膵臓がんでは
KRASの機能亢進型変異が90%以上で認められ,活性化RASを起点とする信号伝達経路の異常がその発生進展に必須であることが示唆される.さらに,
KRASの突然変異が認められない少数の膵臓がんにおいてはその下流に位置するMAPK経路に属する
BRAFの活性化型突然変異が認められることから,RASを介する信号伝達経路の中でもMAPK経路の異常が膵臓がん発生進展に主要な役割を担っていると考えられる.
KRASの突然変異は膵上皮内腫瘍性病変/pancreatic intraepithelial neoplasia(PanIN)において異型の弱い初期段階に相当する病変で既に認められ,PanINを介する膵臓がんのinitiationに関与する.PanINは異型の弱い段階から異型の強い病変を経て浸潤がんに至ると考えられるが,その過程ではCDKN2A,TP53,SMAD4,DUSP6などの腫瘍抑制分子の異常がその進展に関与している.このPanINを介する浸潤性膵管がん発生仮説が真に成立するかどうかを検証するために活性化型であるKras
G12Dを内在性に同所性に発現させる遺伝子改変マウスモデルが作成され,実際に同様の腫瘍発生過程が観察されることが証明された.さらに,家族性膵臓がん家系例の解析でPanINが家系内無症候者膵に有意に多く認められることが示されており,PanINを浸潤がん発生の高リスク病変ととらえ,その検出に努力することが膵臓がんの早期診断を可能にする方法であることが示唆される.以上の事実はRAS-MAPK経路の異常がPanIN発生から浸潤がんへの進展に至る過程でのmajor playerであることをあらためて認識させ,その下流標的遺伝子群が膵臓がんとしての実際の悪性形質を表出する役割を担う分子群として注目される.
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