失語症研究
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7 巻, 4 号
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原著
  • 内山 千鶴子, 内山 伸治, 鈴木 重忠, 倉知 正佳
    1987 年 7 巻 4 号 p. 260-265
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
         左利きの素因のある右利きの54才の男性に失読失書が認められたが,音声言語の障害は極く軽度にしか認められなかった.CT では左の Broca 領を含む前頭葉から角回を含み後頭葉にかけての広範な出血性梗塞を示した.神経心理学的には右片麻痺,右同名性半盲,観念運動失行,構成障害,色彩失認,手指失認,失算,地誌的失見当識が認められた.
        発症1ヵ月後には,聴覚的理解と語想起に軽度障害を示したが,読み書きと模写に重篤な障害が認められた.3ヵ月後には,音声言語の障害は認められなかったが,読み書きの障害は残存していた.読みの障害は仮名に著明で運動覚性促通は認められなかった.
        本例は病変の広がりに比し音声言語の障害が軽く,音声言語の半球優位性は右か両半球に,文字言語の障害は発症8ヵ月後も残存していたので,文字言語の半球優位性は左半球にあると想定でき,音声言語と文字言語の半球優位性が分離している症例と考えられた.
  • —特に眼球運動の異常について
    高橋 洋司, 田澤 豊
    1987 年 7 巻 4 号 p. 266-272
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    左側の半側空間無視 (USN) を呈した右側視床出血を有する47才の右利きの女性の例を報告した.ルーチンの神経心理学的検査法では,USN の徴候は発症約4ヵ月で消失したが,仮性同時失認の徴候が遷延して認められた.頭部 CTscan では,出血が右側視床を中心に外側は内包にまで及び,内側は脳室内に穿破している所見が得られた。この所見は,右側視床の後内側部が USN 発現に大きな役割を演じているという最近の考え方を支持しており,また内包後脚が USN 発現に参画している可能性をも示唆している. 左側すなわち無視の存在する側への衝動性および滑動作追従運動は,病初期と回復期を通じて何等かの異常が認められた。このうち衝動性眼球運動の異常は,前頭眼野から下行する衝動運動線維系の損傷の結果生じたとも考えられる.一方,衝動性および滑動性追従運動などの視覚誘導性眼球運動は,USN による視覚入力の欠如の結果障害された可能性の方が強く示唆された.
  • —左側例と右側例との比較—
    鶴岡 はつ, 千葉 文恵, 新井 弘之, 宮川 照夫, 鹿島 晴雄
    1987 年 7 巻 4 号 p. 273-281
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
         血腫量10 ml 以下の左—右視床出血例の構成機能を分析し,その量的,質的な側面および視床と皮質の線維連絡について検討した。
        左46例,右31例を1群 (中部限局) ,2群 (後—外方,脳室内穿破ナシ) ,3群 (後—外方,脳室内穿破アリ) ,4群 (前方) にわけ,平均35病目に WAIS 動作性,Coloured Matrices,Benton 視覚記銘検査Aを施行した.
        量的には左,右病巣で差はないが3群が最も低値である。質的には左群で “思考低下” , “無反応” および “省略” が,右群では “不注意” 及び “ゆがみ” が多くみられ, Hartje12) らの左右半球病巣より出現する構成障害の差異と一致する点があり,視床と皮質の線維連絡の障害によると考えられた.
        また,右群で “誤り” の左側図形と右側図形の選択比率は 1.0 : 3.1 で,これは植村ら25) の云う視床と劣位半球の統合による非言語性抽象概念の形成 (視空間・認知等) を裏付けるものと考える.
  • 吉岡 豊
    1987 年 7 巻 4 号 p. 282-288
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
         従来の研究から文照合法における文理解の過程として,(1) 文の解読,(2) 絵の解読,(3) ,(1) と (2) の比較,(4) 応答,の4段階が報告されている.本研究では文照合法と場面作成法とを用いて,失語症者の文照合法における文理解障害がどの段階で生じているのかを検討した.対象は失語症者26名であり,課題文は行為者—対象関係を含む能動文であった.
        実験の結果,文照合法で文を理解できなかった者には,場面作成法で文を理解できなかった者とできた者とが認められた.場面作成法が文照合法の (1) (2) 段階についての情報を収集すると思われることから,この結果は,文照合法において文理解障害を示す失語症者の中には,解読の段階 ( (1) (2) 段階) に既に障害が認められる者と,比較・応答段階 ( (3) (4) 段階) に障害のある者とが存在する可能性を示唆するものと考えられた.
  • —脳損傷側の左右差,臨床症状との対応,及び遂行パターン差の検討—
    坂爪 一幸, 平林 一, 遠藤 邦彦, 牧下 英夫
    1987 年 7 巻 4 号 p. 289-299
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        臨床的に簡便なヴィジランス検査として,等速打叩課題を考案し (坂爪ら, 1986) , 多数の脳損傷例に施行した (333例) .
        被験者に,健側に持った鉛筆で,机上を毎秒一回の速さで叩くように教示した.検者は,ストップウオッチをみながら,10秒問を1ブロックとして打叩音を計数し,計30ブロック (5分間) を記録した.本課題の指標として,30ブロックの平均打叩数 (反応傾向度) と SD (反応動揺度) を用いた.もしヴィジランスに障害があれば課題の遂行に動揺がみられるものと考えた.
        結果は以下のとおりであった.(1) 本課題に困難を示した者は,精神機能面になんらかの障害を伴っていた右脳損傷群で特に多かった (約80%,他の群では約50%弱) .(2) 概して精神症状を随伴すると困難を示し,特に左半側無視と精神症状を合併していると,本課題の遂行が困難な傾向が強かった.(3) 遂行障害のパターンには,出現率の高い特定の二型が観察された.一つは,「高傾向高動揺」 型で,もう一つは 「標準傾向高動揺」 型であった.
        以上の結果から,ヴィジランス機能は,脳損傷時に低下し易いが特に左脳損傷よりも右脳損傷の際に障害され易く,また本課題の遂行パターンは,「固着性」 と 「喚起性」 という基本的注意機能のバランスに依存していることが示唆されると思われた.
  • 村田 泉, 藤村 亜紀, 下村 隆英, 竹田 契一
    1987 年 7 巻 4 号 p. 300-306
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
         失語症者の聴覚的理解力の回復過程について,脳血管障害性失語症者22例 (全例右利き,左脳損傷) の発症後6ヵ月以降の経過を検討した.標準失語症検査 (SLTA) および失語症7段階評価を指標として用い,以下の知見を得た.
        (1) 発症後6ヵ月目で認められた聴覚的理解力の障害は,重症度を変えることなく発症後1年半~2年目まで継続する例が多く,発症後6ヵ月目の評価が,予後推測上重要であると考えられた.
        (2) 発症後6ヵ月以降,重症度を変える程の改善はほとんどの症例で認められなかったものの,SLTA 成績および失語症7段階評価上の改善は認められた.
        (3) 発症後6ヵ月以降,失語症7段階評価上改善が一時期停滞した後に再び改善を示す例が認められた.失語症者の回復過程について,長期間にわたって症状の変化を検討していくことが重要であると思われた.
  • 脇阪 圭子, 山鳥 重, 遠藤 美岐
    1987 年 7 巻 4 号 p. 307-312
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        語の理解障害を伴なった anomia の一例について報告した.症状は,一年以上にわたって安定したものであった.患者は63才,右利き,左側頭葉出血で発症し Wernicke 失語を生じたが,次第に軽快し,発症一年後には以下の特徴を残すのみとなった.(1) 自発語における喚語困難,(2) カテゴリー間で差の明らかでない呼称障害,(3) 語の理解の障害もカテゴリー間で差はなかったが,意味的に似通った語との間で混乱がみられた,(4) 呼称を誤る語と理解できない語は,テスト場面で一定でなかった.
        本例の選択的な語の操作の障害について,(i) 語の semantic memory 構造の崩壊, (ii) word store への接近過程での障害,の二つの発症メカニズムが考えられた.
        また,語彙と統語の操作は,ある程度分離可能な心理過程てあり,語の操作障害は左側頭葉病巣と何らかの関連性を持つことが示唆された.
  • 堅田 順子, 深田 倍行, 荒賀 茂
    1987 年 7 巻 4 号 p. 313-318
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        失語症者の予後研究の多くは,訓練開始時と終了時における SLTA などの言語検査の成績の差が重視されてきたが,我々は,言語検査によって評価された言語能力が,必ずしも日常生活のコミュニケーション能力と一致しないと考えており,実用的コミュニケーション能力 (CADL) の必要性を感じている.そこで,失語症者の長期予後について,訓練終了時における言語能力,及びコミュニケーション能力と,社会復帰後におけるコミュニケーション能力との関係を調べた.
        対象は,昭和58年から61年までの3年間に当院にて言語訓練を受けた失語症者 83 例中,CADL 検査の家族質問紙に回答のあった62例で,平均年令59.8歳,男性38例,女性24例,失語のタイプは,ブローカ失語16例,ウエルニッケ失語15例,伝導性失語3例,全失語9例,超皮質性失語1例だった.
        その他重度失語症者の問題点についても,あわせて検討した.
  • 内山 千鶴子, 内山 伸治, 倉知 正佳
    1987 年 7 巻 4 号 p. 319-325
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
         左の後頭頭頂側頭葉の梗塞により Luria の Semantic Aphasia と考えられる症状を示した症例を報告した.神経心理学的には観念運動失行,構成障害,構成失書,軽微な左右障害と文の理解障害が認められたが,語彙の減少や記銘力の障害はなかった.
        理解障害を示した文は,同時空間統合能力を必要とする論理—文法構造をもつ文であった.本例は論理—文法構造を持つ文を解読する際,名詞の語順を手掛かりにしており,これは,文を構成する要素を同時的な相互関係に配置てきないため,また,文の直接的な印象を抑え,本質的な意味で理解することができないためと考えられた.このような障害は言語のみだけでなく,数字や時計や方角などの解読にも認められた.また,構成障害や左右障害などの空間機能の障害が改善しても,なおこれらの障害は認められたので,同時空間統合能力をより高次の symbolic level に転換できないために生じたと考えられた.
  • 亀井 尚
    1987 年 7 巻 4 号 p. 326-331
    発行日: 1987年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    ITPAの下位検査である 「絵の理解」 と 「絵の類推」 を脳損傷による失語・非失語・痴呆患者に施行し, 意味の範疇的知覚を検討した.両検査の成績を比較してみると,非失語・失語・痴呆の順に成績が下降する現象が見られた.失語の場合, 「絵の類推」 の能力が低下すること,及び 「絵の類推」 における誤り方の特徴から,意味の知覚過程でより直観的な処理方式に依存する傾向が顕著であった.
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