日本作物学会紀事
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81 巻, 2 号
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総 説
  • 吉村 泰幸, 松尾 和人
    2012 年 81 巻 2 号 p. 137-147
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    環境ストレス耐性遺伝子組換え植物は,将来の人口増加や地球の温暖化に伴う気候の変動に対して安定的に収量を確保する手段として期待されている.しかしながら,環境ストレスに対する耐性という特性は,これまで認可された除草剤耐性および害虫抵抗性と比較して,植物の適応度や自然環境に侵入する能力に影響を及ぼす可能性があり,環境ストレス耐性を付加された植物が,遺伝子導入前の宿主植物よりも大きな生態的地位を占める可能性が指摘されている.現在,このような新しい遺伝子組換え植物の環境に対する影響評価方法について国際会議等で議論されているが,確定的な答えは未だない.日本を含む米国,カナダ,オーストラリア,EUにおいては,環境ストレス耐性遺伝子組換え植物の野外試験が既に開始されており,本論文では,これらの国が,環境ストレス耐性遺伝子組換え植物の自国への導入に対しどのような法的枠組みの中で,どのような環境に関する安全性評価を行うのかを,各国の農業的な背景とともに整理した.その結果,環境ストレス耐性遺伝子組換え植物の環境影響評価については,各国ともに,現行の評価システムをそのまま適用する,あるいは,その枠組みの解釈を拡大し,新しい手法を付加しながら,評価していく方針であると考えられた.現在提案されている新しい評価手法の一つに植物個体群動態モデルを取り入れた方法があるが,近い将来,このような手法を用いた環境ストレス耐性遺伝子組換え植物そのものを用いた研究によってその評価方法の妥当性が検討され,標準となる手法が確立されていくものと考えられる.
  • 山内 稔
    2012 年 81 巻 2 号 p. 148-159
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    稲作の低コスト・省力化のため直播栽培の普及が求められている.本総説では最近開発された鉄コーティング種子を用いた湛水直播技術について,発案と開発の経緯を他の直播技術との関連性に基づいて論じ,技術の内容と評価を概説する.鉄コーティング種子は浸種または催芽した発芽準備期のイネ種子を還元鉄粉で造粒して酸化処理した後乾燥したものであり,手作業で,または機械化して大量に製造できる.鉄コーティング湛水直播は表面播種であることと,コーティング済みの種子を長期保存できそのまま播種できる点において,酸素発生剤を使う土中播種や欧米およびアジアで普及している催芽種子の湛水または落水表面播種とは異なる.鉄コーティング種子は浮かず,スズメによる食害を受けにくく,また種子伝染性病害虫が発生しにくい.本技術を普及させるためにはコーティング種子作製時の鉄の酸化発熱による種子の損傷問題の解決,出芽遅延の軽減,苗立ち期の水管理の改善および収量の向上が課題であり,発芽準備期の種子に関する生理学的解析,点播,条播および散播における収量向上に関する実証的研究および無代かき条件下での播種技術の開発が望まれる.
研究論文
栽培
  • 柴田 康志, 松田 裕之, 森静 香, 藤井 弘志
    2012 年 81 巻 2 号 p. 160-166
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    山形県庄内地域では,2004年8月20日および8月31日に東北地方の日本海側を通過した台風第15号および第16号に伴ってダイズ被害が発生した.2004年産ダイズの市町村別収量は1994~2003年の平均値と比較すると18.1~50.8%であり,台風第15号および第16号に遭遇して収量が大きく低下した.庄内地域におけるイネの作況指数は87であり,ダイズはイネに比べて甚大な被害が発生した.また,ダイズの収量は,台風第15号による潮風被害をより強く受けた庄内地域北部の市町村が,南部の市町村に比べて低かった.庄内地域北部では,台風第15号通過直後に小葉が脱水症状を示したのち縮葉褐変し,やがて早期に落葉した.さらに,庄内地域北部における8月23日の小葉褐変症状は,北になるほど,また海岸線から調査地点の距離が短いほど被害程度が大きい傾向を示した.登熟期間である2004年8月23日に潮風害の少なかった庄内地域南部に位置するダイズ圃場において海水を散布し,収量関連形質に及ぼす影響を検討した結果,成熟期の全重,稔実莢数,稔実粒数,子実重,および百粒重は海水散布により減少し,海水散布量と有意な負の相関を示した.その要因として,海水散布量が多くなるほど縮葉褐変および早期落葉する小葉数が増加し,光合成産物および窒素量が子実へ転流する量が減少したこと,および奇形莢が増加して正常な莢数が減少したためと推定された.以上のことから,山形県庄内地域では両台風に伴った強風によりダイズの収量が低下し,さらに北部では台風第15号に伴う潮風害により,南部に比べて収量が低下したことが明らかになった.
  • -開花期以降の昼・夜温がキノアの子実肥大に及ぼす影響-
    磯部 勝孝, 氏家 和広, 人見 晋輔, 古屋 雄一, 石井 龍一
    2012 年 81 巻 2 号 p. 167-172
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    起源地が異なるキノア2品種を人工気象室で栽培し,昼夜の気温が子実肥大に及ぼす影響を明らかにした.供試した品種はValleyタイプのAmarilla de Marangani(以下,AM)とSea levelタイプのNL-6である.両品種とも播種から開花始めまでは昼温25℃,夜温10℃,日長13時間で栽培し,開花始めに昼温を25℃,夜温を10℃(25/10℃区),15℃(25/15℃区),20℃(25/20℃区)の3段階に設定する区,および夜温を17℃,昼温を20℃(20/17℃区),25℃(25/17℃区),30℃(30/17℃区)の3段階に設定する区の合計6区を設けた.全ての区において,開花始め以降の日長は11時間とした.キノアの子実肥大に対して10℃から20℃の範囲では夜温の影響はなかったが,昼温が20℃から30℃の範囲では両品種とも低いほど子実肥大が促進された.その結果,昼温が20℃の時の1000粒重が最も大きくなったが,これは粒径に対する影響であり,粒厚に対しては影響が小さかった.昼温を20℃にするとValleyタイプのAMは1000粒重と粒数が増加し,昼温が20℃から30℃の範囲では昼温が20℃の時に子実重が最も大きかった.一方,Sea-levelのNL-6は昼温が低くなるほど粒数が減少し,子実重は昼温が30℃の時が最も大きかった.このことからAMとNL-6では子実肥大の機構に及ぼす昼温の影響は異なると考えられた.
品質・加工
  • 平 将人, 二瓶 直登, 遠藤 あかり, 谷口 義則, 前島 秀和, 中村 和弘, 伊藤 裕之
    2012 年 81 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    タンパク質含有率の増加を目的とした出穂期の窒素追肥が,硬質コムギ品種ゆきちからの中華麺適性に及ぼす影響を検討した.出穂期における窒素追肥量の増加に比例してタンパク質含有率は高くなり,SDSセディメンテーション沈降量および湿グルテン含量は増加して生地物性は強くなった.一方,グルテンインデックスは低下したが,中華麺官能検査におけるゆであげ7分後の食感の評点は有意に高くなった.したがって,出穂期の窒素追肥によりグルテンインデックスは低下してグルテンの質は変化するが,生地物性が強くなることで中華麺のゆでのびを抑えられることが明らかとなった.また,福島県でゆきちからを喜多方ラーメン用として栽培する際に目標となるタンパク質含有率を明らかにするために,製粉工場でゆきちから100%で製造されたタンパク質含有率が9.1,9.8および10.8%の中華麺用粉を用いて中華麺官能検査を行い,タンパク質含有率と中華麺適性との関係を検討した.外国産硬質コムギを原料に用いたタンパク質含有率が11.8%の中華麺専用粉と比べて,ゆきちからの色相およびホシの程度の評点は10.8%でも有意に高かった.また,ゆであげ7分後の食感の評点はいずれのタンパク質含有率においても有意差は認められなかったが,総合評価の評点は9.8%および10.8%で有意に高かった.したがって,福島県で喜多方ラーメン用にゆきちからを栽培する際には,出穂期の窒素追肥により,タンパク質含有率を粉で10.0~11.0%程度にすることが望ましいと考えられた.
品種・遺伝資源
  • 山下 陽子, 田澤 暁子, 南 忠
    2012 年 81 巻 2 号 p. 183-189
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    ダイズ茎疫病はPhytophthora sojaeによる水媒伝染性の病害であり,本病害に対する抵抗性には,レース特異的な真性抵抗性とレース非特異的な圃場抵抗性が知られている.本研究は,水田転換畑で夏季に多湿土壌処理を実施し,真性抵抗性の影響を受けずに北海道品種の圃場抵抗性を検定する手法の開発を目的とした.本検定における抵抗性の指標には,2006~2007年において発病度との間に極めて強い正の相関を示し(r=0.992**~0.981**,n=35~37),かつ調査の簡便な枯死個体率が適切であると考えられた.北海道の既報10レース全てに感受性の16品種の2006~2007年における枯死個体率の順序は概ね安定しており,これらを圃場抵抗性に基づいて3ランクに分類し,6つの指標品種を選定した.2006~2009年の枯死個体率にはどの2カ年の間でも有意な正の相関がみられたが(r=0.542**~0.839**,n=26~57),抵抗性ランクが年次により異なる品種が17.1~34.6%認められ,2カ年以上の結果から総合評価する必要があった.北海道の主要レースA,Dに対する真性抵抗性反応が明らかな品種およびレース判別品種を用いた解析では,圃場と真性の両抵抗性の間に一定の関係が認められず,本検定法では真性抵抗性の影響を殆ど受けずに圃場抵抗性を評価できることが明らかになった.本研究で開発した手法は,北海道主要品種の圃場抵抗性評価と併せて,ダイズ茎疫病圃場抵抗性の品種開発に活用できる.
作物生理・細胞工学
  • 神田 英司, 木村 利行, 及川 あや, 大川 茂範, 佐々木 次郎, 浅野 真澄, 佐藤 雄幸, 金 和裕, 藤井 弘志, 藤村 恵人, ...
    2012 年 81 巻 2 号 p. 190-193
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    イネの穂ばらみ期耐冷性が栄養成長期の気象条件により変動するか評価した.北海道・東北の6地点(2008年),7地点(2009年)の水田に設置した同一土壌,肥料を使用したポットに品種「ひとめぼれ」を移植し,それぞれの地点で生育させ,幼穂形成期に,ポットを掘り上げ,耐冷性検定を冷水深水法にて実施した.耐冷性検定した不稔歩合は,両年ともに地域により有意に異なった.その不稔歩合の変動の多くの部分を栄養成長期の温度環境で説明でき,栄養成長期の温度が低い地域で不稔歩合が高い,すなわち穂ばらみ期耐冷性が弱いことを明らかにした.
  • 二瓶 直登, 増田 さやか, 田野井 慶太朗, 頼 泰樹, 中西 友子
    2012 年 81 巻 2 号 p. 194-200
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    有機態窒素の作物生育に与える影響を解明するために,単一窒素源としてタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を用いて5種類の作物を無菌栽培し,各アミノ酸に対する作物毎の生育への影響を検討した.作物別の比較をすると,イネ,チンゲンサイでは,アミノ酸間の生育差が大きく,コムギ,キュウリはイネ,チンゲンサイよりアミノ酸間の生育差は小さかった.ダイズでは,アミノ酸間の生育差はほとんどみられなかった.アミノ酸別の比較をすると,アスパラギン,グルタミンでは,無窒素区より地上部乾物重,地上部窒素含量の増加がみられ,一方,システイン,メチオニン,ロイシン,バリンでは地上部乾物重や地上部窒素含量が無窒素区より低下した.そこで,アミノ酸濃度を変えた時の影響を調べるため,生育への影響が異なる5種類のアミノ酸を単一窒素源に選び,イネ幼植物に対する影響について検討した.その結果,グルタミンで生育したイネは窒素濃度増加に伴い地上部乾物重,地上部窒素含量は増大した.セリン,バリンで生育したイネは,低濃度から生育阻害がみられた.グルタミンは無機態窒素を代謝する際に最初に同化されるアミノ酸でもあるので,植物体内で濃度が高くても障害をおこさず,窒素源として効率的に利用されていると考えられた.セリン,バリンはグルタミンに比べてアミノ酸生成経路の末端で生成されるアミノ酸であるため,植物に吸収されても代謝されず植物体内で濃度が上がり,生育を阻害したものと考えられた.
  • 大久保 和男, 渡邊 丈洋, 宮武 直子, 前田 周平, 井上 智博
    2012 年 81 巻 2 号 p. 201-206
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    イネ品種の脱粒性を穂の握り締めによって簡便かつ正確に評価する方法を明らかにするため,脱粒性が「難」の3品種,「中」の2品種,「易」の1品種,「極易」の1品種の計7品種を供試して,一度に握る穂数を1穂,3穂,5穂の3通りとし,4人の調査者がそれぞれ50株を測定したデータに基づき,評価指標,一度に握る穂数,調査株数を検討した.評価指標としては,調査者の手の大きさや一度に握る籾数の影響を受け難い脱粒割合が妥当と判断された.一度に握る穂数別に4人の調査者間の6組合せにおける脱粒割合の相関係数の平均値を求めたところ,3穂では0.996と極めて大きく,5穂の0.990と1穂の0.975に比べても大きかった.また,3穂では相関係数のばらつきを表すレンジも最小であった.再現性が高く,調査者による評価の差異が最も小さい調査方法は,3穂を握り締める方法であった.脱粒割合を算出するために用いる脱粒数平均値を危険率5%,抽出誤差率を±10%として調査するために必要な調査株数は,脱粒性の難易によって差異があり,「難」の品種は41~46株,「中」では24~32株,「極易」では14~18株であった.脱粒性が未知の品種の評価に際し,正確な評価のために必要な調査株数は45株程度と判断した.
  • 藤村 恵人, 藤田 智博
    2012 年 81 巻 2 号 p. 207-211
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    玄米外観品質の高温耐性に関する品種間差は農家の品種選定において重要な情報である.しかしながら,試験水田やポット栽培で認められた品種間差が,栽培管理の多様な農家水田においても同様に認められるとは限らない.2010年8月は気温が高い水準で持続しため,福島県内各地でコシヒカリとひとめぼれの登熟期がともに高温に遭遇し,農家水田における玄米外観品質の高温反応の品種間比較を行うことが可能と考えられた.そこで,福島県内に設けられている作柄判定圃のコシヒカリとひとめぼれについて白未熟粒(乳白粒,心白粒,背腹白粒および基部未熟粒)粒数割合を調査した.気温指標として,日平均気温と日最低気温の20日間平均値および基準温度を30℃とする日最高気温の10日間積算値を,出穂10日前から出穂15日後までの毎日を基点として算出した.白未熟粒のうち乳白粒は8.2%,背腹白粒は4.6%,基部未熟粒は1.2%,心白粒は0.01%であった.背腹白粒と基部未熟粒の粒数割合はコシヒカリの方がひとめぼれよりも有意に高く,乳白粒では品種間差は認められなかった.比較的粒数割合の高かった背腹白粒について,気温指標を用いて遭遇気温の品種間差を検討したところ,遭遇気温に品種間差は認められなかった.したがって,背腹白粒割合の品種間差は遭遇温度の差異に起因するものではないと考えられた.以上のことから,福島県内の一般農家の栽培管理下における玄米外観品質の高温耐性はコシヒカリに比べてひとめぼれの方が高いことが示された.
  • 小柳 敦史, 川口 健太郎, 村上 敏文
    2012 年 81 巻 2 号 p. 212-218
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/26
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により茨城県稲敷市にある20 aの水田転換畑でオオムギに被害が発生した.この圃場では,液状化にともない直径30 cm以上の噴砂が96点で発生し,噴砂の合計面積は252 m2 (圃場全体の12.6%) に及び,そこではオオムギが消失していた.噴砂はpHが3.7~5.4,ECが0.12~0.52 mS/cmであった.圃場には標高差が最大で267 mmとなる凹凸が生じ,相対標高の低い場所では地震の直後から断続的に水たまりができ,湿害によりオオムギの生育と収量が低下した.噴砂の一部を採取してシードリングポットにつめ,グロースキャビネット内でオオムギを生育させたところ,pHが低い噴砂でも石灰を加えてpHを矯正し,施肥を行うことでオオムギが正常に生育するようになることが分かった.このため,この圃場ではオオムギ収穫後に石灰資材で土壌のpHを矯正し,レーザーレベラで均平化すれば通常の作物栽培が可能であると考えられた.
情 報
日本作物学会シンポジウム紀事
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