膵臓
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22 巻, 1 号
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受賞によせて
特別寄稿
  • 古川 徹
    2007 年 22 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    膵臓がんではKRASの機能亢進型変異が90%以上で認められ,活性化RASを起点とする信号伝達経路の異常がその発生進展に必須であることが示唆される.さらに,KRASの突然変異が認められない少数の膵臓がんにおいてはその下流に位置するMAPK経路に属するBRAFの活性化型突然変異が認められることから,RASを介する信号伝達経路の中でもMAPK経路の異常が膵臓がん発生進展に主要な役割を担っていると考えられる.KRASの突然変異は膵上皮内腫瘍性病変/pancreatic intraepithelial neoplasia(PanIN)において異型の弱い初期段階に相当する病変で既に認められ,PanINを介する膵臓がんのinitiationに関与する.PanINは異型の弱い段階から異型の強い病変を経て浸潤がんに至ると考えられるが,その過程ではCDKN2A,TP53,SMAD4,DUSP6などの腫瘍抑制分子の異常がその進展に関与している.このPanINを介する浸潤性膵管がん発生仮説が真に成立するかどうかを検証するために活性化型であるKrasG12Dを内在性に同所性に発現させる遺伝子改変マウスモデルが作成され,実際に同様の腫瘍発生過程が観察されることが証明された.さらに,家族性膵臓がん家系例の解析でPanINが家系内無症候者膵に有意に多く認められることが示されており,PanINを浸潤がん発生の高リスク病変ととらえ,その検出に努力することが膵臓がんの早期診断を可能にする方法であることが示唆される.以上の事実はRAS-MAPK経路の異常がPanIN発生から浸潤がんへの進展に至る過程でのmajor playerであることをあらためて認識させ,その下流標的遺伝子群が膵臓がんとしての実際の悪性形質を表出する役割を担う分子群として注目される.
特集:膵癌化学療法の最前線
  • 峯 徹哉
    2007 年 22 巻 1 号 p. 10-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    The treatments for pancreatic carcinoma seem to be inadequate compared with other malignancies even at present, the rate of resectability is low compared with other malignancies. Therefore, the role of chemotherapy is important especially for inoperable patients with pancreatic carcinoma. The first line of chemotherapy for pancreatic carcinoma is gemcitabine, which has been approved for use. This year, TS-1 was also approved as one of the anticancer drugs for pancreatic carcinoma. In this manuscript, the present status of anticancer drugs for pancreatic carcinoma including trials of combination therapy of anticancer drugs is discussed.
  • 島崎 猛夫, 石垣 靖人, 源 利成, 元雄 良治
    2007 年 22 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    膵癌の塩酸ゲムシタビン(GEM)に対する感受性や耐性の分子メカニズムは明らかにされていない.本研究ではヒト膵癌細胞株PANC-1を対象にして,GEMによるアポトーシス関連遺伝子発現の変化を検討した.cDNAマイクロアレイ解析により,GEMを作用させたPANC-1細胞株において発現量が変化した372個の遺伝子が抽出された.これらの遺伝子群をIngenuity Pathway Analysis(IPA)を用いて解析したところ,gene expression,cell deathやDNA replicationに関する遺伝子がとくに変化していた.発現スコアの高かった上位2グループのパスウェイ解析により,p53mycの分子経路がPANC-1のGEM処理に連動して変化していた.半定量的RT-PCR法においても,p53関連因子であるTP53INP1のmRNA発現はPANC-1に作用させたGEMの濃度依存性に増加していた.以上の結果より,膵癌細胞のGEMに対する感受性や耐性の分子メカニズムに,p53およびmyc経路の関与が示唆された.
  • 中森 正二, 柏崎 正樹, 池永 雅一, 宮崎 道彦, 平尾 素宏, 藤谷 和正, 三嶋 秀行, 辻仲 利政, 中平 伸, 辻江 正徳, 武 ...
    2007 年 22 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    膵癌に対する第1選択化学療法剤として広く使用されているgemcitabine(GEM)の作用機序解析に基づいた治療効果増強のための基礎的・臨床的検討を行った.ヒト膵癌細胞株およびヌードマウス移植ヒト膵癌モデルにおいて行い,5-fluorouracil(5-FU)によるGEM取込み増強効果および5-FU系薬剤によるGEMとの至適併用スケジュールを検討した.その結果,5-FU剤先行投与によってGEM取込みが増強し,先行投与後GEM施行が最も抗腫瘍効果が高いことが明らかになった.さらに,切除不能進行・再発膵癌に対して,至適併用スケジュール(UFT先行GEM投与:UFT250 mg/m2:day1~6,day8~13,GEM 800 mg/m2:day7,14,休薬:day15~21)による第II相試験を行い,重篤な有害事象は認めず,奏功率25%,50%生存期間7ヶ月,1年生存率25%と言う成績を得た.また,GEM耐性ヒト膵癌細胞株の網羅的遺伝子発現解析から,GEM代謝に関連するRibonucleotide reductase M1 subunit(RRM1)発現昂進がGEM耐性に最も関連することを明らかにし,RRM1 RNAiを用いたRRM1発現抑制によってGEM感受性が向上することを検証した.さらに,臨床例の検討から,RRM1がGEM感受性にも関与している可能性を示した.
  • 竹田 伸, 中尾 昭公
    2007 年 22 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    近年の膵癌術後補助療法の標準的治療は,ゲムシタビン(GEM)を中心に行われてきているが,2006年8月にテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)が保険認可され,今後標準的治療も変わる可能性があり,エビデンスの集積が必要である.一方,癌化学療法において,どの抗癌剤がどれ程有効であるかを予測できるかどうか,ということも重要である.GEMの代謝に関与する遺伝子の研究も進められているが,フルオロウラシル(5-FU)の感受性遺伝子はすでに解明されており,膵癌において,我々のretrospective studyではTS(thymidylate synthase)+DPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)-の膵癌患者に術直後より門脈内に5-FUを3週間持続注入した場合,GEM単独療法より生存率がよくなった.この結果から効果予測できる症例にTS-1を使えば,GEMより予後は期待できる可能性がある.
  • 藤野 泰宏, 松本 逸平, 外山 博近, 高瀬 至郎, 神垣 隆, 上田 隆, 黒田 嘉和
    2007 年 22 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    Gemcitabine hydrochloride(GEM)が導入された2001年4月以降の浸潤性膵管癌症例の治療成績について検討した.対象は教室にて治療した浸潤性膵管癌125例で,男女比は72:53,平均年齢64.3歳,治療は膵切除56例,姑息手術9例,試験開腹術5例,非切除55例.Stageはstage II 2例,III 13例,IVa 45例,IVb 65例.また放射線療法4例,化学療法95例(GEM 93例)に施行.膵管癌全体の1生率43%,2生率14%.膵管癌全体の単変量解析ではGEM(p=0.013)と膵切除(p=0.001)が予後に影響を及ぼし,多変量解析では膵切除(p<0.001)が最も予後に寄与した.切除不能例に対する膵動注塞栓療法では,grade III以上の有害事象はなく1例でPRを認めた.浸潤性膵管癌に対してGEMによる化学療法が予後を延長する上で重要であった.
  • 仲地 耕平, 古瀬 純司, 石井 浩, 鈴木 英一郎, 清水 怜, 吉野 正曠
    2007 年 22 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    塩酸ゲムシタビン(GEM)の導入により膵癌診療は大きく変化した.局所進行膵癌(LAPC)における全身化学療法(CT)の意義を明らかにし,治療戦略を再考察した.対象は2001年4月から2005年3月までのLAPC 79例である.初回治療として化学放射線療法(CRT)群が34例に,GEMを含むCT群が45例に施行された.生存期間中央値はCRT群11.7ヶ月,CT群9.5ヶ月で両群に有意差は認めなかった(P=0.866).増悪形式は遠隔増悪がCRT群57%,CT群69%に認められた.GEM-CTはCRTとほぼ同等の遠隔成績が期待できる可能性があり,前向きな検証が必要である.遠隔転移を考慮してCTを先行し,遠隔増悪のない「真の」LAPCのみにCRTを施行する,という治療戦略を今後の治療開発の一つとして考慮していく必要があると考えられる.
  • 伊藤 聡子, 澤木 明, 水野 伸匡, 石川 英樹, 石井 紀光, 伯耆 徳之, 山雄 健次
    2007 年 22 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    局所進行膵癌の予後に関与する因子を明らかにするために,当施設において2000年4月から2005年10月までに化学放射線療法(CRT)を施行した遠隔転移を有さない膵癌49例を検討した.検討因子は年齢,性別,ECOGのPerformance status(PS),細胞診,原発部位,腫瘍径,進行度,使用薬剤,照射量,後治療の有無,各種生化学検査,腫瘍マーカーとした.生存期間中央値は12ヶ月であり1年生存率は50.2%,2年生存率は26.7%であった.予後に関与する因子を明らかにするために,生存期間中央値(1年)の2倍以上の生存期間の得られた症例(長期生存群:10例)と2年以下(短期生存群:39例)に分けて比較検討したところ,後治療に有意差を認めた.CRTは一部の局所進行膵癌症例に有効であり,適切な対象を選択することで長期予後が期待できると考えられる.今後は臨床的因子のみならず遺伝子解析などの手法の開発により,最適な患者を選択できるようになることが期待される.
  • 奥坂 拓志, 上野 秀樹, 池田 公史, 森実 千種, 荒尾 徳三, 西尾 和人
    2007 年 22 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    塩酸ゲムシタビン(GEM)の登場は膵癌化学療法に大きな変化をもたらしたが,膵癌患者の予後はいまだ不良である.より有効な治療法の確立を目指し様々な試みが進められている.新規抗癌剤については我が国においてもいくつかの臨床試験が実施されているが,中でもテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)は初回治療例,GEM耐性例にもある程度の奏効を示し,期待できる薬剤である.さらにGEMとS-1の併用療法も多施設共同での第I相,第II相試験が実施され,GEM単独治療をしのぐ可能性のある治療法として注目されている.個別化治療確立も重要な治療開発戦略の一つであり,DNAマイクロアレイを用いて化学療法の成績に関わる遺伝子の発現解析を進めている.これまでに末梢血単核球の遺伝子発現解析による腫瘍縮小効果予測の実現可能性が示唆されている.
  • 澄井 俊彦, 藤森 尚, 船越 顕博
    2007 年 22 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    進行膵癌の一次化学療法薬としてgemcitabine(以下GEM)が使用されるようになった2001年以降の当施設における化学療法の現状と後期第II相臨床試験が終了した塩酸イリノテカン(以下CPT-11)の治療成績(n=37)を報告する.対象は2001~2004年に当科で経験した進行・再発膵癌症例89例で50%生存期間(MST)は7.9ヶ月,1年生存率(1y-SR)は23.9%であった.これは5-fluorouracil(5-FU)を主体に治療していた1991~2000年(n=60)のMST4.8ヶ月,1y-SR8.0%に比べ明らかに向上していた.CPT-11の臨床試験では奏効率27.0%,MST7.3ヶ月,1y-SR 29.5%で膵癌治療に有用であるとの成績を得た.
  • 川口 義明, 峯 徹哉
    2007 年 22 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    【目的・方法】切除不能進行膵癌121例(局所進行群65例,遠隔転移群56例)について検討した.Gemcitabine(GEM)単独治療を行った73例の生命予後を,無治療群40例,GEM+放射線併用群8例の成績と比較した.【結果】GEM治療群の奏功率は19.7%,生存期間中央値,1年生存率,2年生存率は,326日,37.4%,17.6%であった.GEM単独群は,無治療群と比べ,有意に予後の改善を認め(p<0.0001),進行度別の検討でも,局所進行群,遠隔転移群ともにGEM単独群は,無治療群と比べ,有意に予後の改善を認めた(p<0.0001).またGEM単独群の中で,局所進行群と遠隔転移群とを比較すると,局所進行群は有意に予後が良好であった(p<0.0001).GEM単独群とGEM+放射線併用群との比較では,症例数は少ないが,有意にGEM+放射線併用群で生存期間が延長する結果であった(p<0.0001).【結論】切除不能進行膵癌に対するGEM治療は,生命予後の改善に寄与しているものの予後不良である.
症例報告
  • 山澤 邦宏, 寺島 裕夫, 横畠 徳祐, 野地 秀一, 須田 竜一郎, 徳原 真, 枝元 良広, 斉藤 幸夫, 清水 利夫, 斉藤 澄
    2007 年 22 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,男性.心窩部痛・嘔吐を主訴に当院救急外来受診,腹部レントゲン等にて十二指腸狭窄を疑われ入院となった.上部消化管造影検査にて十二指腸下行脚に全周性の狭窄病変を認め,腹部超音波・腹部CT・MRCP検査にて膵頭部付近に腫瘤様構造が見られ膵頭部癌が疑われたものの主膵管・総胆管の拡張はなかった.さらに上部消化管内視鏡では狭窄部の十二指腸粘膜は正常で,生検でも悪性所見はなかった.以上より膵頭部癌を否定できないgroove pancreatitis(GP)の診断にて膵炎の保存的治療を行いつつさらに精査をすすめたところ,18F-FDGおよび11CメチルチロシンPET検査により膵頭部の腫瘤に一致した強い集積像を認め,悪性が強く疑われた.このため,膵頭十二指腸切除術を施行,病理にてまれな副膵管領域原発膵癌と診断された.本邦報告副膵管領域原発膵癌10例のまとめと共に報告する.
  • 梶原 正俊, 木下 平, 小西 大, 中郡 聡夫, 高橋 進一郎, 後藤田 直人, 小嶋 基寛, 長谷部 孝裕
    2007 年 22 巻 1 号 p. 74-80
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性で,心窩部痛を主訴に近医を受診し,膵頭部腫瘍の診断で紹介となった.腹部超音波で膵頭部に境界明瞭な径5 cm大の高エコー腫瘤を認め,内部に石灰化を伴っていたが,明らかな嚢胞成分は認めなかった.腫瘍は造影CTで遅延性の造影効果を示し,内部に変性を示唆する不染域を認めた.充実性のsolid-pseudopapillary tumor(SPT)あるいは乏血性の膵内分泌腫瘍の診断にて,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSpPD)を施行した.切除標本は被膜を有する白色調の充実性腫瘍で,内部に明らかな嚢胞成分は認めなかった.病理組織学的には腫瘍細胞は細血管周囲に偽乳頭状の増殖を示し,免疫染色にてchromogranin A(-),synaptophysin(-),CD10(+)であり,膵SPTと診断した.また核分裂像や静脈侵襲,神経周囲浸潤を認め,組織学的に悪性と考えられた.
Selected Expanded Abstract
目次
膵癌登録報告2007の発行にあたって
第1章:組織学的分類
I.切除率の年次推移
a.通常型・組織型不明浸潤癌の生存率推移(全Stage、Stage不明、非切除例を含む)
b.通常型・組織型不明浸潤癌の生存率推移(全Stage、非切除例を含む)
c.通常型膵癌の生存率推移(全Stage、非切除例を含む)
d.通常型膵癌切除例の生存率推移(全Stage)
Stageごとにみた通常型膵癌切除例の生存率推移
e.通常型膵癌非切除例の生存率推移
f.組織型不明の浸潤癌非切除例の生存率推移(全Stage)
a.年齢と性別
b.職業
c.人種
d.家族歴
e.既往歴
f.喫煙
g.飲酒
a.主訴
b.画像診断
c.生化学検査
d.腫瘍マーカー
e.組織学的診断法
a.病巣の数と占拠部位
b.局所進展度
c.遠隔転移
d.T因子
e.N因子
f.M因子
g.Stage分類
a.リンパ節転移の頻度
a.治療法
b.非手術の理由
c.術前減黄
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