日本作物学会紀事
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83 巻, 2 号
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研究論文
栽培
  • 辻田 泉, 木村 浩, 弓達 隆, 山口 憲一
    2014 年 83 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    愛媛県におけるハダカムギの播種適期は11月中下旬であるが,気象条件などの影響により適期播種が出来ないことがある.本研究では,ハダカムギ品種マンネンボシを適期より約30日遅く,晩播きした場合における,窒素施用法の違いが収量と品質に及ぼす影響について検討した.窒素施用量は適期播区では,成分量で基肥7 g m-2,中間追肥2 g m-2,穂肥3 g m-2とし,晩播区ではさらに基肥7,9 g m-2,中間追肥0,2 g m-2,穂肥3,5 g m-2を組み合わせた各処理区を設けた.その結果,晩播区ではおもに穂数の不足により適期播区より12~45%(3ヶ年平均28%) 減収した.晩播区の中では,総窒素施用量を14 g m-2以上に増やした区では穂数の減少を抑制でき,適期播区対比で平均77%の収量をあげることができた.また,晩播区では遅れ穂が発生し,細麦率と硝子率が高く,精麦白度が低くなるなど品質が低下し,特に穂肥5 g m-2区でその傾向が強かった.それゆえ晩播きにおいて収量を確保し,かつ品質低下を防ぐには,初期生育を促進し,穂数を確保することが重要で,生育初期に窒素の肥効が十分に発揮できるような施用法がよいと考えられた.すなわち,晩播きの場合,適期播きよりも基肥を増量した基肥9 g m-2,中間追肥2 g m-2,穂肥3 g m-2の施用が適当と考えられた.
  • 藤井 昭裕, 中村 聡, 後藤 雄佐
    2014 年 83 巻 2 号 p. 112-117
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    スイートソルガムの節間長,節間断面積,節間体積などの節間の諸形質を節間位順に並べて表現される節間形質パターンは,それ自身,茎の構造上重要な形質であり,また,茎収量や茎体積の成立過程の解析に重要な位置を占めると考えられる.東北地方で早晩性の異なるスイートソルガム品種を用いて茎体積と節間形質パターンとの関係について調査し,生育過程と関連させて解析した.その結果,節間断面積パターンは全ての品種で3ヵ年とも単一の型を示した.一方,節間長パターンではピークの数や位置が年次間で変動し,その変動には品種間差が存在したが,品種固有の型を示すものとは言えなかった.茎体積はいずれの品種においても2011年で最大となった.2011年の節間形質パターンでは,他の栽培年より下位節間が太く,短くなる傾向にあり,また,茎伸長開始期は,年次間でほぼ一致していた.これらのことにより,2011年は初期生育期間の気温が高く,葉の出葉間隔が短かったために,非伸長節間数が多くなり,相対的に基部節間の伸長が抑制されてより太い茎となったものと考えられた.このように,節間形質パターンを用いて,生育と節間体積の構築過程との関連性に関して解析できることが明らかとなった.
  • 原 貴洋, 荒川 祐介, 長浜 隆市, 山口 典子, 住 秀和, 田中 章浩, 生駒 泰基
    2014 年 83 巻 2 号 p. 118-125
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    南西諸島においては,新規作物ソバの栽培の酸性土壌地域への拡大による赤土等流出の低減が期待されており,また,家畜ふん堆肥の活用による減化学肥料が畜産業と耕種農家の共通課題となっている.著者らは前報において,極強酸性土壌におけるソバ栽培では家畜ふん堆肥施用により顕著に増収することを示した.本研究では,家畜ふん堆肥を施用した条件でのソバ栽培について,減化学肥料の可能性を検討した.牛ふん堆肥および豚ぷん堆肥1 kg m-2 を施用する条件の下で,リン酸とカリの肥料を完全に削減したところ,子実収量,収量構成要素,茎葉重,地上部リン酸含量,地上部カリ含量の減少は認められなかった.豚ぷん堆肥1 kg m-2施用の条件の下では,リン酸肥料,カリ肥料に加えて窒素肥料も完全に削減したところ,茎葉窒素含量は有意に低下し,子実窒素含量はやや低下したが,収量および収量構成要素の低下は認められなかった.土壌養分含量は,窒素,リン酸,カリのいずれについても,化学肥料施用量削減にともなう低下は認められなかった.以上より,家畜ふん堆肥を1 kg m-2施用する条件では,リン酸肥料とカリ肥料は完全に削減でき,窒素肥料も大幅に削減できることが明らかとなった.
品質・加工
  • 中村 充, 水上 優子, 青木 法明, 梅本 貴之, 日渡 美世, 池田 達哉, 荒木 悦子, 船生 岳人, 加藤 満, 城田 雅毅
    2014 年 83 巻 2 号 p. 126-135
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    米の澱粉組成タイプとその製粉特性および吸水特性との関係を解明するために,澱粉組成が異なる 「日本晴」 の準同質遺伝子系統を含む水稲27品種・系統の澱粉組成と製粉特性の米粉粒径,澱粉損傷度,米粉および精米の吸水性を調査し,さらに胚乳細胞組織の形態との関係を検討した.その結果,澱粉組成はDNAマーカー分析も併用して,アミロペクチン超長鎖比率による3タイプ(K,H,Y)と短鎖比率による2タイプ(S,L)の組合せから,KS,KL,HS,HL,YS,YL の6グループに大別された.米粉粒径中央値はアミロペクチン超長鎖比率の低いKタイプが,同比率の高いYタイプより有意に大きく,同比率が米粉粒径に関連していた.澱粉損傷度はYL<(HL,YS)<(KS,HS)のタイプ間で有意差が認められ,アミロペクチン短鎖比率が低くアミロペクチン超長鎖比率が高いと,澱粉損傷度が低くなることが明らかとなった.米粉の飽和吸水率は澱粉損傷度と正の相関があるだけではなく,アミロース含有率と負の相関のあることが精米の吸水性から確認された.澱粉組成の異なる「日本晴」の準同質遺伝子系統(KL,HS,HLタイプ)の玄米白色度を調査し,胚乳細胞組織の形態を走査型電子顕微鏡で観察したところ,KLおよびHLタイプの玄米白色度が高く,アミロプラストや澱粉粒の形態がタイプ間で異なっていた.このため,澱粉組成タイプによって澱粉の蓄積様式が異なり,それが製粉特性に影響している可能性が示唆された.
品種・遺伝資源
  • 松山 宏美, 島崎 由美, 大下 泰生, 渡邊 好昭
    2014 年 83 巻 2 号 p. 136-142
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    北海道から九州までのコムギ在来種と育成品種,計94品種を二年栽培し,湾曲型倒伏への耐性と稈長,一穂重,稈基部の形質の関係を検討した.稈長は,両年とも直立のまま成熟した8品種,一年のみ倒伏した29品種,両年とも倒伏した57品種の平均値の順に有意に小さかった.加えて,両年とも倒伏した57品種の稈長と出穂から倒伏までの日数の間には有意な負の相関関係があり,稈長が大きいほど早期に倒伏することが示された.両年とも倒伏した57品種のうち,稈長93.4 cm以上のグループでは稈長と出穂から倒伏までの日数の間に有意な負の相関関係があり,稈長93.4 cm未満のグループでは稈基部の断面二次モーメントと出穂から倒伏までの日数の間に正の相関関係があった.従って,稈長の大小によって耐倒伏性と関係する形質が異なり,稈長93.4 cm以上の中稈及び長稈グループでは稈長が大きいほど,稈長93.4 cm以下の短稈グループでは稈基部が脆弱なほど早期に倒伏しやすいと考えられた.また,稈基部の曲げモーメントと断面二次モーメント,曲げモーメントとリグニン含有率の間には有意な正の相関関係があることが示され,リグニン含有率は稈基部の材質を強化し曲げモーメントに影響を及ぼすことが示唆された.
収量予測・情報処理・環境
  • 田中 恒大, 平井 康丸, 猿田 恵輔, 井上 英二, 岡安 崇史, 光岡 宗司
    2014 年 83 巻 2 号 p. 143-154
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    近年,気象変動の増大や担い手の高齢化と減少により,水稲生産に関する種々のデータを収集し,収量・品質の高位安定化と次世代への技術継承に利用する取り組みが重要になってきている.そこで本研究では,水稲生産に関する多種類のデータに基づいて収量・品質の決定要因を解析する手法として,回帰木の有効性を明らかにすることを目的とした.出穂期以降の気象環境と稲の生育・栄養状態を説明変数とし,精玄米収量(収量),千粒重および玄米タンパク質含有率(タンパク)の決定要因を解析した.また,一般的に多変量の要因解析に用いられる重回帰分析との比較を行った.収量の解析においては,いずれの手法を用いた場合も籾数が決定要因として特定された.しかし,収量と籾数の線形関係が強かったため,予測精度は重回帰分析の方が優れた.データ構造が非線形であった千粒重の解析においては,重回帰分析では妥当な決定要因は特定されなかった.一方,回帰木は,出穂後約20日のSPAD値(SPAD20)との関係の解明を通して,決定要因の特定に寄与する示唆を与えた.また,タンパクの解析においてはSPAD20が決定要因として特定されるとともに,SPAD20が高い条件において,出穂後5~30日間の平均気温が高い場合にタンパクが低下することが示唆された.回帰木は階層的なデータの分割により,一部のデータを対象にして変数間の関係を明らかにすることが可能であり,これは重回帰分析に見られない有利な特長と考えられた.
研究・技術ノート
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 関正 裕
    2014 年 83 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    寒冷地においてエアーアシスト条播機を利用した湛水直播栽培法を確立するため,エアーアシスト条播機を利用した播種同時施肥栽培の苗立ち,乾物生産性および収量性について,圃場で慣行栽培と2ヶ年比較した.その結果,播種同時施肥条件の苗立ち率は,慣行条件と同等であった.また,その後の生育では,播種同時施肥条件の地上部乾物重,茎数,LAI,窒素吸収量は慣行条件に比べて同等かそれ以上に推移して,慣行条件と同等以上の収量を確保した.
  • 朝倉 草平, 松村 篤, 今堀 義洋, 大門 弘幸
    2014 年 83 巻 2 号 p. 160-164
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    水田転換畑で問題となっている帰化アサガオ類の発芽に及ぼす気相酸素濃度の影響を明らかにするために,アルゴンガスで気相を置換する簡易な発芽試験法によって発芽試験を試みた.本法では,酸素濃度0%を想定した処理区の酸素濃度は,実測値で0.62%であり,完全嫌気条件は設定できなかった.想定した酸素濃度 (0,1,5,10,20%) 条件下では,マメアサガオ (Ipomoea lacunosa L.) は,いずれの濃度設定区でも比較的高い発芽率を示し,ホシアサガオ (I. triloba L.) は,0%区においても30%の発芽率を示した.一方,マルバアメリカアサガオ (I. hederacea (L.) Jacq. var. integriuscula A. Gray) は,対照として供試したダイズ品種フクユタカと同様に,0%区と1%区では発芽が著しく抑制された.置床4日目における幼根長および下胚軸長については,マルバアメリカアサガオではダイズと同様に酸素濃度の低下に伴う抑制が顕著であった.以上のように,帰化アサガオ類の酸素低濃度条件における発芽特性には種間差があることが明らかになった.また,今回用いた簡易ガス置換法は,作物の湿害を理解する際の酸素低濃度条件における簡易な発芽試験法として利用できることが示された.
  • 白土 宏之, 大平 陽一
    2014 年 83 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/21
    ジャーナル フリー
    秋田県横手市の水田において,2012年 7月6日(出穂28日前)の冠水によって奇形穂が発生し,奇形穂の形態によりイネ黄化萎縮病と診断された.イネ黄化萎縮病による奇形穂の発生実態を明らかにするために,奇形穂と奇形小穂の形態やその発生割合,圃場内分布を調査した.奇形穂は伸長型,短縮型,上伸下短型に分類できた.伸長型は,穂長が長く,小穂数が少なく,穎が長い小穂,有芒の小穂が多かった.短縮型は稈長と穂長が短く,小穂数は多く,穎が短い小穂が多かった.上伸下短型は上部が伸長型,下部が短縮型で小穂の貫生発生率が高かった.貫生発生率,有芒率,長穎率は1次小穂に次いで2次小穂が高く,短穎率は3次小穂で高かった.奇形穂の奇形小穂率は80%以上で,収量にはほとんど寄与しないと考えられた.奇形穂のある株の割合は66%,全穂に対する奇形穂率は7.8%であった.奇形穂率は水口周辺の排水不良箇所で高く,水尻で低かったが,田面の高さとは有意な相関が見られなかった.本事例におけるイネ黄化萎縮病による減収率は6%と推定された.
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