失語症研究
Online ISSN : 1880-6716
Print ISSN : 0285-9513
ISSN-L : 0285-9513
18 巻, 4 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
イブニングセミナー
  • 久保 浩一
    1998 年 18 巻 4 号 p. 263-264
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
  • 鳥居 方策
    1998 年 18 巻 4 号 p. 265-270
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
        個々の視覚失認症状を有する患者は右または (および) 左の後頭葉病巣を有し,これに基づくいくつかの視知覚障害を併せ持っている。本稿では個々の視覚失認症状とこれに相当すると思われる視知覚障害との関係を,われわれがこれまでに報告した 13症例において検討した。
        (1) 相貌失認の患者では未知相貌の弁別・学習障害が認められることが多いが,両者が解離する症例は決して少なくない。 (2) 視覚性物体失認の患者は連合型症例をも含めて,図形模写や錯綜図認知の障害を呈することが多い。しかし,これらの視知覚障害によって失認症状を説明することはできない。 (3) 色彩失名辞の患者には微妙な色覚の歪みが観察されるが,この色覚の歪みは色彩失名辞だけと関連している訳ではない。
        視覚失認症例における視知覚障害の検討は今後さらに検討されるべきものである。
  • 種村 純
    1998 年 18 巻 4 号 p. 271-276
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    標準高次視知覚検査の標準化データ 335名の解析結果から視覚失認,視空間失認の各症状間の関係を検討した。症状合併データのクラスター分析および検査得点の因子分析から,症状の分布にかかわる主な要因として (1) 物体,画像,色彩,シンボルの認知, (2) 図形・相貌の認知,が抽出された。これら両要因の組み合わせから視覚失認症状の重症度系列と,これらとは独立して半側空間無視,相貌失認が位置づけられた。
  • 若井 正一
    1998 年 18 巻 4 号 p. 277-281
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    症例は右利き男性。60歳時より相貌失認にて発症。その後,緩徐に進行する物体失認,画像失認,大脳性色盲などの視覚失認および左半側空間失認,精神性注視麻痺,視覚性注意障害などの視空間失認を呈した。図形の模写やマッチングが困難であったことより,視覚失認は統覚型であった。その一方で,末期に至るまで記銘力障害,失語症,痴呆症は顕在化しなかった。画像的には,右半球優位の大脳萎縮,血流低下,代謝低下を認めた。以上の臨床経過および画像所見から,posterior cortical atrophy の1例であると考えた。神経心理学的な注目点は以下の2点である。 (1) 統覚型視覚失認の発現に視空間失認が大きく関与していたこと。 (2) 著しい視覚失認,視空間失認の存在にもかかわらず,人や物にぶつかることなく歩行が可能であったことであった。
  • 小山 善子, 鳥居 方策
    1998 年 18 巻 4 号 p. 282-287
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
        近年,相貌失認はその非均質性が指摘されていて,視覚性物体失認同様,相貌失認も統覚型と連合型の2型に分類され論じられる。われわれは統覚型相貌失認と思われる症例を報告した。本例では右後頭葉一側性損傷時には相貌失認は出現しなかったが,10ヵ月後左後頭葉のほぼ対称部位に同様の脳内出血を起こした後,著明な相貌失認と大脳性色覚喪失が出現した。本例の相貌失認の症候学的特徴は次のとおりである。 (1) 熟知相貌に対する認知障害は重度かつ持続的。 (2) 熟知相貌に対するcovert認知は認められない。 (3) 連合型では視覚対象の認識障害が顔特異性face-specificであるが,本症例では顔以外の視覚対象に対するクラス内認識も決してよくない。 (4) 未知相貌の弁別・学習障害は連合型に比し高度。 (5) 視知覚障害は連合型より高度であった。
        標準高次視知覚検査 (編日本失語症学会) の成績結果からも,上記の特徴をとらえることは可能で,本検査法を用いて統覚型相貌失認と連合型相貌失認とを峻別することも十分可能であると思われた。
  • 大東 祥孝
    1998 年 18 巻 4 号 p. 288-292
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    臨床神経心理学の立場から,Farahの視覚失認論を吟味することを通して,認知心理学的アプローチの意味を検討した。 (1) 統覚型と連合型の視覚失認は,PDP (並列分散処理) の視点からは不可分離であることになるが,現実には,視覚失認の「意味型」ないし「象徴型」と考えられる症例報告があり,両型の区別はなお臨床的に意義を有すること, (2) Farahが試みている,背側型同時失認と腹側型同時失認の区別は,同時失認の異質性を明確にしたという点では評価できるけれども,本来の「Wolpert型同時失認」の意義を無視してしまっており,時間的空間的同時性とともに,「認識論的同時性」の障害にも留意すべきであること,を指摘し,今後,認知心理学と臨床神経心理学の双方にとって,臨床的事実に対する認識が真の意味で共通のものとなってゆくことが必須であり,絶えず緊密な対話を続けてゆくことが重要であることを強調した。
原著
  • 仲秋 秀太郎, 吉田 伸一, 古川 壽亮, 中西 雅夫, 濱中 淑彦, 中村 光
    1998 年 18 巻 4 号 p. 293-303
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    軽度の Alzheimer型痴呆 (DAT) 9名と中等度の DAT 9名を対象に遠隔記憶の検査成績を検討した。自伝的記憶の検査 (autobiographical incidents memory, personal semantic memory) は Kopelman ら (1989) の検査課題を一部修正して用いた。また,社会的な出来事の検査として Kapur ら (1989) の考案した Dead/Alive test を本邦でも使用可能となるように修正し用いた。その結果,自伝的記憶の検査および Dead/Alive test の検査の双方とも,近い過去に比較して遠い過去に関する記憶の検査成績が良好であるような時間的な勾配が DAT の2群に認められた。一方,自伝的な記憶の検査においては軽度と中等度の DAT の検査成績に乖離が認められたが,Dead/Alive test においては DAT の2群の成績に乖離を認めなかった。この結果には,自伝的記憶と Dead/Alive test の解答方法の相違 (再生と再認) が関与しているだけではなく,複雑な階層構造を持つ自伝的記憶が軽度のDATに比較して中等度の DAT においてより障害されやすいことも関連すると考えられた。
  • 佐藤 文保, 荒津 多恵, 渡部 信一, 田川 皓一
    1998 年 18 巻 4 号 p. 304-308
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    著明な呼称障害を呈したにもかかわらず,改善過程で書称を頻繁に用い,呼称に結びつけた感覚性失語の1例を経験した。画像診断により左の側頭葉から頭頂葉にかけての皮質,および皮質下に広がる脳梗塞が確認された。神経心理学的には発話は流暢であったが,錯語が多く,聴覚的理解は著明に障害されていた。物品の呼称や復唱,音読,書字も重度に障害されていた。単語レベルでの読みの理解は比較的保たれていた。訓練開始後,約2ヵ月経過したころから自発的な書称を手がかりとした呼称が目立つようになった。それに伴い呼称が困難なものでも書称することで呼称が可能となる場面が観察された。呼称障害は,意味処理から音声化されるまでの経路が障害されて起こると考えられている。本例の場合,その経路が障害されたために,書称という非音声的な手段を用いて呼称が行われたと考えた。
  • 岩田 まな, 佃 一郎, 山内 俊雄
    1998 年 18 巻 4 号 p. 309-314
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
        著者らは SLTA 6段階評価の段階3,4で表される言語機能には種々の重要な意義があることを報告してきた。すなわち, (1) 段階3,4は失語症状回復の過程を表す部分であり,以後の改善の予測ができる。 (2) 長期経過において症状の悪化なのか変動性なのかの判断材料となる。 (3) 重度失語症者のコミュニケーション能力を表す部分である。
        本稿では段階3,4の機能が日常のコミュニケーションにどのように関連しているかを検討するために SLTA と CADL の成績を比較した。
        その結果,理解面においては SLTA のほうが CADL の成績より高く,SLTA で高得点をとっても日常生活上は支障があることが予測された。表出面においては逆に CADL のほうが得点が高かったが,段階3,4の成績を加味すると CADL との相関が高くなった。このことから失語症患者は段階3,4のレベルでコミュニケーションをとっていると考えられた。
  • 高月 容子, 博野 信次, 山下 光, 藤森 美里, 森 悦朗
    1998 年 18 巻 4 号 p. 315-322
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病 (AD) 患者の言語障害を WAB 失語症検査の日本語版を用いて検討した。対象は NINCDS-ADRDA の Probable AD の基準を満たした連続症例のうち右利き,教育歴6年以上,80歳以下の156名と健常高齢者16名である。患者群の失語指数 (AQ) の平均値±SD は 78.9±11.1,健常高齢者群は96.0±2.9であった。患者群の AQ とすべての下位項目の成績は健常高齢者群に比べて有意に低く,MMSE,ADAS,CDR と有意に相関していた。AD 患者の言語障害には流暢な発話,比較的良好な復唱と聴理解,顕著な喚語障害と読み書き障害という特徴があった。対象患者のうち123例は健忘失語,14例は Wernicke失語,11例は超皮質性感覚失語,2例は伝導失語に分類されたが,6例は古典的な失語の範疇ではとらえられなかった。
  • 原田 浩美, 中西 雅夫, 吉田 伸一, 濱中 淑彦
    1998 年 18 巻 4 号 p. 323-331
    発行日: 1998年
    公開日: 2006/04/26
    ジャーナル フリー
    意味カテゴリー (SC) 別呼称能力の年齢別変化を検討する目的で,年齢別 10群の健常者 117名 (小学2年生から60歳代) を対象として,30 SC からなる 300語呼称テストを行った。このテストの各群の平均成績は,小学2年生では最低の 245.2語で,以後増加し 30歳代では 296.9語に達し,以後減少し 60歳代では 288.0語であった。5 SC は小学2年生以前に語彙獲得され,これらには加齢による語彙減少はなかった。13 SC では高校3年生以降に語彙獲得された。加齢による語彙減少は 60歳代で 6 SC に認められた。意味記憶障害・失語の症例で特異性障害がみられた SC と,語彙獲得年齢の遅延 (中学2年生以降) または加齢による語彙減少との関連性を検討したところ,生物カテゴリーでは関連性は否定され,非生物カテゴリーでは否定できなかった。
失語症全国実態調査報告
feedback
Top