失語症研究
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14 巻, 3 号
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原著
  • 溝渕 淳, 河村 満, 長谷川 啓子, 河内 十郎, 平山 恵造
    1994 年 14 巻 3 号 p. 161-169
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    右半球の広範な病変により顕著な失文法を呈した症例の格助詞産出障害を,通常の動作絵説明課題 (課題 I ) と,語順を指定した文枠組みに従って動作絵を説明させる課題 (課題 II ) を用いて検討した。課題Iにおける自発的語順は,いわゆる「典型語順」と一致し,語順構成能力が比較的良好であることが示された。課題IIでは,「典型語順」の文枠組みに比べて,逆の語順や目的格だけを扱う枠組みで誤りが増加し,助詞選択に典型順序の語系列が利用されている可能性が示唆された。また誤反応には一定のパタンがみられ,典型語順に対応するもっともらしい助詞のつながりが残存していること,およびそれが誤って喚起される可能性が示唆された。以上から,本症例では残存する語順構成能力を利用して,ある程度の助詞の選択は可能であるが,正確に選択し不適切なものを抑制する機能に障害があると思われた。この機能は,本症例では右半球に偏在している可能性が考えられた。
  • 兼本 浩祐
    1994 年 14 巻 3 号 p. 170-179
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    側頭葉切除術のための頭蓋内発作脳波同時記録にて得られた9回の反復型言語自動症の記録と, 脳波上これと類似の構造を示す5回の前兆の記録から, 反復型言語自動症が出現する脳波上の条件を検討した。さらに, 意識が保持されたまま, 言語自動症が出現する場合があることが確認され, その際には, 『当番, きやはった』という発作時の常套句は, 強迫的に表出されるのではなく, 口癖のようにふと口をついて表出されると感じられていた。このことから, 側頭葉てんかんにおける言語自動症は, 一種の不随意運動というよりも, 特定の体験に対する応答である可能性を指摘した。
  • 大森 晶子, 田川 皓一, 竹之山 利夫, 飯野 耕三
    1994 年 14 巻 3 号 p. 180-186
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    両側被殻出血による大脳性難聴,いわゆる皮質聾の一症例を報告した。症例54歳,男性,右利き。聴覚伝導路は側頭葉皮質下で両側性に損傷されており,発症後1年以上経過しても大脳性難聴は改善しなかった。日常生活のコミュニケーションでは筆談が多用されていた。患者は読話能力の新たな獲得への希望を持っており,その前段階訓練としてキュードスピーチを併用した訓練を実施した。訓練終了後,絵画語彙発達検査やトークンテストで得点の改善をみたが,単音節から単語,単文へと音の長さが長くなるにしたがい,正答率は低下した。最終的には,キュー・サインを併用しても読話は実用レベルに至らなかった。
  • 山本 弘美, 長谷川 啓子, 河村 満
    1994 年 14 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    呼称障害および漢字に選択的な失読失書を主徴とする単純ヘルペス脳炎後遺症,19歳の右利き女性例を報告した。発症4ヵ月後の100単語呼称検査の誤答率は86%で,著明な呼称障害が認められた。さらに,漢字にほぼ選択的な失読失書が認められ,発症14~15ヵ月後における漢字の音読の誤答率は57%,書き取りの誤答率は77%であった。呼称と漢字の読み書きの誤りには共通した特徴が認められ,意味性の語性錯語・錯読・錯書が多くみられた。また語義失語で特異的に生ずるとされる類音的錯書も認められた。病変は左側頭葉前端部・下側頭回前部~後部および右側頭葉前端部にみられ,呼称障害は左側頭葉下部前方部,漢字の読み書きの障害は左下側頭回後部の病変に関連して生じたと考えられた。これらから左側頭葉下部が語の意味機能に関与していることが示唆された。
  • 中村 光, 松井 明子, 檜木 治幸, 濱中 淑彦, 纐纈 雅明, 波多野 和夫
    1994 年 14 巻 3 号 p. 196-203
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    脳血管障害による左前頭葉および基底核を主体とした損傷により,失語とともに著明かつ特異な反響言語を呈した1例を経験した。症例は 63 歳右利き男性。右不全片麻痺。 MRI にて左前頭葉内側面,および左基底核前部から下前頭回後部,島,中心前回下部の一部を含み放線冠前部にもおよぶ領域に病変を認めた。本例の言語症状を詳細に記した後,以下の3点の特徴を抽出し,若干の考察を行い報告した。(1) 反響言語が自発話同様,非流暢性・努力性発話で,「努力性反響言語」 effortful echolalia (波多野ら 1994)であったこと。(2) 経過中,反響言語の量は了解障害の回復の程度ほど減少しなかったこと。(3) 反響言語が,反響言語なし (全失語) → 完全型,減弱型,部分型 (非定型超皮質性失語混合型) → 完全型,減弱型 → 減弱型,と変化したこと。
  • 水田 秀子, 田中 春美, 松田 実, 藤本 康裕
    1994 年 14 巻 3 号 p. 204-212
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    顕著に記号素性錯語 (paraphasie monémique: Lecours) を呈した失語症の3例について報告した。全例左被殻出血後に失語症を呈した。発話衝動の亢進はなく,著明な無関連錯語と保読を認め,喚語に際し顕著な記号素性錯語を認めた。意識は清明であり失見当識,病態否認などを認めず,知的能力も十分保たれていた。本報告の3例では,従来記号素性錯語の発現に関与するとされていた意昧での非失語的な要因は否定されると考えられた。語彙操作において,良好に保たれた皮質機能に対し,これを統御調節する基底核などの皮質下機能の障害が記号素性錯語の発現機序に関与している可能性を指摘した。
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