日本薬理学雑誌
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127 巻, 5 号
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特集:腫瘍選択性とアポトーシス
  • 坂上 宏
    2006 年 127 巻 5 号 p. 322-328
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    癌とは,遺伝子の病気であり,遺伝子変異による正常な機能の喪失に続き発生する.多くの治療薬や予防薬が癌細胞に,アポトーシスと類似の形態変化を惹起することから,抗腫瘍薬の生理活性の1つとしてアポトーシス誘導活性を確認することが重要視されてきた.最近,幾つかの抗腫瘍薬が,癌細胞に,オートファジーなどアポトーシス以外の細胞死を誘導することが明らかになりつつあり,従来の研究の進め方を検討する必要性が生じた.従って,新規抗癌薬開発の戦略としては,先ず腫瘍選択性の高い物質を探索することから出発し,次に,細胞死のタイプや,細胞死誘導の機構を解明することが賢明であると思われる.このような視点に立ち,今回,ランダムに選ばれた多種の天然および合成有機化合物の腫瘍選択性と,アポトーシス誘導との相関を,主として我々の研究を中心にまとめた.
  • 石原 真理子
    2006 年 127 巻 5 号 p. 329-334
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    医薬品,農薬,内分泌撹乱物質,天然および合成有機化合物などの生理活性物質は,その独自の薬理作用と同時に,大なり小なり細胞傷害活性を持っている.この細胞傷害活性の研究は,特にアポトーシス研究の重要なテーマになっている.作用物質の作用発現の決定因子が作用物質の物理化学性にあるのか,作用点に到達してから作用発現させる化学反応性にあるのかで,作用物質の反応性は異なってくる.半経験的分子軌道法(PM3法)によりHOMOエネルギー,LUMOエネルギー,イオン化ポテンシャル(IP),絶対ハードネス(η),絶対電気陰性度(chemical potential,χ),オクタノールー水分配係数(log P)などのデスクリプター(記述子)を算出することにより,構造が類似した薬物の定量的構造活性相関解析(QSAR)を行なうことができる.Betulinic acid誘導体のメラノーマ細胞に対する細胞傷害性は,IPと直線的相関関係を示した.クマリン誘導体の口腔扁平上皮癌細胞に対する細胞傷害性は絶対ハードネス(η)と強く直線的相関性を示した.分子の硬さや柔らかさをPM3法で計算する際にはCONFLEXの使用が有用であった.ゲラニルゲラニオール類,ビタミンK1,K2,K3,プレニルフラボン類,イソフラボン類,没食子酸誘導体,フッ化活性型ビタミンD3誘導体,2-styrylchroman誘導体の細胞傷害性には,疎水性(log P)が大きく影響した.本方法を,生理活性物質のQSAR解析,最安定化構造の予測,細胞傷害活性の検討,そしてラジカル捕捉数の算定に応用した例なども紹介する.QSARは,より活性の高い物質の構造の創薬への貢献が期待される.
  • 田沼 靖一
    2006 年 127 巻 5 号 p. 335-341
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    生命を維持するための根幹的な機能として細胞に組み込まれた「アポトーシス(細胞死)」は,その異常が癌やアルツハイマー病などの重篤な疾患の発症に密接に関わっていることから,近年,医学・薬学の分野で特に注目を集めている.また,アポトーシスの分子機構および制御機構の解明が進み,創薬ターゲットタンパク質分子も数多く見い出されており,今やアポトーシスは創薬の宝庫と言われるに至っている.一方,21世紀の医薬として,各人のゲノム体質に合った適正な治療,いわゆる“テーラーメイド医療”が期待されている.しかし,それを真に現実のものとするには,各人の疾患遺伝子の産物である創薬ターゲットタンパク質に対して最適な親和性をもつ医薬分子を理論的に創製することが求められる.これを可能とするにはコンピュータシミュレーション技術を取り入れた,これまでにない新しいin silico創薬方法論およびその手法を開発する必要がある.本稿では,我々が進めている創薬ゲノム科学と情報計算科学を融合した新しいin silico創薬の展開について,アポトーシス制御性リード化合物の創製を例に挙げながら紹介する.
  • 坂井 隆之
    2006 年 127 巻 5 号 p. 342-347
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    抗癌薬に対する耐性の存在は悪性腫瘍の化学療法にとって重要な問題である.抗癌薬耐性悪性腫瘍の耐性メカニズムを解明し,克服してゆくことが癌化学療法の有効性を高める為に求められている.抗癌薬耐性のメカニズムとしては,大きく“薬剤に対する抵抗性“と細胞死やアポトーシスを誘導する広範な遺伝子的なストレスに対して抵抗性が高くなる“細胞死に対する抵抗性“に分けることができる.薬剤に対する抵抗性のメカニズムはさらに,1. 薬剤の取り込みおよび排出に関するもの,2. 薬剤代謝酵素の変化によるもの,3. 薬剤の標的分子の量的・質的変化によるものに分類できる.後者の細胞死に対する抵抗性としては,4. 腫瘍微小環境に関わるもの,5. DNA修復系に関わるもの,6. 抗細胞死シグナルの活性化によるものなどが存在する.1.では薬剤排出をになうP-glycoproteinやMRP1-5,ATB7BなどのABCトランスポーターが代表的である.ABCトランスポーターの同じ部位に結合し抗癌薬の排出と拮抗する薬剤が耐性克服薬としての応用が試みられている.2. には活性化が必要な薬剤の特異活性化酵素の欠損による活性化体の減少と解毒酵素,特にグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)によるグルタチオン抱合が多くの抗癌薬の耐性に関与している.さらにGSTの高発現細胞では,抱合反応の基質とならない抗癌薬に対しても,MAPキナーゼキナーゼキナーゼ:ASK1とのタンパク相互作用により薬剤耐性をもたらす.3. として近年,トポイソメラーゼを標的とする抗癌薬でのトポイソメラーゼIIaの変異やタキソール類に対する耐性とβ-チューブリンサブタイプの発現の関係が明らかになってきた.4. は固形腫瘍で腫瘍周囲に生じる微小環境がもたらすストレスタンパクや核のプロテアソームが耐性克服の標的となる.5. には,損傷したDNAを修復する直接修復/塩基除去修復/ヌクレオチド除去修復/ミスマッチ修復にかかわる酵素の増幅や欠失があげられる.6. には,抗細胞死/抗アポトーシス経路の多くの因子が関与するが現在,もっとも注目されている一つがAktの関与する経路である.さらにPI3K/mTOR/PLDを加えたこのユニットの抑制で有望なものは,mTORを抑制するラパマイシンおよびその誘導体である.高Aktの活性化を持つ薬剤耐性細胞でラパマイシンは抗癌薬と相乗的な作用を示す.
受賞者講演
  • 田熊 一敞
    2006 年 127 巻 5 号 p. 349-354
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    近年,脳虚血,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスが関与することが見いだされ,病態機構の解明ならびに新しい治療法を開発するうえで,中枢神経系のアポトーシスの役割ならびにその発現制御機構の解明が重要な課題と考えられている.アポトーシスの実行には,カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼの連鎖的活性化が中心的役割を果たしており,その活性化に,細胞膜に存在する細胞死受容体,ミトコンドリアおよび小胞体を介するシグナル経路の関与が知られている.本総説では,筆者らの成果を中心に,脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスとミトコンドリア機能変化との関連について述べた.脳虚血-再灌流障害に関しては,脳の主要グリア細胞であるアストロサイトにおいて,インビボ脳虚血-再灌流時の細胞外Ca2+濃度変化を反映するパラドックス負荷により遅発性アポトーシスが発現することを示し,本アポトーシスに,活性酸素の産生増加,ミトコンドリアからのチトクロムc遊離ならびにカスパーゼ-3活性化といったミトコンドリア機能変化によるアポトーシスシグナル経路の活性化が関与することを示した.本アポトーシスに対して,cGMP-ホスホジエステラーゼ阻害薬,cGMPアナログおよび一酸化窒素産生薬は,cGMP依存性プロテインキナーゼを介するミトコンドリア膜透過性遷移孔抑制作用により保護効果を示す.また,アルツハイマー病に関しては,神経細胞において,ミトコンドリア内におけるアミロイドβタンパク(Aβ)とAβ結合アルコール脱水素酵素(ABAD)との相互作用が,チトクロムc酸化酵素活性,ATP産生,ミトコンドリア膜電位の低下といったミトコンドリア障害を引き起こし,アポトーシスを誘導することを示した.これらの知見は,ミトコンドリアの機能異常が脳虚血-再灌流障害およびアルツハイマー病におけるアポトーシスの発現において重要な働きをもつことを示唆する.
  • 池谷 裕二
    2006 年 127 巻 5 号 p. 355-361
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    海馬苔状線維は歯状回顆粒細胞の軸索である.この軸索は歯状回門で束状化し,透明層と呼ばれる帯状の領域内を投射しながら,歯状回門や海馬CA3野の標的細胞とシナプスを形成する.しかし側頭葉てんかん患者の海馬では,この投射パターンがしばしば崩壊している.苔状線維は歯状回門で異常分岐し,歯状回の内側分子層でシナプスを形成する.これは「苔状線維発芽」とよばれ,ヒトだけでなく側頭葉てんかんのモデル動物でも確認されている.同現象が注目を集める理由は,発芽によって顆粒細胞が再帰型の興奮入力を受けるようになるためであり,この異常回路から過剰な神経活動が発せられるものと想定される.本総説では苔状線維が異常発芽するメカニズムとその結果に焦点を当て,てんかん原性にどのように関与するのかを考える.近年の発見を考慮すれば,発芽は軸索誘導の分子機構の破綻であると捉えることができる.これを踏まえ,異常発芽の予防が側頭葉てんかんの治療につながる可能性についても考察したい.
  • 廣瀬 謙造
    2006 年 127 巻 5 号 p. 362-367
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    細胞内カルシウムは,筋収縮,神経伝達物質放出,シナプス可塑性,発生分化,免疫といった様々な生理機能の制御において重要な役割を果たす.その細胞内動態は,蛍光プローブを用いたイメージングにより解析されており,時間,空間的に特徴的なパターンを持つことが示されている.特徴的な時間的パターンとしてカルシウム振動が挙げられる.これはカルシウム濃度上昇が間欠的かつ律動的に起こる現象である.また,空間的パターンとして,カルシウム濃度上昇が細胞内あるいは細胞間を波状に広がるカルシウム波と呼ばれる現象が知られるようになった.ここで,2つの問題が存在する.ひとつは,どのような機構でこのような複雑な時間空間パターンが形成されるのかという問題であり,もう一つは,そのようなパターンが下流のシグナル分子によってどのように解釈されるのかという問題である.我々は,カルシウムの上流・下流にある分子の動態をイメージングすることがこの問題を解くうえで有効であると考えた.これまでに上流分子についてはカルシウムストアからのカルシウム放出を制御するIP3のイメージング法を開発した.その結果,IP3もカルシウム同様複雑な細胞内動態を示すこと,さらに,カルシウムとIP3には相互フィードバック的な制御が存在することを見出した.また,小脳プルキンエ細胞内のIP3動態を解析し,AMPA型受容体の下流においてIP3が産生される新しい経路が発見された.カルシウムの下流にある分子としては,転写因子であるNFATの細胞内動態を可視化し,カルシウム濃度上昇によってNFATが核内に移行する時間経過を詳細に解析することに成功している.この解析によって,カルシウム振動が効率的にNFATの移行を起こすことを明らかにした.以上のように,イメージングはカルシウムシグナルの時間空間的側面を解析することに有用である.
総説
  • 川島 紘一郎
    2006 年 127 巻 5 号 p. 368-374
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    Acetylcholine(ACh)は,神経伝達物質として一般には理解されているが,生物進化の過程を辿ると,真性細菌や始原菌を始めとして,神経系をもたない真核生物にも発現している.したがって,AChは,局所における細胞機能調節物質,あるいは細胞間の情報伝達物質として生物が出現した極めて初期より発現しており,神経系をもつ生物が出現した際に神経伝達物質の一つとして利用されたものと考えられる.哺乳動物において,非神経性AChは,1.生殖器官(胎盤と羊膜),2.免疫系細胞,3.表皮ケラチノサイト,4.気道上皮細胞と小細胞性肺癌細胞,5.血管内皮細胞などに発現が認められている.これらの細胞や器官には,ACh受容体(AChR)を始めとして,神経系と同じコリン作動系の構成要素が発現している.非神経性AChは,限局された微小環境に存在するAChRに,オートクラインあるいはパラクライン的に作用して,細胞増殖,細胞間接着,遊走,分化,あるいはアポトーシスなどの微細な調節に関与していることが明らかになってきた.これらの非神経性AChを標的として,新薬開発の可能性も指摘されている.
実験技術
  • 小野寺 憲治, 栗林 義和, 高橋 温
    2006 年 127 巻 5 号 p. 375-380
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    骨粗鬆症とは低骨量でかつ骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しやすくなった病態とされる.抗てんかん薬のうちフェニトイン,バルプロ酸ナトリウム,ゾニサミドをそれぞれ雄ラットに5週間連続投与することにより,対照群と比較して有意な骨密度の減少が認められる.また,この抗てんかん薬による骨密度減少症に対して,用いたすべての骨粗鬆症治療薬に予防回復的効果があることが明らかとなった.加えて,各種の生化学的検査より,血清カルシウム量はいずれの抗てんかん薬投与によっても変化はなく,PTHの量にも変化が認められず,続発性副甲状腺機能亢進状態ではないと判断された.また,ビタミンD3の代謝にも影響がなく,骨量のみが減少する特徴を有した.他方,骨代謝マーカー(骨吸収マーカー:酒石酸抵抗性ホスファターゼ,ピリジノリンなど.骨形成マーカー:オステオカルシン,アルカリホスファターゼなど)の動向から,抗てんかん薬投与による骨代謝への影響を検討した.それらの結果,フェニトインはどちらかというと骨形成の低下の方が顕著であり,とりわけビタミンKとオステオカルシン系の低下が一因となっている可能性が認められた.また,ゾニサミドにより誘発される骨密度の減少は,骨形成系に対する影響に関しては,フェニトインと比べてかなり弱く,主に骨吸収系を介したものと思われた.次に,バルプロ酸ナトリウムによる場合は,骨代謝回転が亢進している状態だが,骨吸収が優位となっているために,骨密度減少が起きている可能性が強いという結果を得た.以上のことより,抗てんかん薬の連続投与により骨密度減少が起こり,骨代謝(骨形成系と骨吸収系)に対して影響を与えるが,それらの作用強度は各薬物により異なり同一ではなかった.このモデルは,新規の骨粗鬆症治療薬の評価モデルとしての有用性があり,骨粗鬆症の病態機構の研究にも役立つものと思われる.しかし,いずれの抗てんかん薬も骨粗鬆症研究に現在広く用いられている卵巣摘除モデルと比較して骨量の減少が比較的軽微なモデルであることを理解しておくべきである.
治療薬シリーズ (3) 高血圧症
  • 吉川 公平
    2006 年 127 巻 5 号 p. 381-386
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    高血圧症の薬物療法は,他の疾患と比較して医療満足度の高い領域である.しかしながら,高血圧患者数は年々増加していること,未治療患者の割合が多いこと,既存薬に抵抗性を示す患者が存在することなどから,新規作用機序を有する高血圧治療薬の出現にも期待が寄せられている.現在,選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬(エプレレノン),レニン阻害薬(アリスキレン),アンジオテンシン変換酵素(ACE)/中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害薬(AVE7688)などが,新規作用機序を有する高血圧治療薬として臨床開発の後期段階に進んでいる.エプレレノンはMRを選択的に遮断することにより,アルドステロンによるNa+蓄積/K+排泄,体液貯留,炎症惹起,細胞増殖などを抑制し,心血管保護作用の強い高血圧治療薬として期待されている.アリスキレンはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系を上流で阻害することにより,既存のACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と異なった血中RAA系マーカーの変化を示し,薬効や副作用軽減などにおいて特有のプロファイルを示すことが期待されている.AVE7688は,ACE阻害薬と比較してブラジキニンやNa+利尿ホルモンなどを介した組織保護作用が強く,糖尿病性腎症などへの適応も期待されている.その他,ウワバイン拮抗薬,エンドセリンA型受容体拮抗薬なども新規作用機序を有する高血圧治療薬としての可能性が試みられており,今後の進展が注目されている.
  • 岩本 隆宏
    2006 年 127 巻 5 号 p. 387-392
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    食塩過剰摂取が血圧を上昇させることは広く知られているが,その機序については不明な点が多い.最近,著者らはNa+/Ca2+交換体阻害薬および遺伝子改変マウスを用いた研究から,血管平滑筋の1型Na+/Ca2+交換体(NCX1)を介するCa2+流入が食塩感受性高血圧の発症に重要な役割を果たすことを見いだした.従来から,食塩過剰摂取により内因性Na+ポンプ抑制因子が増加することが報告されているが,NCX1を介する食塩感受性高血圧にはこの因子が関与する可能性が高いと考えられた.また,ごく最近,Na+ポンプ変異体のノックインマウスを用いた研究から,Na+ポンプの強心ステロイド結合部位が血圧調節に重要な役割を果たすことが証明された.これらの知見は,食塩負荷から,Na+ポンプ抑制因子の分泌,Na+ポンプ活性の低下(細胞内Na+濃度の増加),血管平滑筋のNCX1を介するCa2+流入,血管トーヌス亢進へ至る一連の機序が食塩感受性高血圧の発症にかかわることを強く示唆している.このルートを遮断するNa+/Ca2+交換体阻害薬およびウワバイン拮抗薬は,新たな高血圧治療薬として将来の治療応用が期待される.
  • 小池 城司
    2006 年 127 巻 5 号 p. 393-398
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    わが国では4人に1人が高血圧症であると言われ,心血管病の予防の面からもその治療は重要である.高血圧症は生活習慣病の代表的なものの1つで,食塩摂取などの食事や肥満などの生活習慣を是正すれば高血圧症患者のかなりの割合は降圧薬を使用しなくても血圧のコントロールが可能と思われる.しかしながら,現実には生活習慣の是正による血圧コントロールは困難であり,降圧薬による高血圧症の治療が必要となる.現在わが国で使用されている主な降圧薬は,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB),利尿薬,β遮断薬,α遮断薬であり,それぞれの薬剤において多くのエビデンスが蓄積されてきた.それらを基にわが国ではJSH2004が発表され,それに準拠したそれら降圧薬の使用が推奨されている.本稿ではわが国における高血圧症に対する薬物療法の現状と今後についてまとめてみた.
新薬紹介総説
  • 丸山 和容, 腰原 なおみ
    2006 年 127 巻 5 号 p. 399-407
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    塩酸ピロカルピン(販売名:サラジェン®錠5 mg)は,ムスカリンアゴニストとして作用を示す副交感神経刺激薬であり,強力な唾液分泌促進作用を有する口腔乾燥症状改善薬である.塩酸ピロカルピンは各ムスカリン受容体サブタイプ(M1,M2およびM3)に対し高い親和性を示したが,ニコチン受容体への親和性は明らかに低かった.ラット摘出唾液腺灌流標本において,塩酸ピロカルピンは濃度依存的な唾液分泌促進作用を示し,その作用はアトロピンにより著明に抑制された.さらに,塩酸ピロカルピンによる唾液分泌促進作用はムスカリンM3受容体遮断薬である4-DAMPにより強く抑制されたことから,本薬の唾液分泌作用にはムスカリンM3受容体の関与が示唆された.正常動物において,本薬は耳下腺または顎下・舌下腺からの唾液分泌を用量依存的に促進した.そして,頭頸部への放射線照射により作製した口腔乾燥症モデルラットにおいても本薬は用量依存的な唾液分泌促進作用を示し,唾液量の増加とともにその成分であるアミラーゼおよびタンパク分泌量も増加させた.国内臨床試験において,頭頸部悪性腫瘍に対する放射線治療後の口腔乾燥症患者で,口腔乾燥感の重症度VASスコアにおいて有意な改善が認められた.また,口腔乾燥症による日常生活の障害度の評価においても有意な改善効果が認められた.さらに,長期投与における安全性および有効性が確認された.以上,基礎および臨床試験成績より,塩酸ピロカルピンは放射線治療後の口腔乾燥症の諸症状に対して高い改善効果を示し,患者のQOLの向上が期待される有用な薬剤であると考えられた.
  • 岸井 兼一
    2006 年 127 巻 5 号 p. 408-414
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/07/01
    ジャーナル フリー
    ルリコナゾールはジチオラン骨格を有し,光学活性な新規イミダゾール系抗真菌薬である.糸状菌,カンジダ属菌,癜風菌等に広い抗菌スペクトルを有し,特に皮膚糸状菌に対して強力な抗真菌活性を示した.Trichophyton (T) rubrumおよびT. mentagrophytesに対するMIC90値は,0.001 μg/mLであった.1%ルリコナゾールクリームをモルモット足底部皮膚に単回または反復塗布したとき,皮膚角層中に高濃度の薬物の貯留が認められ,モルモット足白癬モデルにおいて,短期間塗布で対照薬(塩酸テルビナフィン,ビホナゾール)より優れた治療効果を示した.作用メカニズムは真菌細胞膜の構成成分であるエルゴステロール合成系のラノステロール-14α-デメチラーゼ活性の阻害作用である.これまで実施されてきた足白癬に対する臨床試験では,その殆どが4週間の塗布期間でおこなわれてきた.ルリコンの臨床試験では塗布期間を半分の2週間で行い,塗布開始後4週間目に有効性判定した.第III相試験では足白癬に対し,ルリコンクリーム1%は2週間塗布(その後2週間はプラセボ塗布),対照薬(1%ビホナゾールクリーム)は4週間塗布で比較試験を実施し,塗布開始後4週目の時点で判定した結果,皮膚症状改善度はそれぞれ91.5%,91.7%,真菌学的効果は76.1%,75.9%となり,ルリコンクリーム1%および対照薬の皮膚症状改善度ならびに真菌学的効果はいずれもほぼ同等であり非劣性が検証された.ルリコンクリーム1%は短期間塗布で優れた臨床効果を示した.足白癬以外にも生毛部白癬,皮膚カンジダ症,癜風に対する臨床効果においても,これまで実施されてきた半分の塗布期間である1週間塗布で行い,優れた有効性安全性を確認した.また,ルリコン液1%は,2週間の塗布でルリコンクリーム1%とほぼ同等の有効性,安全性結果が得られた.
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