東京都日野市で継続的に調査が行なわれている8地点の湧水のうち,2地点では水温の季節変化が大きい.日野市には温泉はなく,水温の季節変化が地中伝導熱によって生じることを考えると,これら2地点の湧水は,恒温層よりも浅いところを流れる地下水によって涵養されていなければならない.つまり,これら2地点では,地上に達した降水が速やかに浸透・湧出することが期待される.
このことを確認するために,降水にはほとんど含まれないSiO
2濃度に着目して湧水の調査・分析を行なった.日野市に最も近いAMeDAS八王子の年降水量(1,572 mm)の約1割を超える連続雨量が観測された事例は2006年9月~2007年10月に4回あり,上述した2地点の湧水では,豪雨後のSiO
2濃度の平均値は,晴天時(11回)の平均値よりも統計的に有意に小さかった.一方,残り6地点の湧水では,豪雨後と晴天時のSiO
2濃度の平均値の差は統計的に有意でなく,湧水温の季節変化も小さかった.すなわち,同じ日野市内の湧水であっても涵養・湧出機構が異なる可能性が示唆される.
日野市が調査を行なった1990~2005年のデータでは水温の季節変化が小さかったにも関わらず,筆者たちが調査を行なった2006~2007年には水温の季節変化が大きくなっている湧水があることが,判別分析によって明らかになった.すなわち,環境の変化に伴って性質が変わりつつある湧水があることが,本研究によって示された.
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