高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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24 巻, 2 号
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特別講演
  • Michael P. Alexander
    2004 年 24 巻 2 号 p. 105-116
    発行日: 2004/06/30
    公開日: 2010/08/04
    ジャーナル フリー
    Language after frontal injury is usually not overtly aphasic, i.e, the essential instrumentalities of language ? phonology, lexical-semantics, and most aspects of grammar ? are intact. Patients with frontal lobe lesions are impaired at level of assembly of complex language. This impairment has three prototypical forms although there is substantial overlap between the prototypes, both in the language procedures recruited and in the clinical phenomenology. Transcortical motor aphasia is impairment at the level of complex sentence construction. Dynamic aphasia is impairment at the level of schema assembly. Discourse disorder is an impairment of script assembly, reflected as deficient narrative capacity. One model for understanding these disorders is the “action planning” model. The capacity to utilize language instrumentalities to produce goal-directed communications requires the on-line recruitment of a number of procedures (schemas) at various levels of complexity. These procedures are learned within cultural constraints across the lifespan. They may be the single most practiced and over-learned capacities of humans.
シンポジウム
  • 加藤 元一郎
    2004 年 24 巻 2 号 p. 117-118
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
  • 安野 史彦
    2004 年 24 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    近年の研究はセロトニン神経系が記憶機能に重要な役割を有することを示唆している。われわれは脳内5-HT1A受容体に特異的に結合する[11C]WAY-100635をリガンドとした positron emission tomography (PET) を用いて脳内5-HT1A受容体結合能を測定し, 記憶機能との関連を検討した。さらに5-HT1A受容体の作動薬であるタンドスピロンを用い, 5-HT1A受容体の刺激が認知機能に及ぼす効果について検討を行った。両側海馬に限局した後シナプス5-HT1A受容体の結合能は, 被験者の顕在記憶機能との間で負の相関を示した。タンドスピロン投与は用量依存的に言語性顕在記憶機能を低下させた。結果は海馬に局在する後シナプス5-HT1A受容体が, 顕在記憶機能に対して抑制的な影響を有することを明らかにした。
  • 月浦 崇
    2004 年 24 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    ヒト記憶の神経基盤の研究に関しては,脳損傷患者を対象とした伝統的な神経心理学的研究と,最近広く用いられるようになってきた非侵襲的脳機能画像法(PETやfMRIなど)とを相補的に用いることが有効である。われわれは,実際にこれら2つのアプローチを用いて研究を行った。まず,ヘルペス脳炎後に重篤な健忘症を呈した症例への検討から,本症例で損傷されていた側頭葉内側面領域は,記憶の想起時に記憶に含まれる要素を連合するプロセスに関与するかもしれない,という仮説が導き出された。次に,この仮説を検証するために健常成人を対象としたfMRI実験を行い,記憶に含まれる要素を連合して想起する課題を行っている際に特異的に,両側の海馬傍回が賦活することが観察された。このように2つの異なったアプローチからある程度一致した結果を得た場合,結果の信頼性は高まり,結果の解釈も正しい方向へ向かうことができるようになる。
  • 緑川 晶, 吉村 菜穂子, 河村 満
    2004 年 24 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    記銘力検査の成績が良好であるにもかかわらず多様な健忘症状を呈した側頭葉てんかん症例を検討した。てんかん発作の特徴は,複雑部分発作と数時間の逆向性健忘を伴った健忘発作であった。前向性健忘は,数日単位では明らかではなく,およそ4週間の間隔をあけることによって初めて顕在化するものであった。逆向性健忘は自伝的記憶を中心とする20年以上にわたる障害であった。これらはそれぞれてんかん発作によって生じた長期記憶の固定化の障害と,皮質にある記憶痕跡の消失と考えられた。抗てんかん薬の服用により,前向性健忘は著しい改善を認めたが,逆向性健忘は明らかな改善が認められなかった。このことから,逆向性健忘が非可逆的な過程で生じていると考えられた。てんかん発作に起因する臨床病態の検討が,人間が持つ記憶の一側面を明らかにすると思われる。
  • 池田 学
    2004 年 24 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)の精神症状の中でも,とくに頻度の高いとされている “物盗られ妄想” と記憶障害との関係について検討した。統計画像解析の結果,妄想を伴わないAD群に比べて,物盗られ妄想群で,右楔前部 (precuneus) の局所脳血流量が有意に低下していた。物盗られ妄想群と妄想なし群を ADAS-Jcog の下位検査項目を用いて比較したところ,2群のプロフィールにはほとんど差を見出せなかった。楔前部と呼ばれる領域は,エピソード記憶の取り出しの際の視覚性の心像に関与しているといわれている。また,出典記憶に必要な文脈的関連を想い出す際に活性化されるという報告もある。それゆえ,楔前部の機能不全をきたした患者は,自分が持ち物を置いた場所を想起するのが困難である,または持ち物と置いた場所との関連が想起できないのではないか。あるいは,ある場所に自分が置いた(という運動の)記憶が障害されている可能性もある。これらの ADAS では評価できない何らかの記憶障害で「物を置いた場所がわからなくなり」,心理社会的要因が加わって「盗られた」となるのが,物盗られ妄想出現のメカニズムではないだろうか。
  • 松井 三枝
    2004 年 24 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    統合失調症の神経心理学的プロフィールと意味記憶を検討した。(1) 単語学習記憶,(2) 物語記憶,(3) 語流暢性課題,(4) Make-a-guess 課題,(5) スクリプト課題を施行した。結果,(1) では意味カテゴリー利用が乏しい,(2) では意味的連続性が乏しい,(3) では動物カテゴリーにおける長期記憶内の意味構造が健常者と異なる,(4) では対象推測の際,カテゴリーや機能的な質問が少なく,羅列的,非効率的な質問が多い,(5) では日常の一場面における典型性の判断において,中頻度の事象についての成績がよくない,といった結果が得られた。これらのことから,統合失調症患者では,長期記憶内のスキーマそのものが健常者のスキーマとは異なっていることが示唆された。統合失調症患者の特徴は自発的なカテゴリー利用が行われないことであり,記憶のストラテジーの問題があることも考えられる。脳画像の検討から,統合失調症の記憶障害の神経基盤に前頭葉と側頭葉の問題が示唆された。
ランチョンセミナー
  • 種村 留美
    2004 年 24 巻 2 号 p. 164-168
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    失認症のうち半側無視,Gerstmann 症候群および視覚失認例のアクティビティ上の問題と,治療介入の方法について検討した。半側無視例はあらゆるアクティビティで左側を無視する。無視行動には外界情報への不注意と内的表象における無視の両メカニズムが結合して関与している。左上肢を左端に置いたり,他動的に動かしたりするなど,障害された右半球の活性化が有用であった。Gerstmann 症候群の症例では「鋏を正しく紙に当てられない」,「1 cmずつ線を引くことができない」など道具の使用,空間・順序・数量がかかわる多くのアクティビティで重篤な障害を示した。視覚失認例の職業および家庭生活の対処方法について調査した。「倉庫内で各部品をコード番号順に並べる」,「果物の鮮度を触って確かめる」など触覚,聴覚,環境整備による代償的な対応が中心であった。
  • 永井 知代子
    2004 年 24 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    発達認知神経科学とは,脳の成長と心的プロセスの発達の関係を探る学問である。神経心理学の場合,発達という変化に注目して認知機能の異常を調べるという側面からこの分野にかかわっているが,モジュールの生得性を前提としている。Williams症候群は第7染色体11.23領域の半接合体欠失による隣接遺伝子症候群であり,神経心理学的には言語が良好で視空間認知は不良という解離のみられるのが特徴で,特定の遺伝子がこの認知パターン形成にかかわると考えられ研究されている。しかし近年の研究からは,単純な「解離」ではなく,また単一の遺伝子が特定の認知機能と直接には結びつかないことも示されている。モジュールの考え方には生得主義以外にも構成主義や神経構成主義があり,その立場によって得られたデータの解釈も異なってくる。発達認知神経科学で得られた知見からモジュールをとらえなおすことで,一般の神経心理学における問題を明らかにする糸口がみつかるかもしれない。
  • 目黒 謙一
    2004 年 24 巻 2 号 p. 176-183
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    ここでいう包括的介入とは,認知障害者への医療福祉マネジメント全体をさす包括概念である (広義のリハ)。田尻プロジェクトの結果,健常高齢者では認知機能低下に年齢の影響は認められず,むしろ教育年数の影響が大きいことを認めた。痴呆性高齢者については,全人的な理解とQOLの維持向上を基本に脳神経・身体・社会生活面の統合的視点と医療福祉の連携が必要不可欠であり,社会性の向上・社会参加を目ざす介入を検討すべきである。最も多い原因疾患であるアルツハイマー病への薬物効果は確立されているものの,心理社会的介入の根拠は現在不十分である。しかし治療者は治療的ニヒリズムに陥るべきではない。最も可能性のあるものは見当識訓練と回想を取り入れたグループワークであるが,デザインを統制した今後のさらなる検討が必要である。健常と痴呆の境界状態については,神経基盤としての海馬領域・頭頂連合野の神経ネットワークと,それを支持する記憶・頭頂葉機能の障害が認められる。心理社会的介入として短期間における残存機能の賦活効果は認められるものの,発症遅延効果については今後の検討が必要である。
  • 大東 祥孝
    2004 年 24 巻 2 号 p. 184-189
    発行日: 2004年
    公開日: 2006/03/09
    ジャーナル フリー
    発動性欠乏の臨床像,臨床概念の検討を行った。従来から “Antriebsmangel” として記載されてきた病像は,最近では,1 ) 心的自己賦活喪失 (loss of self-activation,Laplaneら1982),2 ) 動因喪失 (apathy, Marin 1990),3 ) 生命力喪失 (athymhormie, Habibら1988) といった洗練された概念によって既述されていることを述べ,これらに共通してみられる特徴から,発動性欠乏とは,生命機能の基礎となる「創発性」を支える機能の神経心理学的障害であることを指摘した。
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