水文・水資源学会誌
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22 巻, 3 号
Vol. 22 No.3
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 八田 茂実, 早川 博, 朴 昊澤, 山崎 剛, 山本 一清, 太田 岳史
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 177-187
    発行日: 2009/05/05
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
    本研究ではレナ川流域を対象に長期間の日単位河川流量を推定できる水文モデルの構築を目的とした.
    本研究で構築した水文モデルは,植生・積雪・土壌の熱・水交換を考慮できる陸面モデルと,河道網上の洪水追跡による流出モデルから構成され,陸面モデルで計算された土壌からの流出水が流出モデルの入力値となる.対象流域では,遅い流出成分と冬季間の河川氷が流出に大きな影響を与えている.このため,流出モデルでは,1)陸面モデルで計算された流出水の30 %を遅い流出成分として,貯留関数を介して流出モデルの入力として与えること,2)河川氷厚を同時に計算し,結氷していない部分を流下させることによってその影響を考慮した.
    本研究で構築した水文モデルを1987年から2003年までの期間に適用した結果,全期間に渡ってハイドログラフをほぼ再現できることを確認した.この結果は,本研究で構築した水文モデルが北方圏の河川における水循環のシミュレーションに有用なものであることを示している.
  • 内田 太郎, 高橋 史, 恩田 裕一, Dian SISINGGHI, 加藤 弘亮, 野呂 智之, 小山内 信智
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 188-197
    発行日: 2009/05/05
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
    本研究ではインドネシア,ブランタス川上流域のスングルダムにおける堆砂量の増加の原因を定量的に把握するため,天然放射性核種のPb-210exを土壌粒子のトレーサーとし,森林地および耕作地の土壌侵食量を推定した.また,ブランタス川源流域とレスティ・アンポロン川流域で河床堆積物を採取し,またスングルダム堆積物について,Pb-210ex濃度に基づいて潜在的な土砂供給源からの土砂流出寄与率を推定した.森林地および耕作地における平均土壌侵食量は,それぞれ0.4 t ha-1 y-1 と11.1 t ha-1 y-1 であった.また,スングルダム堆積物に対する耕作地の表面侵食による土砂流出寄与率はブランタス上流域全体では約30 %と推定され,本流域において耕作地の表面侵食による土砂流出が主要な土砂供給源のひとつであることがわかった.また,スングルダム流域において,森林地と耕作地の表面侵食に由来する土砂生産量は約800,000t y-1と見積もられた.この値は既存研究で算出されたスングルダムの平均年間堆砂量の約30 %に相当し,ブランタス上流域全体の耕作地からの土砂流出寄与率との間に整合性がみられた.
  • 山本 隆広, 陸 旻皎
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 198-208
    発行日: 2009/05/05
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は分布型水文モデルを用いて数十年にわたる長期流出計算を行い,それによって得られた河川流量の河川計画への応用可能性を検証することである.そのために,1978から2005年までの1時間単位の観測水文データが存在する一級河川土器川流域を対象とし,最近隣法により雨量を与え,分布型水文モデルのパラメータを同定した.また,モデル入力として,流域平均雨量,風速補正を施した雨量を用いた最近隣法も検討した.対象流域は解析期間にわたって大きな流域改変がなく,同定期間(1978-1992)と検証期間(1993-2005)の年間河川流量,流況曲線,洪水イベントに関して同程度の良い再現性を示した.さらに,観測年最大流量と計算年最大流量の統計学的な性質を調べるために,2標本コルモゴロフ・スミノフ検定を行った.その結果,有意確率,p値が0.773から0.998であり,かなり高い有意水準で観測年最大流量と計算年最大流量の分布が違うとは言えないことが分かった.また,標本から100年確率流量を推定した場合,計算流量時系列から得られる年最大流量により推定された100年確率流量の相対誤差が-10から20 %程度であった.以上のことから,モデルによる計算流量時系列を使った基本高水流量の算出も十分検討に値するものであることが分かった.
  • 吉田 裕一, 村上 正隆, 楜澤 義一, 加藤 輝之, 橋本 明弘, 山崎 剛, 羽田 紀行
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 209-222
    発行日: 2009/05/05
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
    奥利根流域(群馬県北部)は利根川最上流部に位置する多雪地帯であり,融雪を利用したダム運用が春先から初夏にかけての利根川流域への水資源の供給に重要な役割を果たしている.一方,利根川流域は1都5県2900万人の飲み水を支えているが,2~3年に1回程度の割合で渇水が頻発していて,さらに将来の気候変動による降雪量の減少の影響も懸念されている.このような状況の下,冬期間の降雪量を増やし,水資源を安定確保するための人工降雪技術についての基礎的調査が実施されてきた.
    本研究では人工降雪技術がどの程度渇水対策に寄与できるのか,数値モデルを用いて検討した.即ち, 2006/2007年冬期間の奥利根流域を対象として,雲解像非静力学大気モデル(NHM)による人工降雪の数値実験結果と積雪融雪モデル・流出モデルを用いて,ダム流入量およびダム貯水量に対する人工降雪の効果を定量的に評価した.この結果,人工降雪を行うことで融雪期(4~6月)の総流入量は矢木沢ダム域で17 %,奈良俣ダム域で20 %増加した.また夏期のダム制限容量に移行する6月30日のダム貯水率で見ると,矢木沢ダムでは70 %から100 %に,奈良俣ダムでは83 %から93 %に増加した.さらに初冬期の貯水率を下げることで渇水を想定した貯水量の計算を行ったところ,人工降雪により渇水を軽減できる可能性が分かった.これらのことから,人工降雪とダム運用を併用することが,今後の気候変動に対して安定的に水資源を確保するための有効な手段の1つであるといえる.
  • ― 東京都日野市を事例として ―
    成宮 博之, 中山 大地, 松山 洋
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 3 号 p. 223-234
    発行日: 2009/05/05
    公開日: 2009/06/08
    ジャーナル フリー
    東京都日野市で継続的に調査が行なわれている8地点の湧水のうち,2地点では水温の季節変化が大きい.日野市には温泉はなく,水温の季節変化が地中伝導熱によって生じることを考えると,これら2地点の湧水は,恒温層よりも浅いところを流れる地下水によって涵養されていなければならない.つまり,これら2地点では,地上に達した降水が速やかに浸透・湧出することが期待される.
    このことを確認するために,降水にはほとんど含まれないSiO2濃度に着目して湧水の調査・分析を行なった.日野市に最も近いAMeDAS八王子の年降水量(1,572 mm)の約1割を超える連続雨量が観測された事例は2006年9月~2007年10月に4回あり,上述した2地点の湧水では,豪雨後のSiO2濃度の平均値は,晴天時(11回)の平均値よりも統計的に有意に小さかった.一方,残り6地点の湧水では,豪雨後と晴天時のSiO2濃度の平均値の差は統計的に有意でなく,湧水温の季節変化も小さかった.すなわち,同じ日野市内の湧水であっても涵養・湧出機構が異なる可能性が示唆される.
    日野市が調査を行なった1990~2005年のデータでは水温の季節変化が小さかったにも関わらず,筆者たちが調査を行なった2006~2007年には水温の季節変化が大きくなっている湧水があることが,判別分析によって明らかになった.すなわち,環境の変化に伴って性質が変わりつつある湧水があることが,本研究によって示された.
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