漢字に選択的な読み書きの障害を示した,68歳の書道教師の例を報告した.患者は失語症をもたず,痴呆でもなかった.神経学的検査で軽度の記銘力障害および左の顔面,上下肢の感覚障害が認められた.
CTで右側頭葉内側下面にX線低吸収域がみられた.この病巣は磁気共鳴像によっても検出された.
患者はスプーンで食べる,櫛で髪をとかす,ボールを蹴るなど日常生活動作の幾つかを左で行い,完全な右利きではないと思われた.
本例の漢字の読み書きの誤り方は一元的ではなく,この特殊な失読失書の機序は,漢字の意味的機能の障害という観点のみでは説明が困難であるように思われた.
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