2016 年 55 巻 p. 133-147
本稿は, 2014年7月から2015年6月までに日本で発表された, 学校心理学分野の研究動向を概観し, その課題を検討したものである。学校心理学分野の研究はこれまで多くの知見を蓄積してきた。その一方で, その研究領域の範囲が広く他の領域と相互浸透的であるため, 従来から蓄積された研究の全体像が把握しにくいとの課題も指摘されてきた。このような課題を解消するためには, 異なる分析枠組みを設定し定期的に研究知見を整理する必要がある。そこで, 本稿では「環境のなかの子ども」を重視する学校心理学の視点を踏まえ生態学的システム理論によって従来とは異なる包括的な観点から研究成果の整理を試みた。マイクロシステム, メゾシステム, エクソシステム, マクロシステム, クロノシステムごとに研究知見を整理した結果, 今年度の研究はマイクロシステムの研究が多い一方, その他のシステムに関する研究が少なく「環境のなかの子ども」を捉える視点が弱い可能性が示唆された。学校心理学の知見を有機的に統合し機能させるためにも, このような研究の偏りを解消し, 学校教育が置かれた社会的文脈に合わせ, 各システムにおいて学校心理学に求められる研究が蓄積される必要性を論じた。