失語症研究
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16 巻, 4 号
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原著
  • 飯干 紀代子, 濱田 博文, 猪鹿倉 武, 岡 明子, 池亀 千秋, 白濱 育子
    1996 年 16 巻 4 号 p. 295-301
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    Alzheimer 型痴呆 (以下,DAT) 患者11例のエピソード記憶について,感覚入力系の違いによる,直後再認と5分後再認を検討した。記憶テストは,視覚 (線画,図形) ,聴覚 (単語,楽器音) ,味覚,嗅覚,触覚の5つの感覚系,計7種類である。それぞれ,5項目の刺激課題と10項目の再認課題からなる。その結果,DAT群の直後再認率は,視覚 (線画,図形) ,聴覚 (単語) ,触覚,味覚,聴覚 (楽器音) ,嗅覚の順に高く,そのうち視覚と聴覚は5分後の再認率が有意に低下した。また,コントロール群との比較では,DAT群は直後再認,5分後再認ともにコントロール群に比べ視覚,聴覚,触覚が有意に低下したが,味覚,嗅覚はコントロール群と同等に保たれていた。このことからDAT群の嗅覚,味覚の記銘・保持能力は,他の感覚系に比べて保たれている可能性が示唆された。
  • 千葉 進, 畑中 裕己, 今井 富裕, 松本 博之, 氷見 徹夫
    1996 年 16 巻 4 号 p. 302-307
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    成人発症の副腎白質ジストロフィー (ALD) 症例を経験し,広範な脳白質病変に起因すると思われる聴覚失認の病態を検討した。症例は35歳の男性,右利き。視力,聴力低下で発症。意識は清明で痴呆はなかった。視力,聴力に中等度の障害があるが神経心理検査の施行は可能であった。皮膚描画試験陽性で消去現象を認めた。失語は認めなかった。音の方向性,語のアクセント,環境音認知の障害および最小弁別検査で正答率の低下があり,聴覚失認の合併が明らかになった。T2強調MR画像で両側後頭・側頭・頭頂葉の白質に広範な高信号域をみた。副腎皮質機能の低下はなかったが血漿極長鎖脂肪酸分析(sphingomyelin)で C24:0/C22:0 が高値を示し,ALDと診断した。極長鎖脂肪酸の蓄積により後頭・側頭・頭頂葉白質,皮質間連合線維が障害され,聴覚失認を含む多彩な高次脳機能障害が生じたと考えられた。
  • 栗崎 由貴子, 能登谷 晶子, 小山 善子, 鈴木 重忠, 藤井 博之
    1996 年 16 巻 4 号 p. 308-313
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    右被殻出血により,失語症と左片麻痺を呈した生来右利きの一症例を報告した。症例は発症時 49歳,男性。当科初診の発症から 16ヵ月経過時の言語症状は,軽度の言語理解障害および音韻性錯語を中心とした表出面の障害であった。とくに復唱障害が著しかった。発症から 40ヵ月経過時には,表出面で自発語や音読の改善は良好であったが,復唱の際に文レベルで,助詞が他の助詞に置換される障害が認められた。この傾向は発症から 55ヵ月時も同様であった。本例の復唱障害の誤り方は,波多野(1991)の錯文法性錯語を主症状とした伝導失語例に類似していた。
  • 前川 真紀, 種村 純, 金子 真人, 新貝 尚子
    1996 年 16 巻 4 号 p. 314-321
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    新造語ジャーゴン10例の経過を,臨床場面と2時点のSLTAにおける変化から分析・比較した。新造語ジャーゴンの改善経過については,新造語の減少と同時に意味性錯語や音韻性錯語が増加し,情報量の多い実用的な発話へと改善することが従来指摘されてきたが,われわれが対象とした10例では改善経過に明らかな差が認められた。複雑な内容の表現が可能となるまでの著明な改善を示した例はわずか1例であり,他の9例は簡単な対話が可能なレベルでプラトーに達していた。 SLTA総合評価尺度の変化でみると,全体的に理解面の回復は良好であったが,発話項目得点の改善は10例中6例に,書字は3例に認められただけであった。また,症例により発話障害のメカニズムが異なる点が新造語の持続状態や内容語の増加の有無から示唆された。
  • 石黒 聖子, 川上 治, 橋爪 真言, 山下 明子, 濱中 淑彦, 波多野 和夫
    1996 年 16 巻 4 号 p. 322-330
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
        Broca 領野を含む左前頭葉病変により超皮質性感覚失語を呈した症例を経験した。症例は59歳の右利き男性で,CTおよびMRIにより左中前頭回の一部,下前頭回後部および島前部の皮質,およびその皮質下白質に広がる病変が認められた。本症例は自発話,復唱は良好で構音障害はなく,単語の理解は保たれているが文レベルでの理解障害が認められた。なかでも音読は可能であるにもかかわらず意味理解が困難であるという,超皮質性感覚失語像を呈していた。本症例の理解障害は言葉の意味理解の障害のみならず統辞障害がその一因をなしていると考えた。
        本邦で近年報告が散見される前頭葉損傷による超皮質性感覚失語は (1) 反響反復言語が著しい症例 (2) 理解障害の著しい症例 (3) 理解障害が軽度な症例,と3群に分類できるのではないかという仮説を提唱した。3群のうち本症例を含め理解障害が軽度である (3) 群はかなり均質な言語的側面を持っていることがうかがえた。
  • 浮田 潤, 浮田 弘美
    1996 年 16 巻 4 号 p. 331-335
    発行日: 1996年
    公開日: 2006/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究は,日本語の単語の主観的表記頻度および適切性 (どの表記で見ることが多いか,またはどの表記が適切か) によって規定される語の表記型が失語症患者の単語音読にどのように影響するかを調べるものであった。非流暢型,流暢型10名ずつ計20名の失語症患者に,浮田ら(1991a) の分類に基づく漢字型の単語,ひらがな型の単語15語ずつを漢字表記およびひらがな表記したもの (計60語) を提示し,できるだけはやく音読するように求めた。その結果漢字型の語は漢字表記されたときのほうが,ひらがな型の語はひらがな表記されたときのほうがはやく読め,さらにひらがな表記ではひらがな型の語のほうが漢字型の語よりも音読に要する時間が短かった。この結果は,表記そのものの違いよりも,表記頻度や適切性が単語の音読という処理に効果を及ぼすことを端的に示すものと考えられ,表記にかかわる研究においてこれらの要因を考慮することの重要性が提起された。
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