日本作物学会紀事
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72 巻, 1 号
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総説
  • 後藤 雄佐
    2003 年 72 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    日本型水稲の茎数に関与する分げつ性について, 分げつ出現様式や分げつの生長過程を中心に解説した. 水稲の, 実際の生長を詳しく観察すると, 抽出中の葉より3枚下の葉の葉鞘から分げつが出現する規則性は保たれるが, 同伸葉理論とはズレが生じることは広く知られている. このズレを含めた形で, 水稲の生育を解析する方法を紹介した. すなわち, それぞれの分げつの生長を表すのに葉齢を用い, 同伸葉理論通りの生長を仮定して再構築した生長との差によりズレの大きさを表現し, 生長を解析する方法で, それを用いたいくつかの解析例をも示した. 続いて, 葉齢を用いて行う解析の基礎となる, 葉齢と個体の生長とに関する知見をまとめた. まず, 分げつ芽の分化発達の過程を, 母茎葉の抽出程度で判断できるように整理し, 続いて, 止葉抽出完了時を起点として遡って数えた葉齢を補葉齢と呼び, 幼穂分化と補葉齢との関係をまとめた. さらに, 休眠後に再生した分げつの出現時期と出現節位, その葉数から, 分げつ芽が生殖段階に移行してから休眠した場合には, 初期には再生しやすいが, 分げつ芽としての老化が早いこと, 一方, 栄養生長段階のまま休眠した場合には, 初期には再生しにくいが, 時間がたっても再生力を維持していることを述べた. また, 分化した後に休眠した葉は, 休眠期間が長いと完全な形での形態形成能力を失うことについてふれた.
研究論文
栽培
  • 湯川 智行, 大下 泰生, 粟崎 弘利, 渡辺 治郎
    2003 年 72 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    北海道で移植栽培されている水稲糯品種を用いて直播栽培を行うために, 発芽や出芽特性, また1998年から2001年の4年間に実際に乾田直播栽培を行い, 苗立ちや収量等について調査した. 発芽や出芽について人工気象下で調査したところ, 糯2品種 (はくちょうもち, 風の子もち) の低温下での発芽および出芽速度は, 直播で栽培されている品種 (ゆきまる, 以下, 直播品種) よりも速かった. 圃場条件下で播種深度を変えて糯2品種と直播品種の苗立ち率を調査したところ, 播種深度が浅い場合には苗立ち率はほぼ同等か直播品種の方がやや高くなり, 播種深度が深い場合には, 糯2品種の方が高くなる傾向があった. 乾田直播の栽培体系に則り, 「はくちょうもち」を用いて機械播種した場合の苗立ち率は32%から56%, 苗立ち数はm2あたり159本から234本となり, 酸素発生剤が無粉衣ではこれよりやや低くなる傾向があった. 乾田直播と移植の生育について比較すると, 適期に播種や移植が行われた場合, 出穂期は2から6日, 成熟期は0から2日程度直播で遅くなった. 収量は, 適播の場合は移植に比べ86%から115%であり, 晩播は適播に比べて高温年の1999年以外大きく減収した. 苗立ち数は穂数に関係し, 直播では移植に比較して穂数が多くなった. 直播では穂数が多くなると収量が増加した. また, 苗立ち数と収量との間にも相関が認められた. 多収を得るためには苗立ち数を確保することが重要であるが, 苗立ち数を多く得ても気象条件によっては移植より減収する場合があった. 糯品種の移植栽培地域への乾田直播の導入には, 出穂期, 成熟期の遅れを考慮する必要がある.
  • 高橋 行継
    2003 年 72 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    栃木県農業試験場と資材メーカーで共同開発された水稲の新育苗箱 (商品名 : かるかるニューライン) は, 深さを在来の育苗箱の2/3にしたことで使用培土を2/3に減量でき, 軽量化を図ると共に床面にも凹凸を加えることにより, 健苗育成が可能な新型の育苗箱である. そこで, 群馬県で広く普及しているプール育苗条件で新育苗箱による育苗が可能かどうかの検討を3か年にわたって行った. その結果, プール育苗で問題となる育苗箱底面からの出根量は, 在来の育苗箱よりも育苗期間によっては多くなるが, 出根形態が異なっていた. このため, 在来の育苗箱で移植作業時に必要となる出根の除去作業や, 出根防止対策の必要はなかった. また, 新育苗箱の苗の生育は, 無追肥では培土量の減量分だけ減肥となるため, 在来育苗箱よりもやや劣る場合もあるが, 移植精度や活着, 初期生育には明らかな差はなく, 実用上問題はなかった.
  • 島村 聡, 望月 俊宏, 名田 陽一, 福山 正隆
    2003 年 72 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    湛水田におけるダイズ栽培の可能性について検討するため, 二次通気組織が良く発達するダイズ品種アソアオガリを用い, 湛水条件下における二次通気組織の形成経過, 乾物重の推移および子実収量を調査した. ポット栽培および圃場栽培実験を行い, 初生葉展開期から必要に応じて潅水する潅水条件 (対照区) と水位を土壌表面上約3cmに保つ湛水条件 (湛水区) で栽培した. 両実験において, 湛水区のダイズは枯死することなく収穫まで至った. 対照区では, 二次通気組織は胚軸, 主根, 不定根および根粒のいずれにもほとんど形成されなかったが, 湛水区では, 生育初期から形成が認められ, 形成量は生育に伴って増加した. また, 胚軸の空隙率は生育期間を通じて対照区に比べて高かった. ポット栽培の湛水区では, 植物体は小型化し, 子実収量も減少したが, 圃場栽培では, 密植により, 対照区と同程度の面積当たり稔実莢数や稔実粒数が得られ, 子実収量は300g/m2以上であった. 以上の結果から, 本品種は湛水条件下では二次通気組織を速やかに形成し, これを生育後期まで維持することによって, 常時湛水条件下においても生育を全うしたものと推察され, 湛水田におけるダイズ栽培の可能性が示唆された.
  • 中野 尚夫, 氏平 洋二, 石田 喜久男
    2003 年 72 巻 1 号 p. 32-37
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    株·条間20, 25, 30, 40, 60cmの正方播 (25.0, 16.0, 11.1, 6.3, 2.8株/m2) と条間60cm×株間30cm (同5.6株), 同60×20 (同8.3株) の条播のもとで, ハトムギ (Coix lacryma-jobi L. var frumentacea Makino) における栽植密度と生育·収量の関係を水田転換畑において検討した. 11.1株/m2より低い栽植密度では, 茎葉重, 子実重 (殻実重) および全重とも密植ほど高かったが, それ以上の栽植密度では, 密植ほど殻実重が低下し, 茎葉重の増加程度が小さくなって, 全重が一定となった. 密植では分枝の発現抑制と発生分枝の生存率の低下によって茎数が減少した. そして, 茎葉重は茎数とr=0.884**, 構成茎の合計節数とr=0.829**の高い相関関係にあった. 着苞数は, 合計節数が1000/m2程度で最も多く, それより少なくても多くても少なかった. このため, 栽植密度との関係では, 着苞数は11.1株/m2以下では密植ほど多かったが, それ以上では密植によってやや低下する傾向であった. 構成茎は, いずれでも, 栽植密度が高くなると茎径が細くなり, 苞の着く位置の幅が短くなって, 節当たり着苞数が減少した. これらから, 密植では構成茎の生育が抑制され, それに応じて着苞数が低下すると考えた. なお, 着粒 (殻実) 数は着苞数と高い相関関係 (r=0.859**) にあり, また栽植密度が高くなると不稔殻実の割合が高くなった. 以上からハトムギでは, 構成分枝間の競争による分枝数増加程度の低下, 茎当たり着苞数の減少によって, ある栽植密度 (正方播では11.1株/m2程度) 以上では, 密植ほど着苞数, 着粒 (殻実) 数が少なく, さらに不稔殻実数が増えて, 収量が低下すると考えられた.
品質 · 加工
  • 松江 勇次, 佐藤 大和, 尾形 武文
    2003 年 72 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    固定した同一少数パネル·多数試料による食味官能試験精度について, コシヒカリと同程度の食味レベルを有する品種群 (良食味品種群) を供試した場合と, 食味レベルが高い品種から中庸な品種, 劣る品種までが混在した品種群 (食味混在品種群) を供試した場合とを比較して識別能力や嗜好性などを検討した. 良食味品種群の食味評価値の分散分析の結果, 総合評価ではパネル構成員間および品種間において0.1%水準で有意差が認められたが, パネル構成員と品種との交互作用は有意でなかった. よって, 総合評価についての評価は各パネル構成員による差はあるものの, パネル構成員全体による品種間差の評価に一定の傾向があることを示した. また, 識別能力の高いパネル構成員は, 全体の嗜好性との一致性も高い傾向にあることを示した. 各パネル構成員の識別能力についてみると, 良食味品種群における5%F値の高い識別能力を示したパネル構成員は17人中5人と, 全体の約30%であり, パネル構成員の約80%が識別能力を示した食味混在品種群に比べて大きく下回った. 以上のことから, 良食味品種群においては識別能力を有するパネル構成員は小ないが, 総合評価の品種間差の最小有意差 (LSD (0.05)) は0.27と小さく, パネル全体として品種間差の判定は有意であったことから, このような試験方法を用いて食味官能試験を行っても大きな支障はないと判断された. また,食味検定材料の食味レベルがコシヒカリと同程度の場合では, 各パネル構成員の識別能力の把握よりもパネル全体の識別能力を把握することがより重要であることがうかがえた.
  • 佐藤 大和, 内村 要介, 松江 勇次
    2003 年 72 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    コムギの作期前進化を前提とした高品質コムギの安定生産技術を確立するために, 秋播性程度の異なる品種を用いて播種時期 (10月下旬∼12月上旬の5水準) の違いが製粉特性に及ぼす影響を検討した. タンパク質含有率, 最高粘度および粉の色相には播種時期の違いによる影響が認められたが, 製粉歩留, 灰分含有率およびアミロース含有率には認められなかった. タンパク質含有率は, 10月下旬播は他の播種時期より高く, 1穂粒数の減少および倒伏の結果, 収量が低下し, 粒へのデンプンの蓄積量が少なかったことにより相対的に高まったと考えられた. また, グルテン特性は播種時期により異なり, 播種時期が早いほどグルテンの強さを示すグルテンインデックスは低かった. 最高粘度は播種時期が早いほど低下する傾向が認められた. 粉の色相は播種時期が早いほど劣る傾向を示し, 収量の低下によるタンパク質含有率の上昇と登熟期間中の降雨の影響によるものと推察された. 以上の結果から, 民間流通に対応した高品質コムギ生産を考慮した場合, 播種時期別の生育, 収量, 外観品質および製粉特性から総合的に判断すると福岡県のコムギ播種時期の早限は11月5日頃までと考えられた.
品種 · 遺伝資源
  • 太田 久稔, 井辺 時雄, 吉田 智彦
    2003 年 72 巻 1 号 p. 50-55
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    水稲の湛水土中直播栽培において重要な特性である土中出芽性に関しての検定方法を催芽程度, 温度, 播種深度の面から検討した. また, 国内外の約300品種を検定し, 土中出芽性の遺伝的変異を検討した. 最初に湛水表面播条件における苗立ちについて検討し, 土中出芽性との相違を検討した. 催芽程度, 温度, 播種深度と土中出芽率との関係では, 催芽程度は鳩胸状態が, 温度は高い方が, 播種深度は浅い方が土中出芽率が高かった. 表面播種での苗立ち率と土中出芽率の相関は低く, 特にインド型のハバタキは相違が大きかった. その結果, 土中出芽性はそれ独自の検定の必要性が確認できた. 土中出芽率の品種間差を効率よく評価するために, 催芽長約1mm程度になる25°Cで3日間の催芽処理を行い, 温度25°C, 播種深度を2cmとする試験条件を設定した. 約300品種を用いた土中出芽率の検定結果では, 出芽率の変異が0%∼95%となり遺伝的な多様性が明らかとなった.
  • 坂田 勲, 坂井 真, 井辺 時雄
    2003 年 72 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    湛水直播栽培では稲株の基部が地表近くの浅い土壌に位置するために稲体が株基から倒れる「ころび型倒伏」が生じ易い. そこでまず, 国内外の特徴的な20品種を圃場で2ヶ年にわたり栽培し, 出穂後10日から14日に押し倒し抵抗値を測定した. その結果, 1穂当たりの押し倒し抵抗値は2ヶ年の平均で0.56∼2.58Nで, 大きな品種間差異を認めた. 2ヶ年の押し倒し抵抗値は互いに高い正の相関関係にあったことから, この結果は各品種の遺伝的特性を示していると考えられた. そこでこれら20品種のうち, 押し倒し抵抗値が大きかった関東PL12と, 中程度であったM401, および小さかったキヌヒカリを選んで, 出穂後10日における冠根の伸長角度を調べたところ, 0∼18°の浅い角度で伸びる冠根数は, 関東PL12がM401およびキヌヒカリよりも多かった. 次に圃場で押し倒し抵抗値を測定した20品種について, 幼植物の冠根形質を調べた. 半球形の金属ネットを用いたバスケット法により, 播種後23日における幼植物の冠根の伸長角度を水平 (0°) から垂直 (90°) まで5等分して測定した結果, 押し倒し抵抗値が大きい品種は, 幼植物において36∼54°に伸長する冠根数が多いことが明らかになった. また押し倒し抵抗値と, 幼植物の太い冠根の引っ張りによる破断強度および冠根直径との間にも有意な正の相関関係があった. これらの結果から, 幼植物の36∼54°に伸長する冠根数および冠根の破断強度により, 品種の耐ころび型倒伏性を早期に検定できる可能性があることがわかった.
形態
  • 松葉 捷也
    2003 年 72 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    農林11号など, 日本の水稲品種の中で最も極早生である3品種を北陸地域の普通期に栽培して, その分げつ体系の形態形成を調べた. 主稈総葉数は, 農林11号が9, 農林9号と同15号が10となった. 分げつの出現は北陸地域の普通期の栽培品種と同様に推移し, 1次最終分げつは, 3品種とも基本的に主稈の第8節に出た. 分げつは4次分げつまで現れた. この結果, 高位分げつが多発生し, それらの葉数が, 分げつ発生節位より上の母茎の葉数より1,2葉多かった. 各個体の分げつ数は40本前後であり, 出穂期間は約3週間に及んだ. 高位分げつの発生節位の下限は, 1次分げつについてみると, 主稈の穂首分化期に, 分げつ芽が突起状の状態から1,2枚の葉原基を分化した状態にある節位と判断された. その節位は, 農林9号, 同15号, 同11号で, それぞれ7, 6, 5であった. これら高位の最終分げつの葉数 (前出葉を含む) は, 本試験では分げつ次位に関わらず, 3か4が多かった. この葉数の理由は, 以下のように考えた. すなわち, 主稈の穂首分化期以降, 突起状になっている1次の分げつ芽は, 主稈の生育がさらに約2.5葉齢進んだ後でないと, 自身の穂首分化に至らない生理機構をもっている. 他方で, 農林9号の発育解剖の結果では, 上記の主稈の生育期間に, 分げつ芽は前出葉と2, 3枚の葉原基を自立的に分化している. それで, 高位の最終1次分げつは, 常に3, 4枚の葉数を持つことが理解できる. 同じことは, 一般に母茎とその分げつの間で生じていると推測された.
  • 大潟 直樹, 高橋 宙之, 田中 征勝
    2003 年 72 巻 1 号 p. 68-75
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    テンサイ (Beta vulgaris L.) 単胚性系統の採種個体に散見される複胚珠果実に関する選抜育種ならびに遺伝解析を効率的に進めるため, 本実験では, 個体レベルの主茎および分枝における複胚珠果実の着生·分布様式, ならびに個体単位における開花前と登熟期の複胚珠率の関係について検討した. その結果, 複胚珠果実は, 分枝の主茎着生位置により下位から上位に向かい多くなり, 分枝間では, 一次分枝が二次分枝より多くなった. 各分枝の複胚珠果実は千粒重の増加に伴い多くなり, 個体単位の複胚珠率が低下するに従い, 主茎を除く各分枝の複胚珠率は同程度に低下した. また, 個体単位の複胚珠率は二次分枝を持つ最も上位の分枝の複胚珠率に近似した. 二次分枝を持つ一次分枝の複胚珠果実の分布は分枝の中間に多く, 先端に向かい少なくなった. これらの結果から, 複胚珠果実の形成は, 主茎および分枝における無限伸育性に伴った開花の早晩による果実の発育程度と密接に関係していることが示唆された. 開花前と登熟期における複胚珠率に関しては, 開花前の複胚珠率が登熟期より明らかに高かったが, 両者の間に正の相関関係が認められた. このため, 複胚珠果実の着生は, 開花前に遺伝的に支配されているが, 受粉後の胚珠の発育環境により最終的に決定されるものと考えられた.
作物生理 · 細胞工学
  • 新田 洋司, 船越 康聖, 本多 舞, 松田 智明
    2003 年 72 巻 1 号 p. 76-81
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    水稲苗は移植に際して根の損傷などによって植傷みが生じ, その後, 新根の伸長などによって生長が回復して活着することが知られている. 本研究では, 移植時に断根された苗における冠根の形成·出現の様相を形態学的に明らかにすることを目的として, 葉齢3.2の苗を, 出現根を基部から切除して移植, 葉齢7.2の時に個体を採取して, 茎の連続横断切片を作製し光学顕微鏡で観察した. その結果, 断根処理によって, 茎軸長は短くなる傾向が, 逆に茎および辺周部維管束環の直径は太くなる傾向が認められた. また, 冠根原基数ならびに出現に至った冠根原基の数は, 特定の茎軸部位で増·減するような傾向は認められず, それぞれの茎軸部位において少しずつ多くなった. 一方, 冠根原基の太さは顕著に変動しなかった. 以上より, 苗が断根された場合に, 冠根原基ならびに出現に至る冠根原基の数は断根されない場合に較べて多くなることが, そしてそれらの増加は断根処理後ただちに短期間で起こるのではなく, 徐々にかつ継続的に起こって, 活着に寄与することが考えられた.
  • 李 廣弘, 朴 相源, 權 容雄
    2003 年 72 巻 1 号 p. 82-88
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    ダイズを水田転作の作物として栽培する際, 過湿および湛水に対する耐湿性の向上が求められている. この研究では, ダイズの茎から発生させた不定根が湿害の緩和にどの程度寄与できるかをポット条件で検討した. 不定根は慣行的に行われてきた培土によっても誘導されたが, 培土後の高土壌水分条件によってさらに多く発生した. ダイズの収量は培土によって対照区に比べ11%増加したが, 培土直後10日間の飽和土壌水分処理をすると不定根数が増加し26%も増収した. また, 湛水処理時に発生した不定根を処理後の培土により枯死させない場合, 湛水処理による収量の低下は大きく軽減された. そこで, 不定根の発生程度に差のある4品種を供試し, 不定根の早期誘導が各生育期に湛水処理したダイズの生育および収量に及ぼす影響について検討した. 第2本葉期に培土直後1日間湛水して不定根の早期誘導処理をした区 (誘導区) では, 無誘導区 (無培土および無誘導処理) より4品種とも栄養成長期 (第4本葉期) および生殖成長期 (開花盛期) の湛水に対し生育と収量の低下が軽減された. また, 不定根の発生が多い品種ほど湿害は顕著に緩和された. 以上から, 生育初期に不定根を多く確保すると, その後の生育期間中に起こる湿害に対する植物の耐性が向上すると期待された.
収量予測 · 情報処理 · 環境
  • 渡邊 好昭, 三浦 重典, 湯川 智行, 竹中 重仁
    2003 年 72 巻 1 号 p. 89-92
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    褐色雪腐病抵抗性機構の解明のため, オオムギ葉身を用いる拡大抵抗性の測定法を開発した. 褐色雪腐病菌を含む寒天片を葉身の1カ所に接種し, 低温暗黒条件に1週間置いた後の病斑長を拡大抵抗性の値とした. 病斑長は, 従来の雪腐病人工接種法を用いて推定した50%の茎が枯死する接種期間の値と有意な負の相関があり, 品種間の抵抗性の差についても従来の報告と一致した. この方法により, 1週間の接種期間で褐色雪腐病に対する抵抗性を評価できた. さらに, オオムギだけでなく, コムギ, エンバク, ライムギの褐色雪腐病抵抗性の測定が可能であった.
  • 水田 一枝, 角重 和浩, 茨木 俊行, 平野 稔彦
    2003 年 72 巻 1 号 p. 93-99
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/04/28
    ジャーナル フリー
    1992∼2001年に, 福岡県南部筑後地域の古くからのかんがい用水路であるクリークの水質を, 筑後川と矢部川を主水源とする河川別に計11カ所, 水稲の代かき期から登熟期及び非かんがい期に調査した. 両水系のクリークともに全窒素及び化学的酸素要求量の平均値は水稲の農業用水基準値を超えていた. 溶存酸素, 浮遊物質, 全リンを除くほとんどの項目で水稲かんがい期よりも, 非かんがい期の方が高い値を示した. 水質の年次変化から判断すると, ここ10年間では汚濁の進行も改善も認められなかった. 全窒素の年次変化も認められなかったが, 無機態窒素であるアンモニア態窒素及び硝酸態窒素の年次変化は大きく, 特に非かんがい期の値の変化が大きかった. 水稲生育期別に比較すると, 分げつ期で筑後川水系及び矢部川水系共に全窒素に占める硝酸態窒素の割合が高かった. 農業用水による窒素流入量推定値と既存の標準窒素施用量から判断して, 2回目の穂肥の40%は削減可能であると示唆した.
研究 · 技術ノート
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