失語症研究
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9 巻, 4 号
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原著
  • 橋本 佳子, 進藤 美津子, 田中 美郷
    1989 年 9 巻 4 号 p. 227-236
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
         「日常身のまわりにあり,わかりやすい」と考えられた20音からなる独自の環境音認知検査を試作し, 結果を解釈する上で留意すべき点について検討した.健常群50名と失語症群40名に (a) 直接応答法 (口頭,書字,動作表現) ,(b) 間接応答法 (1/4選択による絵の選択) の両応答法によって検査を施行した.
        検査の結果,健常者でも各検査音についての (1) 聴覚的な特徴の違い, (2) 年代の相違による日常性の違い, (3) 知識の違い, また直接応答法では (4) 表現力の違いなどによっては, 誤りが生じる可能性があること,一方失語症者では (1) ~ (4) に加えて, 直接応答法では失 語症による応答障害,間接応答法でも意味論的レベルの認知障害が影響を与える可能性のあることがわかった.臨床検査では直接, 間接の両応答法を用いることが必要であり, 反応潜時も認知プロセスの時間的側面を評価する上で有用である.個々の認知障害は, 誤りの要因を十分に検討した上で判断する必要がある.
  • 藤田 郁代
    1989 年 9 巻 4 号 p. 237-244
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
         Broca 失語,Wernicke 失語,全失語の文の産生障害と回復過程を分析し,次の結果を得た.(1) 各失語群の文の産生力は構文処理の階層に従って崩壊し,回復した.文の産生レベルは Broca 失語と Wernicke 失語ではほとんどの者が回復したが,全失語では回復しなかった.(2) 産生できる文のレベルは失語群によって異なった.治療終了時には,Broca 失語は文頭が動作主格でない可逆文の産生,Wernicke 失語は補文を特つ可逆文の産生か困難であった. Wernicke 失語はこれらの文の産生が困難な場合, 他のより易しい文型を代用して産生した. (3) Broca失語と Wernicke 失語の文の誤りは名詞や動詞を基本語順に構成することが可能となリ,次いで,助詞の付与が可能となる方向に回復した.Broca失語は基本語順の構成の誤り, Wernicke 失語は助詞の付与の誤りが特徴的であった.
        以上から, 各失語群の文の産生力の障害の性質や予後は異なることが示された.
  • 伊藤 皇一, 田辺 敬貴, 奥田 純一郎, 澤田 徹, 白石 純三, 池尻 義隆, 新居 康夫, 中谷 進
    1989 年 9 巻 4 号 p. 245-254
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    複雑刺激により発現するいわゆる触覚性消去現象を呈した脳梗塞例8例につき,その責任病巣を消去現象の発現機制との関連において検討した.方法は触覚素材の内容の弁別に関わる複雑課題検査によった.その結果,知覚レベルでの触覚刺激間の競合により生じる消去現象は対側の下頭頂小葉を含む病変において発現した.一方,認知レベルでの刺激間の競合により生じる消去現象は, 頭頂葉病変以外に,前頭葉病変,側頭—後頭葉内側病変などでもみられ,いずれも主病変と対側に発現した.以上より,いわゆる触覚性消去現象は,2つの異なる消去現象の発現レベルによってその責任病巣も異なると考えられた.本結果から,Schwartz らの報告した前頭葉病変で生じる左側の触覚性消去現象は, 認知レベルでの刺激間競合により生じている可能性があり,彼らの離断説類似の仮説の矛盾点を指摘した.
  • 脇阪 圭子, 大角 幸雄, 山鳥 重
    1989 年 9 巻 4 号 p. 255-261
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    症例は67才,右利き,男性.右半球に陳旧性病巣を持ち,左縁上回病巣の梗塞で失語症を呈した.症状は,理解良好で,発語,特に呼称・復唱など意図的な発語に障害が顕著であったことから伝導失語と診断した.しかし,音の誤り方は特異で,目標語の語尾に新造語が付加され,音節数の増加したジヤーゴンになることが多かった (例 : サイフ…サイフサグ) .これらのジヤーゴンの成立機転について若干の考察を加えた.そして,右半球陳旧性病巣の関与が無視できない可能性を指摘した.また,伝導失語弓状束原因説についても考察を加え,弓状束説では最近の音韻学的データの多様性を矛盾なく説明するのは困難であるとの考えを述べた.
  • 元村 直靖, 瀬尾 崇, 堺 俊明, 山鳥 重
    1989 年 9 巻 4 号 p. 262-269
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    顔面の系列動作における意図性保続について検討を加えた.顔面の系列動作テストの結果,口腔顔面失行17例のうち 10 例に運動の意図性保続が観察された.意図性保続は反応の様式から,即時型および遅延型の2種類に分類することが可能であった.また,口腔顔面失行を流暢型失語を伴う群と非流暢型失語を伴う群に分類し,両群にみられる意図性保続の性状を比較したが,即時型および遅延型の保続の出現頻度には明かな差異は認められなかった.さらに, 呼称課題における言語性保続と顔面の系列動作で観察された運動保続との間には有意な連関は認められなかった. CT 上の病変は左前頭葉, 島, 頭頂葉および側頭葉にみられたが, 前頭葉病変を伴わない病変のみでも意図性保続け観察された.顔面の系列動作における意図性保続にも言語性の保続と同様に遅延型の保続が観察されたことより, その成立の機序としては運動の記憶痕跡の抑制説が最も妥当な仮説であると考えられた.
  • —仮性球麻痺例との発話モダリティによる比較—
    金子 真人, 宇野 彰
    1989 年 9 巻 4 号 p. 270-278
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    被殻出血により発症し軽微な構音の障害のみを呈した一例を経験した.本症例は発症時に軽度の失語症を認めたがその後消失し,構音面にのみ障害が認められた.本症例に対し以下の2点の目的から検討を加えた.第一に,構音の発話モダリティによる成績に差が認められないかが問題とされた.第2に,本症状の原因疾患および病巣が問題とされた.以上の点を検討するために,仮名音読,漢字音読,呼称を行ない発話にかかる持続時間の変動性係数が求められ,失語を認めない仮性球麻痺例と比較した.その結果,本症例の発話モダリティ間に有意な差が認められ,構音に音韻処理過程の障害が推察された.また,本症例は皮質下性失語からの移行型の可能性が示唆され,純粋語唖に近縁の一型ではないかと推察された.
  • 大西 幸子, 小島 千枝子, 横地 健治, 相羽 紅美
    1989 年 9 巻 4 号 p. 279-284
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    左中大脳動脈閉塞症による小児失語例で,後に重篤な文字習得困難を呈した現在9歳女児の症例を報告する.発症は1歳4ヶ月.発症当初はほとんど緘黙状態だったが,早期に失語症状は回復した.しかし普通小学校入学後,文字習得困難をきたした.8歳1ヶ月時の WISC 知能診断検査では,動作性,言語性 IQ ともに正常域だった.なお音声言語面,視覚認知面には問題をみいだせなかった.3年間文字指導を行なってきたが,9歳になった現在もなお明らかな読字書字困難が残存した.本例では角回部周辺に到る病巣が読字書字機構の発達に影響を与え,視覚系路と聴覚系路を統合させる過程が障害されたと思われる.
  • 下村 辰雄, 鈴木 孝輝, 高橋 暁
    1989 年 9 巻 4 号 p. 285-291
    発行日: 1989年
    公開日: 2006/07/25
    ジャーナル フリー
    左後大脳動脈閉塞症により失読失書を呈した1例を報告した.症例は53歳,男性,右利き.神経心理学的には失読失書,色彩失語を語めた.失読は中等度で,運動覚促通の効果は認めなかった.失書は重度で,自発書字,書取,写字ともに障害されていたが,写字障害は他に比較すれば良好であった.発症1ヵ月半頃には失読と写字障害は改善し,失書と色名呼称障書のみとなった.この経過中,脳血管撮影では左後大脳動脈閉塞を語めたが, CTscan では左視床,面貌線冠に小梗塞巣を認めるのみであった.発症54日目出血性ショックとなった後,左後頭葉内側面から側頭葉にかけて新たに梗塞巣が出現したが,神経心理学的には著変は見られず,失書,色名呼称障言のみが後遺し,以後3年間継続している.本例は左後大脳動脈灌流域,特に左側頭葉の障害により失読失書を呈したが,症状の経時的検討より失読と失書が異なる機構で生じている可能性があると推察された.
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