存しない。失語症状残存例では, 弓状束, 皮質下, 皮質への病巣の伸展や, 脳室拡大を伴っていた。このことからレンズ核は失語症の責任病巣とは考えにくい。
        2. 視床損傷で長期経過後も, きわめて軽い言語機能の障害を認めることがあるが, これらは失語症状とは質の異なるもので, 注意の障害など他の要因により説明することが妥当と考える。
        3. 被殻失語, 視床失語などの用語は, 再検討の必要があろう。
  • 馬淵 淑子, 奥田 聡, 村上 信之, 伊藤 栄一, 濱中 淑彦
    1993 年 13 巻 4 号 p. 306-312
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    64歳, 男性。右利き。左側頭葉後部白質および脳梁膨大部の梗塞により右同名半盲, 色彩呼称障害, 失読, および視覚失認を呈した。本例の視覚失語の特徴は絵カードの呼称が困難であるにも関わらず, 絵の異同弁別, 図形模写, 同一図形の matching などは可能であった点で, これは形態視が保たれていることを意味し, Lissauer の言う連合型視覚失認に一致すると思われた。また物品の指示, 絵カードのカテゴリー別分類, odd picture out test などが困難であったことから視覚失語とは鑑別された。従来連合型視覚失認の報告は両側性病変によるものが多いが, 本例は左側一側性病変と脳梁病変により連合型視覚失認を呈し, Lissauer の症例と責任病変が類似しているという点で興味深いと考えられた。
  • 井上 明美, 帯川 一行, 都筑 澄夫, 濱中 淑彦
    1993 年 13 巻 4 号 p. 313-322
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
        この論文で,脳損傷後に吃様症状が出現した2症例の発話症状を述べる。症例1は頭部外傷後に,症例2は脳血管障害後に吃様症状が出現した。
        発話サンプルは,日本音声言語医学会によって考案された吃音の分類にしたがって分析した。
        従来の研究論文では,「音・音節の繰り返し」「引き伸ばし」「阻止」「間」と「とぎれ」の5種類が報告された。われわれの2症例では,これら5種類に加えて複雑症状,連続症状,複合症状,連糸症状など 11~12 種類の症状が見られた。われわれの症例では運動症状が見られたが,「吃音に随伴する運動」とは異なっていた。
        従来の報告によれば,吃様症状のケースでは,適応性効果は見られなかったが,われわれの症例1ではこの効果が見られた。さらに,症例1においては吃様症状の改善過程で,発話症状の数の減少と単純な症例の割合が増加した。
  • 中嶋 理香, 洞井 奉子, 松井 明子, 中村 光, 濱中 淑彦
    1993 年 13 巻 4 号 p. 323-329
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    聴覚的理解力を知る目的の検査について, それらの類似性を検討した。用いた検査は失語症構文検査 (聴覚的理解) (以下 A-T) , 標準失語症検査 SLTA「聞く」の項目 (以下 S-T) , トークンテスト (以下 T-T) の下位項目である。 これらの検査の下位項目の成績を変数とし, クラスター分析法を用いて検討した。対象は失語症と診断された48名 (平均年齢 59.2 ± 12.4, 全例右利き, 右片麻痺 12例, 麻痺なし 36例, 発症後平均 18ヵ月, 脳梗塞 34例など) 。得られた樹系図から, 下位項目は第1, 第2クラスターを形成する項目およびクラスターを形成しない項目の三つに分けることができた。第1クラスターは, A-Tのレベル1, S-Tの単語理解, T-TのA項目でいずれも単語レベルの意味理解に関連する項目であった。第2クラスターは, T-TのA項目以外の項目であった。クラスターを形成しない項目は, A-Tのレベル2, レベル3, レベル4, 関係節項目, S-Tの短文の理解, 口頭命令項目であった。この結果から, 3つの検査はそれぞれ異なった特徴をもち, ひとつの検査を他の検査で代用することはできないことが示唆された。
  • 大山 博史, 北條 敬, 斉藤 雅一, 三浦 順子, 玉田 聖子, 目時 弘文
    1993 年 13 巻 4 号 p. 330-337
    発行日: 1993年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    典型的な連合型視覚失認を呈し, visual static agnosia (Botez ら, 1967 ; 以下 VSA) を伴う1例を報告した。症例は74歳男性, 右利き。脳梗塞後に6ヵ月以上持続する連合型視覚失認を生じ, 左上四半盲, 相貌失認, 純粋失読, 色名呼称障害, 地誌的失見当および軽度記銘力障害を合併した。視覚認知障害では, 患者の頭部を固定し物品を非日常的な角度で呈示すると, 視覚性呼称障害が著しく悪化する傾向を認めており, VSA が顕著であった。 MRI では両側後頭側頭葉領域を中心とした, 両側下縦束を含む病巣を認めた。本例の連合型視覚失認の発現は, 両側後頭—側頭視覚投射系 (腹側経路) の機能障害によるものと考えられた。また文献的考察を含めた検討により, VSA の発現には従来から重視されている膝状体外視覚系の機能による代償作用に加え, 外側膝状体視覚系から連続する後頭—頭頂視覚投射系 (背側経路) の機能による代償作用が一因をなしている可能性が示唆された。
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