日本作物学会紀事
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73 巻, 4 号
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栽培
  • ―群馬県におけるプール育苗条件において―
    高橋 行継, 佐藤 泰史, 加部 武, 栗原 清, 阿部 邑美, 吉田 智彦
    2004 年 73 巻 4 号 p. 389-395
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    群馬県におけるプール育苗条件下で,水稲育苗箱全重の軽量化と育苗の低コスト化を目的として,育苗箱に使用する培土量の減量について検討を行った.覆土量は原則として7 mmの一定とし,床土量を標準の厚さ17 mmに対して13,11,7 mm,さらに無床土区まで設定して検討を行った.その結果,床土量7 mm,さらに覆土7 mmのみの無床土でも育苗は可能であり,移植精度も著しい低下はみられなかった.しかし,無床土では出芽時の根上がりが多く,播種時の種子飛散防止対策も必要であった.さらに床土量7 mm区と共にマットが極端に薄くなるため,移植作業時のマットの取り扱いに十分注意を払う必要があった.このため技術として広く普及させるためには問題があると判断した.移植時のマットの取り扱いやすさ,移植精度を含めて,培土の減量を考えたときの実用的な培土量は床土11 mm,覆土7 mmの計18 mmであった.この減量により,育苗箱重量は約20%,培土の費用は約25%の低減が可能であった.
  • 荻内 謙吾, 高橋 昭喜, 作山 一夫
    2004 年 73 巻 4 号 p. 396-401
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    岩手県におけるコムギ秋播栽培において,水稲などの前作物との秋作業の競合を解消するため,秋播性コムギを根雪前に播種する冬期播種栽培について検討し,最適な播種期と最適な播種量を明らかにした.秋播性品種「ナンブコムギ」を用い,2000年から2002年の10月上旬から11月上旬に播種期を旬ごとに変えて出芽までの日数を調べたところ,播種後の 0℃以上の積算平均気温が 95~115℃になった時点で出芽した.このため,播種が早くて播種日から根雪始めまでの積算平均気温が95℃より高いと根雪前や雪中で出芽し,凍上害の危険が高くなった.逆に,12月上旬から12月下旬のように播種が遅く越冬後に出芽する場合では,出芽個体率が高く,正常に出穂,成熟した.このことから,冬期播種栽培の岩手県における播種適期は,根雪前や雪中で出芽することのない 12月上旬から12月下旬とすることが適当と考えられた.冬期播種栽培は,10月上旬播種の慣行秋播栽培と比較して地上部の生育量は小さくなるものの,穂数は多く,倒伏が少なく,子実収量は 379 g/m2 で慣行秋播栽培対比 95%となった.冬期播種栽培で得られた子実の外観品質は慣行秋播栽培とほぼ同等で,子実の粗タンパク質含有率は 14.4%と 1.4ポイント慣行秋播栽培のものよりも高まった.播種量を増やすと穂数は直線的に増加し,それに伴い子実収量も増加し,350粒/m2 前後で最大となった.
品種・遺伝資源
  • 山口 弘道, 松村 修
    2004 年 73 巻 4 号 p. 402-409
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    水稲のホールクロップサイレージ向け特性として,登熟後期の茎部 (稈および葉鞘) におけるデンプンの再蓄積に着目した.成熟期に高い茎部デンプン含有率を得る上で求められる品種特性を明らかにすることを目的に,その品種・系統間差について各器官のシンク,ソース関係や登熟後期の同化産物の分配との関係として検討した.成熟期の茎部デンプン含有率は,日本型品種・系統で高く,半矮性インド型品種・系統では僅かであった.日本型品種・系統ではシンク,ソース各器官の量や子実シンク活性と成熟期デンプン含有率との間に相関関係が見られた.日本型品種・系統で総籾数ならびに登熟初中期の穂重増加量/籾/日と成熟期デンプン含有率の間にはそれぞれ負,正の有意な相関が見られ,総籾数が少ないほど,また,登熟期間前半に子実のシンク活性が高いほど,茎部でのデンプンの再蓄積が高かった.再蓄積シンクとしての茎については,再蓄積が開始する登熟中期に籾当たりの茎重が大きいほど,ソースとしての葉については,登熟中期から成熟期にかけて籾当たりの緑葉重が大きく,成熟期の籾当たりの枯死器官重が少ないほど成熟期デンプン含有率が高かった.以上,茎部での高いデンプン再蓄積を得るための日本型品種・系統の特性が子実シンク能,子実シンクサイズに対する茎,緑葉,枯死器官の量との関係から明らかになった.
  • 内村 要介, 古庄 雅彦, 吉田 智彦
    2004 年 73 巻 4 号 p. 410-415
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    品種間の遺伝的関係を明らかにするには,品種の家系図から統計的に算出する品種間の近縁係数と,分子マーカーで検出したDNA多型の検出率による品種間の遺伝的相似度がある.遺伝的相似度を表すため,本研究ではDNA多型の検出率からみたユークリッド距離と根井の遺伝的距離Dを計算した.二条オオムギで,国内で近年主に栽培されている22品種について解析した結果,近縁係数と遺伝的距離との間にはr=-0.526~-0.650の相関が認められた.従って,近縁係数は,両親から半分ずつの遺伝物質を確率的に受け継ぐとして算出するが,この値は品種間のDNA多型の検出率を基にした遺伝的相似度からもある程度裏付けされた.また一方で,今回用いた分子マーカーで検出した染色体上の領域は,品種育成の過程で後代にほぼ均等に分離していったと考えられる.
作物生理・細胞工学
  • ―細胞内容物質と細胞壁物質に着目して―
    楊 重法, 井上 直人, 藤田 かおり, 加藤 昌和
    2004 年 73 巻 4 号 p. 416-423
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    登熟期における光合成産物の転流パターンとCGR・貯蔵物質が穂の乾物蓄積に及ぼす影響を明らかにするために,日本晴(日本型品種),中優3号(インド型品種),汕優63(ハイブリッド品種)の3品種を用いて登熟期における乾物の動態を調査した.穂と茎葉部の乾物重を(1)酵素分析法で分解される細胞内容物質(CC)と(2)酵素分析法で分解が不可能な細胞壁物質(CW)の2つに分けて解析した.その結果,穂の乾物増加速度は中優3号と日本晴では主にCGRに依存すること,汕優63では主にCCの再転流速度に依存すること,そして茎葉部のCWの増加速度が主にCGRに支配されていることが明らかになった.再転流速度は日本晴,中優3号,汕優63の順でピークが早く現れ,時期別の再転流量をみると汕優63と中優3号では登熟後半に再転流量が多く,日本晴では登熟前半の方が多かった.また穂の乾物増加速度のピークは中優3号,日本晴,汕優63の順に早く認められた.汕優63は全籾数が多かったにもかかわらず,登熟前半における穂の乾物増加速度が最も小さく,穂の乾物増加総量に対する時期別の乾物増加量の割合は登熟後半より登熟前半が小さかった.これらのことから,汕優63は出穂期或いは登熟前半に茎葉部の水溶性の再転流可能な細胞内容物質の割合が低かったことや茎葉部中の細胞内容物質の分解速度が遅かったものと推察された.
  • 杉本 秀樹
    2004 年 73 巻 4 号 p. 424-430
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    ポット栽培した早生品種のキタワセソバを供試し,レンゲのすき込み時期とすき込み量を変えた場合における夏ソバの収量成立過程,とくに開花・結実に及ぼす影響について調査検討した.ソバの播種25,15,5日前に1999年は生重で50 g,100 g,200 g,300 gずつ,2000年は50 g,150 g,300 gずつ容量5 Lのポットにレンゲをすき込んだ.両年とも,すき込み時期が早く,また量も多いほど子実重が大となった.これは,より早くより多くすき込むことによって播種期における土壌の無機態窒素含量が増大した結果,生育が促進されて開花数が増えたこと,葉面積が増大して開花・登熟中期に個体光合成速度が高く維持されたために結実率が低下しなかったことによると考えられた.夏ソバ栽培においてレンゲをすき込む際には,すき込みから播種までの期間ならびにすき込み量を十分に確保することが重要である.
  • 馬 啓林, 山口 武視, 中田 昇, 田中 朋之, 中野 淳一
    2004 年 73 巻 4 号 p. 431-435
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    作物茎の切断面より溢出する出液現象は能動的吸水に基づくものであるので,これを用いて根の生理的活性を把握できる可能性がある.そこで,ダイズ幼植物を用いて,出液速度に影響を及ぼす要因を明らかにして,根の呼吸速度と出液速度との関係を検討した.土壌含水比が40%以下になると,出液速度が指数関数的に減少し,30%以下ではほとんど出なくなった.また,早朝や夕刻よりも午前10時に切断した場合が最も高い値であった.茎切断後の出液速度は急速に低下し,6時間後にほぼ一定となった.出液速度は地温の影響を受け,25℃~30℃ではほぼ一定の値を示した.生育に伴う出液速度の変化は,花芽分化期の出芽後45日ごろ最大となり,その変化は呼吸速度の推移と一致した.土壌水分を約55%,地温25℃に保ち,午前10時に切断後1時間の出液速度は,個体当たりの根の呼吸速度と密接な関係にあることが認められた.個体当たりの根の呼吸速度は「根重当たり呼吸速度×根重」で示されるので,この2要因について検討した結果,出液速度には根重の方が強く関与するが,同じ根量であれば,根の呼吸活性の高いものほど出液速度が高いことを明らかにすることができた.
  • 三浦 重典, 渡邊 好昭, 小林 浩幸, 小柳 敦史
    2004 年 73 巻 4 号 p. 436-442
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    リビングマルチ栽培には土壌侵食の防止や雑草抑制効果などのメリットがあるが,作物との間に窒素の競合が起こることが懸念されていることから,シロクローバを利用したスィートコーンのリビングマルチ栽培体系における窒素の流れを調べた.試験を実施した3年間では,スィートコーンの収量及び窒素含有量はリビングマルチ栽培と慣行栽培で同じであった.シロクローバの窒素含有量は,播種時には6.85 gm-2,中間刈取り時には4.87 gm-2であり,両者の計である11.72 gm-2の窒素が刈取りによって土壌中に供給されると考えられた.一方,スィートコーン栽培期間中のシロクローバの窒素吸収量は7.11 gm-2であり,そのうちの5.10 gm-2が固定由来窒素と推定され,土壌及び肥料由来窒素量は1.55 gm-2と少なかった.土壌浸透水量と硝酸態窒素濃度の積により算出した窒素溶脱量は,3年間の平均でリビングマルチ栽培区が慣行栽培区より少なかった.重窒素を利用した15Nトレーサー試験では,スィートコーンの吸収した窒素のうち27.3% (2.48 gm-2) がシロクローバ刈取り残さ由来であり,土壌及び肥料由来窒素量は6.62 gm-2であった.これらの結果より,リビングマルチ栽培ではシロクローバの刈取りにより土壌に供給された窒素の多くがスィートコーンに移行しており,一方で土壌及び肥料から収奪される窒素量及び窒素溶脱量が少ないことから,スィートコーンとシロクローバの間の窒素に対する競合は小さいと考えられた.リビングマルチ栽培では,窒素フロー図から推定した土壌からの窒素のアウトプット量が慣行栽培より2 gm-2程度少なく,窒素の施用量を低減できる可能性が示唆された.
収量予測・情報処理・環境
  • 坂田 雅正, 鈴木 かおり, 山本 由徳, 宮崎 彰
    2004 年 73 巻 4 号 p. 443-449
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    極早生水稲品種とさぴかの異常(不時)出穂の発生に伴う収量,玄米品質の変動要因を明らかにするため,播種からの有効積算温度(基準温度10℃)を基に養成したとさぴか,キタアケの幼穂分化苗と幼穂未分化苗を圃場に移植し,両苗区間で生育,収量および玄米品質を比較した.その結果,両品種でほぼ同様の結果が得られ,幼穂分化苗区では,移植から30~32日目に主稈出穂が確認され,その19~20日後に分げつの出穂が開始した.これに対し,幼穂未分化苗区では,移植から57~58日目に主稈が出穂し,分げつ出穂開始は,その2日後であった.分げつの出穂期間は,幼穂未分化苗区が13日であったのに対し,幼穂分化苗区は30~32日と長かった.幼穂分化苗区の最終主稈葉数は7 . 6~8 . 0で,幼穂未分化苗区に比べ4葉程度少ないが,分げつ発生数および穂数は幼穂分化苗区の方が多かった.幼穂分化苗区の収量は,幼穂未分化苗区に比べ9~15%少なかった.これはm2当たり穂数は多いが,分げつ穂の発育が劣り,1穂籾数が少なく,m2当たり籾数が減少したことと,発育停止籾割合が高く,登熟歩合が低くなったためであった.さらに,幼穂分化苗区では青米が多いため,玄米の外観品質評価も低くなることが判明した.
研究・技術ノート
  • 太田 久稔, 笹原 英樹, 小牧 有三, 上原 泰樹, 安東 郁男, 井辺 時雄, 吉田 智彦
    2004 年 73 巻 4 号 p. 450-456
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    水稲の湛水土中直播栽培において重要な特性である土中出芽性に関し,テープシーダで深度2 cmに播種する圃場検定,催芽種子を用い,20℃,25℃,播種深度2,3 cmの条件での室内検定により,土中出芽性に優れた系統の選抜を試みた.土中出芽性に優れた遺伝子源として,赤米 (赤米No.4,GB整理番号00010718と思われる),Arroz da Terra, Dunghan Shali, Ta Hung Kuを用い,耐倒伏性に優れた良質,良食味品種であるキヌヒカリ,どんとこいとの交配後代を育成し,上記の土中出芽検定による選抜・育成を行った.赤米,Ta Hung Kuの交配後代では,初期世代から土中出芽検定による選抜を行い,土中出芽性に優れた系統として,赤米では収6357,Ta Hung Kuでは,収6570 (北陸PL3),和系375,和系376を選抜できた.一方,Arroz da Terra, Dunghan Shaliの交配後代では,葉いもち病が多発するなどの問題が多く,土中出芽性に優れた系統を選抜できなかった.そのため,初期世代から土中出芽性の検定を行い土中出芽性に優れた系統を確実に選抜したり,雑種集団の規模を大きくし土中出芽性に優れる個体数・系統数を多くするなどの対処が必要と思われた.本試験で選抜した系統は,いずれも収量性と玄米品質に問題があり,今後,優れた土中出芽性を持つ実用品種の育成においては,品質と収量性を改良することが主な課題になると考えられた.
  • 前田 和美
    2004 年 73 巻 4 号 p. 457-462
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/02/18
    ジャーナル フリー
    1964年から常温(1961~1990年の月別平均気温:5 . 5~27℃)下で保存してきたラッカセイ198品種の莢つき種子の発芽率を1986年,1992年および1993年に調べた.保存には,50~100莢をクラフト紙または寒冷紗製の袋に分けた種子の1容器あたりの量16~20 kgに対し,乾燥剤として塊状生石灰をそれぞれ約5kgおよび2 kgを封入(年1回更新)した半密閉容器(容積144リットル,~1972年)と完全密閉容器(75リットル,1973年~)を用いた.両容器内の平衡相対湿度が約23%および14%における種子の平衡水分含量は約6%および3%で大,小粒性品種間の差異は小さかった.15年~28年間保存した16品種が80~100%の発芽率を示したが,その13品種が小粒種のスパニッシュ・タイプ,2品種が中粒種のバージニア・タイプ,そして1品種が亜種間交雑起源の品種であった.常温(2~38℃,23~25℃)下の保存で,水分含量4%以下あるいは3 . 32%の剥き実種子の寿命が8年および11年という報告があるが,本報の結果は,とくにスパニッシュ・タイプの莢つき種子の発芽寿命が常温下でも3~6%の水分含量ではさらに長いことを初めて示したものである.種子寿命の品種間差異や発芽力の保持における莢(果皮)の役割や,油料用小粒種の栽培が多い温・熱帯地域における生殖質の低コスト・小規模保存法としての利用についてさらに検討の必要がある.
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