失語症研究
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14 巻, 4 号
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原著
  • 伊藤 皇一, 中川 賀嗣, 池田 学, 山田 典史, 橋本 衛, 田辺 敬貴
    1994 年 14 巻 4 号 p. 221-229
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    語の意味カテゴリー特異性障害を,語義失語像を呈する葉性萎縮4例およびヘルペス脳炎1例で横断的に,また,葉性萎縮3例で縦断的に検討した。全例に共通の障害部位は左側頭葉前方から中間部にかけてであった。9つのカテゴリー (野菜/果物,楽器,加工食品,スポーツ,動物,日常物品,乗り物,色,身体部位) に属する視覚対象計90個の呼称と指示を行なったところ,全例で両検査の成績は,色と身体部位で良好であったが,野菜/果物と楽器で不良であり,他のカテゴリーでは症例によりばらつきがみられた。葉性萎縮例につき語義の障害が進行した時点で,同様の検査を施行したところ,色と身体部分の成績は依然として良好であったが,他のカテゴリーでは成績の全般的な悪化がみられた。語義失語例では,色と身体部位のカテゴリーに属する語が保存されやすく,また,これらの語の概念・媒介系は左側頭葉前方から中間部にかけての領域とは異なる脳部位に存在することが推測された。
  • 斉田 比左子, 藤原 百合, 山本 徹, 松田 実, 水田 秀子
    1994 年 14 巻 4 号 p. 230-239
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    電文体発話を呈した左中前頭回後部の小出血の1例を報告した。典型的な電文体発話は我が国の Broca 失語ではまれといわれている。本症例は54歳,右利き男性で,発症時はBroca失語に相当する状態を呈し,その回復過程で,自発話のみに選択的に電文体発話が明確となった。特に,発話意欲の亢進した自発話に著明であった。書字には,電文体は認められなかった。理解力や喚語力は保たれ,文法処理能力も良好であった。本症例では,迅速かつ効率よく多くの情報を伝えようとする場合には助詞が省略され,その背景には文を構成し発話する過程で助詞の使用に関する何らかの機能不全が推察された。本症例は,文の構成に関与するといわれる左中前頭回後部に限局病変を有したことから同部位が文の構成過程に関与する可能性を示唆する1症例と考えられた。
  • 堀田 牧子, 竹内 愛子
    1994 年 14 巻 4 号 p. 240-247
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    助詞と述部の生成に障害を呈した伝導失語の症例を報告した。症例MKは59歳,男性,右利き。脳梗塞による左大脳半球病変で通常の伝導失語に加えて特異な文法障害を示した。MKの文法障害の特徴を情景画説明と動作絵説明の反応から分析した。その結果,1.生成された文は比較的長く,複雑な構造を持っていた。語順の混乱はなかった。 2.助詞の誤りは格助詞と副助詞「は」の置換で,自己修正行動を伴っていた。 3.述部では品詞の連鎖が短く,助動詞の使用は少なかった。述部の誤りは自己修正行動を伴い,その修正過程の特徴から,動詞の語幹からの音の置換,語幹以降の音の置換,文法表現内の誤り,に分類された。2の助詞の誤りは錯文法性錯語にあてはまると考えられた。1~3の結果よりMKでは文の構造的側面は保たれ,助詞と述部の生成の障害がみられることが示された。
  • 立石 雅子
    1994 年 14 巻 4 号 p. 248-257
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    慢性期の失語症患者90例 (失名詞失語, Broca 失語, Wernicke 失語各30例) ,健常者20例に対し,語連想課題として自由連想,統制した語連想,および選択課題の3課題を施行し,語連想成績における失語型別の差異について検討を行った。その結果,失語型によって語連想に差異が認められた。すなわち,失名詞失語は全般に語連想課題の成績が良好であるが,他の失語型とは異なり,刺激語と syntagmatic な関係にある語を刺激語との関係が強いものとして捉えていることが示された。Broca失語では全体の成績は失名詞失語と Wernicke 失語との中間に位置するが, syntagmatic な語と paradigmatic な語との出現頻度の比率などで失名詞失語より健常者と近似の成績を示した。Wernicke 失語は3つの失語型の中で最も健常者との隔たりが大きかった。さらにその差異は,それぞれの失語型における意味の場の構造の差異を反映するものであることが示唆された。
  • 會澤 房子, 相馬 芳明, 中島 孝, 吉村 菜穂子, 大槻 美佳
    1994 年 14 巻 4 号 p. 258-264
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    モーラ指折り法によって顕著な改善を呈したaphemiaの1例を報告する。症例は 61歳,男性,右利きで,右手のしびれ感で発症。 MRIで左中心前回皮質・皮質下に限局した梗塞巣を認めた。初診時 (発症後1ヵ月) の言語症状 : 発語は自発・復唱ともに非流暢で抑揚に乏しく,努力性・断綴性が強い。音の置換,歪み,音・音節の繰り返しが著明。訓練結果 : 訓練開始1年3ヵ月後から28~40音節文の音読にモーラ指折り法を導入した。その結果,以下のような変化がみられた。1.努力性緩和,断綴性の減少,10音節以上の音連結が可能,2.音の誤り,音・音節の繰り返し等の減少,3.指折り後,指折りなしで同一文を言わせると指折り時同様音の誤り減少,構音速度が増大。考察 : 指折りによって体性感覚その他のルートによる発話の駆動が発話を改善させた可能性がある。
  • 浅野 紀美子, 滝沢 透, 山口 俊郎, 波多野 和夫, 濱中 淑彦
    1994 年 14 巻 4 号 p. 265-272
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    小学校1年3学期,7歳6ヵ月時に発症した後天性小児失語症例を報告する。発症3ヵ月後の初診時,自発話は流暢で,構音障害,明らかな失文法語は見られなかった。語性錯語,字性錯語があり,相対的に保たれた聴覚的了解に比較した復唱の低下, conduite d'approcheが観察されたことから,成人失語症における伝導失語に近い状態像を示すと考えられた。本例は,文献の指摘するように,口頭言語についての予後は比較的良好であったが,教科学習において,躓きを示した。その中から,音読学習を取り上げ検討を加えた。仮名文字学習は時間をかけて成立したが,漢字学習は困難であった。それは主に,文字に音節を対応させることの困難によるようであり,背景には語彙学習の貧困さ,音韻操作能力の障害などの失語性要因の関与が考えられた。
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