日本作物学会紀事
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78 巻, 3 号
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総 説
  • 松井 勤
    2009 年 78 巻 3 号 p. 303-311
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    地球の温暖化に伴い,高温によるイネの不稔の発生頻度が増すのではないかと懸念されている.温暖化が高温不稔を通じてイネの収量に及ぼす影響を明確にすること,それに対する対策をその効果と共に示すことは,作物学分野の重要な課題である.この総説は,主に開花期の高温によるイネの不稔発生を対象とした.まず,開花期の高温による不稔の発生条件に関連するこれまでの報告を整理した.次に,高温不稔の発生の仕組みに関する研究について解説し,最後に,耐性品種の育種を中心とした対策技術の創出において重要な,高温不稔に対する耐性に関する研究の現状について解説した.
研究論文
栽培
  • 松崎 守夫
    2009 年 78 巻 3 号 p. 312-323
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    5種類の畑作物,テンサイ,バレイショ,春播コムギ,ダイズ,アズキを連輪作した試験で,連作区10区,輪作区1区を設けた.連作区では,試験初期から有機物を連用した区,連作11年目以降,土壌燻蒸を行った区,それらの処理を行わない対照区を設けた.輪作区でも有機物連用,土壌燻蒸は行わなかった.連作11~16年目のデータについて,年度を反復とする分散分析を行い,輪作区に対する有意差から,連作による減収,その減収を軽減する処理について検討した.また,減収軽減をもたらす要因についても検討した.連作による減収はテンサイ,センチュウ抵抗性の弱いダイズ品種,アズキで著しかった.有機物施用は土壌の熱水抽出窒素濃度を増加させる傾向があり,テンサイの糖量,センチュウ抵抗性の弱いダイズ品種の収量も増加させた.しかし,連作したテンサイの糖量は,土壌の熱水抽出窒素濃度が同程度であっても,輪作区よりも低い値となったことから,連作によってテンサイの養分吸収力が低下したと考えられた.殺菌剤であるトリクロロニトロメタン(クロルピクリン)は,テンサイ,バレイショ,春播コムギのうち,テンサイの糖量を増加させた.殺センチュウ剤である1,3-ジクロロプロペン(D-D剤)は,ダイズ,アズキのうち,アズキとセンチュウ抵抗性の弱いダイズ品種の収量を輪作区並に回復させた.連作したテンサイ,アズキでは,熱水抽出窒素濃度が低い場合でも,土壌燻蒸によって高い収量が得られ,この効果は,土壌燻蒸による殺菌・殺センチュウ効果に由来すると考えられた.
  • ―秋田県大潟村における水管理に着目して―
    川島 長治, 松本 大, 小川 敦史
    2009 年 78 巻 3 号 p. 324-334
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    秋田県大潟村での水管理体系をみると,コンバイン収穫に備えて7月初めの幼穂分化期頃から落水され,水稲は土壌水分が少ない状態下で生育し,体内水分含量が減少して気孔は閉じ気味となり,光合成速度が低下して,収量にも影響が生じると考えられる.しかし収量は他の米産地以上に高い.本研究では,大潟村水稲の気孔開度と個体群生長速度(CGR),純同化率(NAR),葉面積指数(LAI)および乾物生産との関係について,近隣に位置して土壌や気象条件が似ており慣行法で水管理されている秋田県五城目町の水稲と比較した.最高分げつ期(7月9日頃),出穂期(8月9日頃),出穂2週間後(8月23日頃)に改良浸潤法によって気孔開度を測定した.その結果,最高分げつ期を除く測定時期で大潟村の気孔開度は五城目町よりかなり小さかった.しかしながらCGRは五城目町より大きかった.以上から,晴天で湿度が低く蒸散が多い日には,水稲は気孔を閉じて体内水分を低下させないように適応し,それによって1日中高い光合成速度を維持し,ひいては高い乾物生産を実現していると推察され,これらから考えられる水稲栽培のあり方の概略を提示した.
品質・加工
  • 吉田 智彦, Anas , Rosniawaty Santi, Setiamihardja Ridwan
    2009 年 78 巻 3 号 p. 335-343
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    インドネシアのイネ品種は総祖先数が2000を超えるものがあり,家系が複雑になっていた.IRRI育成品種が大きな遺伝的背景を占めていた.最終の祖先である低脚烏尖,Cina,Latisail,Gampai,Tadukanの5品種で46.1%の寄与をしていた.栽培面積とIR64との近縁度から,総水田面積の50.6%はIR64の遺伝的背景を有すといえた.近縁度の値をもとにしたクラスター分析で,インドネシア品種は大きく5つに分類された.IR36, Peta, Cisadaneなどの近縁係数と収穫迄日数とは正の相関であった.IR64を遺伝的背景に持つと草丈が短くなった.CiapusやCisadaneの積極的な交配親としての利用を提唱した.IR8との近縁係数は千粒重と負の相関を有し,多収目標の育種での利用は有望と判断されず,IR8の組合せ能力は他の品種と異なっていると思われる.Sintanurの遺伝的背景を持つ品種は香りが良いと評価された.Kalimasの遺伝的背景は食味を低下させた.
品種・遺伝資源
  • 五月女 敏範, 大関 美香, 小林 俊一, 吉田 智彦
    2009 年 78 巻 3 号 p. 344-355
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    栃木県農業試験場で育成したビール醸造用二条オオムギ品種について,家系分析を行った.育成品種と祖先品種および主要品種との近縁係数を計算した結果,育成品種とはるな二条の近縁係数が最も高く(平均0.457),次いで育成品種とミサトゴールデン(同0.442),育成品種とゴールデンメロン(同0.396)であった.育成品種について総あたりで近縁係数を計算した結果,お互いの近縁係数は0.115~0.856まで広く分布した.この近縁係数を用いてクラスター分析を行った結果,遺伝的多様性は育成当初からあまり広がっていないと推察された.農業特性の結果からも育成品種と近縁係数の高いはるな二条は醸造適性だけでなく収量や成熟期にも影響を与えていることが明らかとなった.育成品種と病害抵抗性母本との近縁係数では,0.125~0.008と極めて低いことが判明した.今後,育成品種の遺伝的背景が狭くなる危険性を回避し,遺伝的背景を拡大するためには,新たな遺伝資源の探索・導入を図るとともに家系図や近縁係数を考慮しながら育種計画を立てることにより,多様性を維持した効率的な育種が進められるものと考えられる.
形態
  • 福澤 康典, 小宮 康明, 上野 正実, 川満 芳信
    2009 年 78 巻 3 号 p. 356-362
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    サトウキビ(Saccharum spp.)は生育初期の気象災害によって枯死することが多く,その結果収量が著しく低下する.これらを改善するためには深根性の根をできるだけ早く形成させ生長を促すことが重要と考えられる.そこで本研究では,サトウキビの根系の様相と初期生育との関係を明らかにするため,深さ1mのポットを用い6品種を供試して40日間栽培し,一次根数,根重密度,および根の深さ指数(RDI)の調査と成長解析を行った.ポット土壌0~30cmの層において,茎根数は根重密度と有意な正の相関関係にあったが,さらに深い層においては両者間に有意な関係は見られなかった.また茎根数が多い個体は全根数に対する茎根数の割合(茎根数/全根数)が高くなることが分かった.茎根数/全根数はRDIとの間に有意な関係は認められず,相対成長率(RGR)との間に有意な正の相関関係が認められた.以上より,茎根の発達は根重密度と茎根数/全根数の増加を促し,結果的に生育初期のRGRを高めることが分かった.
  • ―2か年延べ26圃場の調査結果―
    小柳 敦史, 川口 健太郎
    2009 年 78 巻 3 号 p. 363-370
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    2007年産及び2008年産の冬作で農林61 号が耕起または不耕起栽培された茨城県稲敷市,同県筑西市及び桜川市にある3つの農業経営体が管理する2か年延べ26圃場で草丈と土壌水分の調査を行った.まず,2007年産で稲敷市の1.8haの水田圃場内において,10m間隔の格子状に81地点で調べた結果,土壌水分と草丈に有意な負の相関関係を認めた.2007年産では,これを含む7圃場のすべてで両者に負の相関関係が得られ,そのうち6圃場では相関係数が有意であった.つぎに,2008年産で計19圃場において同様の調査を行った.調査の結果,1圃場で有意な正の相関関係が得られたものの,他の18圃場では負の相関関係が得られ,そのうち15圃場では相関係数が有意であった.なお,土壌水分と草丈に負の相関関係が得られた3圃場について,土壌の可給態窒素,リン酸及びカリ含量を調べた結果,1圃場では土壌養分と草丈に正の相関関係がみられたが,2圃場では関係がみられなかった.以上のことから,茨城県南部の水田圃場では多くの場合,土壌水分の過多がコムギの生育を抑制するひとつの原因となっていたと考えられる.
  • 川島 長治
    2009 年 78 巻 3 号 p. 371-381
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    秋田県の主要な米産地である大潟村と県南部における水稲の生育・収量,および乾物生産の特徴を明らかにしようとした.大潟村では分げつの発生が遅く,かつ少なく,m2当たり穂数が少なかった.しかし1穂籾数の多い「穂重型的」な水稲で,m2当たり籾数は県南部とほぼ同様の34000~35000であるが,千粒重が軽かった.収量は,大潟村610kg/10aで県南部より約20kg少なかった.収穫期における地上部乾物重はおよそ1500g/m2で両地域間に相違はないが,大潟村の方が穂や枯死部は軽く茎や葉は重かった.穂の乾物重は穂揃い期後30日の間に急速に増加したが,大潟村では10日後頃の増加が少なかった.茎では県南部で穂揃い期後10~37日間はゆっくり減少し,以後やや増加したが,大潟村では10日後までやや増加し,その後減少した.枯死部では大潟村,県南部ともに登熟期間中終始増加したが,その程度は大潟村で小であった.以上から,大潟村における「海洋性的」気候,やや低めに推移する水・地温,生育初期の深水管理,土壌の養分保持力の強さなどによってもたらされた生育前半の分げつ発生の抑制は,登熟後期における葉の「生理的活性」の保持につながるが,澱粉の穂への転流は県南部の方が効率的で,これらのことが両地域間の収量および千粒重の相違となっている.
  • 前田 英三, 三宅 博
    2009 年 78 巻 3 号 p. 382-386
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    X線マイクロCTスキャナを用いて,コンピュ-タ断層撮影(computed tomography : CT)を実施し,イネの穂軸の内部画像を測定・構成した.イネの穂軸内に存在する大維管束と小維管束の走向を,下位枝梗着生部につき,穂軸の下部から上部に向けて追跡した.大維管束は穂軸内で環状に配置されているが,1本の大維管束が穂軸を走向中に2本の大維管束に別れる場合があった.また隣接する大維管束と合体したのち,環状配置から離れて,着生する枝梗内に移る場合が観察された.さらに,1次枝梗着生部で特定の1本の大維管束が周辺に移動したのち,枝梗内に移り走向した.
  • 本間 香貴, 白岩 立彦
    2009 年 78 巻 3 号 p. 387-394
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    農家圃場における夏期のダイズの水ストレス状態を簡易に把握するために,熱収支式に基準温度として水稲群落の表面温度を組み込んだ方法について検討を行い,計測例も示した.ダイズと水稲群落の蒸散速度比の補数(1−ES/ER)は,(1)ダイズと水稲群落における空気力学的抵抗が等しい,(2)水稲群落の植被抵抗は圃場間で差異がないと仮定することにより,ダイズと水稲群落の表面温度差(TcSTcR)と水稲群落と大気間の水蒸気圧勾配(VPD*)を用いた簡易な式により表わすことができる.モデル式の感度解析の結果に基づくと,これらの仮定に伴う誤差は比較的小さいと見積もられた.2006年に福知山市夜久野町大油子集落で行った測定では,1−ES/ERの測定時間による変動は小さく,代表的な水ストレス指標であるCWSI(Crop Water Stress Index)と同程度の傾向を得ることができた.対照とする水稲群落の均一性や,ダイズと水稲群落における気象の同一性などが求められるものの,本法は農家圃場における効果的な評価手法であり,今後航空機リモートセンシングなどへの適用が期待できると考えられた.
  • 吉田 智彦, Anas , 小林 俊一
    2009 年 78 巻 3 号 p. 395-398
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/13
    ジャーナル フリー
    生物種あるいは品種間の相互関係を表示するために,通常はコンピュータソフトを利用したクラスター分析により樹状図を作成しているが,教育的効果を目的としてコンピュータを用いず手動でクラスター分析をすることを試みた.オオムギ品種間のRAPD分析によるDNA多型データを用いて,品種間で異なるバンドを示したDNAマーカー数(異なるマーカー数)をその品種間での距離とした.まず,異なるマーカー数の最も少ない組合せを選び,それを最初のクラスターとした.次にそのクラスターの平均値からの距離と残りの品種との間の値を計算し直して,第2のクラスターを決定し,順次同様に行っていった.育成地の異なるオオムギの二条,六条種を含む品種間で試みたところ,ほぼ満足すべき結果が得られた.コンピュータソフトを利用した結果とも一致した.本方法では,クラスター分析を手計算で行うことにより,理解が容易であり,教育的効果が大きい.
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