失語症研究
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17 巻, 2 号
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シンポジウム
  • 岩田 誠
    1997 年 17 巻 2 号 p. 125
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
  • 船橋 新太郎
    1997 年 17 巻 2 号 p. 126-133
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    われわれは,ワーキング・メモリーを,情報の選択・収集機構,一時貯蔵機構,出力・提供機構,操作・処理機構から成る動的な情報処理システムとしてとらえ,それらの機構を反映するニューロン活動を前頭連合野で解析してきた。その結果,情報の一時貯蔵機構を反映する活動 (遅延期間活動) が前頭連合野の多数の細胞で見いだされた。また,複数の情報の保持に関連する活動も観察され,これは情報の一時貯蔵に関係する複数のニューロンの相互作用により生じることが示唆された。さらに,貯蔵されている情報の操作にはある種のフィードバック信号の関与が示唆され,この例として運動関連活動が考えられている。今後,選択・収集機構,操作・処理機構,出力・提供機構のさらに詳しい検討をすると同時に,それらの機構間のダイナミックな相互関係を検討することにより,ワーキング・メモリーに関係する神経機構を明らかにすることができると思われる。
  • 苧阪 満里子
    1997 年 17 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    ワーキングメモリは,課題の遂行と情報の保存が並列的に処理されるような過程において,その制御に関係していると考えられる。言語の情報処理においても,読みや聴き取りにより一時的に処理した内容を活性化状態のまま並列的に保持しつつ,次の情報処理に対処するということが重要である。本稿では,聴き取りの過程での処理と保存関係を想定して開発されたリスニングスパンテストを用いて,ワーキングメモリの脳内機構を探索するため,脳磁場計測 (MEG) を行った。結果,ワーキングメモリの負荷が大きくなると,脳磁場のアルファ波ピークが高い周波数の帯域に出現する傾向がみられた。このようなアルファ波ピーク周波数の変化傾向は,ワーキングメモリ容量の個人差により影響を受けた。さらにこの傾向は,主に左半球の側頭部,前頭部位に認められた。そこで左半球の側頭部,前頭部位にかけて,負荷に伴う脳内処理の変化が生起したことが推察できた。
  • 山下 光
    1997 年 17 巻 2 号 p. 140-148
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    A. D. Baddeleyによって提唱された (Baddeleyら 1974) ,ワーキングメモリー・モデルの成立と発展の過程と,臨床神経心理学との関係について論じた。Baddeleyがワーキングメモリーの3項モデル (ワーキングメモリーが,言語情報の一時的保持を行う音韻ループ,視空間情報の一時保持を行う視空間スケッチパッド,それらをコントロールする中央制御部の3つの下位システムから構成されている) を提案した契機になったのは,Warringtonら (1969) による短期記憶症候群の発見であり,当初は音韻ループと言語性短期記憶に関する研究が注目された。しかし,その後はワーキングメモリー (特に中央制御部) と,前頭葉機能の関係に関する研究が増加している。最近,脳科学における学際的な研究領域として認知神経科学が活況を呈しているが,ワーキングメモリーはそのもっとも重要なキーワードとして広く認知されつつある。
  • 相馬 芳明
    1997 年 17 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    作業記憶の下位システムである音韻性 (構音性) ループは,言語性の短期記憶 (STM) から発展した概念であり,内容的にはほぼ同一である。心理学領域,神経心理学領域のさまざまな知見から,音韻性ループの細分化の必要性が生じ,Vallerらは入力側の要素として音韻性短期貯蔵庫,出力側の要素として音韻性出力バッファーをそのモデルのなかに加えた。主として伝導失語からなる脳損傷例のdigit spanの結果から,このモデルの神経解剖学的基盤を検討した。音韻性短期貯蔵庫は上側頭回に,音韻性出力バッファーは中心前回に,音韻性ループは両者を結ぶ頭頂葉に,おのおの対応するとの仮説を提示した。今後は,健常者を対象としたPET賦活研究やfunctional MRIによる知見の集積が期待され,これらの研究と病巣研究が互いの欠点を補完しあうことが期待される。
  • 藤井 俊勝
    1997 年 17 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    今回著者は両側前頭葉梗塞後に,視野障害・運動麻痺・失調・視覚運動失調・感覚障害がなく,数字順唱・Tapping spanが保たれているにもかかわらず,電話がかけられなくなった症例を経験し,その症状を詳細に検討した。本症例の症状の本質は,ある程度の負荷の存在下における異なるモードへの情報変換過程の障害であると考えられた。この症状の説明にBaddeleyらによるWorking memoryモデルを適用した。すなわち,ある程度正常に機能している2つの補助システム (phonological loop/visuospatial sketchpad) と,障害された中央処理装置 (central executive) という考えで本症例の症状は説明可能であった。Central executiveの機能の1つとして,負荷存在下における異なるモードへの情報変換が想定され,また解剖学的には前頭前野の関連が示唆された。
原著
  • 西田 桂太郎, 矢野 和美, 荒井 寿美, 北村 淑子, 竹田 契一
    1997 年 17 巻 2 号 p. 164-169
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
        失語症者のイメージ能力を調べるために,失語症者33名と健常者7名を対象に,Tsvetkova (1972) の検査をもとにした標識描画検査を行った。同検査は,具体的対象物名 (みかん/りんご/すいか,ほか) とカテゴリー名 (鳥/動物/昆虫) ,およびそれぞれの組について3つの同じ図形を検者が呈示し,被検者が名前に従って図形から絵を完成するものである。描かれた対象独自の属性—標識の数を重症度別群および対照群 (非失語群) 間で比較した。
        (1) イメージできる標識数は失語症の重症度と関連していた。被検者は,3つの同じ図形を標識のイメージを検索しながら違ったものにしあげなければならない。その随意性の高い選択の操作と語想起機能とのかかわりが想像された。 (2) 軽度失語群と対照群 (非失語群) では,具体的対象物名条件とカテゴリー名条件での産生標識数の相関がみられないことより,中等度失語群にないイメージ操作のしかたの変化が起こっていることが示唆された。
  • 福永 真哉, 安部 博史, 服部 文忠, 薛 克良, 亀井 博之
    1997 年 17 巻 2 号 p. 170-177
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    われわれは,日本語と韓国語併用者の右利きの交叉性失語の1例を報告した。症例は75歳の男性で神経学的所見は,軽度の左不全片麻痺および全失語を認めていた。頭部MRI検査では,右中大脳動脈領域に広範な梗塞巣を認めた。言語所見は,自発話で「aigo : 」のみの残語を呈し全失語と診断された。本症例の言語習得タイプは等位型で,言語回復過程は,日本語の聴覚的理解のみが改善し,韓国語では改善がみられなかったことから,日本語の選択的回復形式と判断した。本症例の言語症状の改善の要因は, (1) 自然回復の可能性, (2) 日本語の習熟度が,韓国語の習熟度より高かった可能性, (3) 日本語のみの言語訓練を受けた影響の3つが考えられた。本症例は,日本語および韓国語で右利き交叉性失語を呈しており,両国語の言語機能は,右半球に側性化していたと考えられた。
  • 高橋 伸佳, 河村 満, 師尾 郁, 旭 俊臣
    1997 年 17 巻 2 号 p. 178-184
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    左前頭葉病変によって超皮質性感覚性失語を呈した2症例を報告し,前頭葉内の責任病巣ならびに病態機序,特に前頭葉病変と言語理解障害との関連について検討した。2症例の共通病変は左側脳室前角前外側の中前頭回深部白質にあり,同部の障害によって超皮質性感覚性失語が発現する可能性が示唆された。超皮質性感覚性失語を構成する個々の言語症状のうち,前頭葉病変との関連でもっとも問題となるのは中等度以上の言語理解障害である。自験2症例のうちSPECTを施行した1例では,左前頭葉の比較的広範な領域に血流低下が認められた。最近,左中・下前頭回病変により中等度以上の言語理解障害が生じうることが徐々に示されつつあり,自験例のSPECT所見を考慮すると,左中前頭回深部白質病変によって左中・下前頭回の比較的広範な領域の機能低下が生じ,その結果,言語理解障害が生じた可能性が考えられた。
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