分析化学
Print ISSN : 0525-1931
報文
酸解離型ポリエーテルをキャリヤーとする高分子溶媒膜の設計と鉛イオン分離機能
林 亮太郎早下 隆士吉川 宗志平谷 和久BARTSCH Richard A.寺前 紀夫
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 52 巻 9 号 p. 755-762

詳細
抄録

膜材として三酢酸セルロース(CTA),可塑剤としてo-ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)及び金属イオンキャリヤーとしてヘプチル基からヘキサデシル基まで異なる鎖長を有する酸解離型ポリエーテル化合物16から成る高分子溶媒膜を用いて,プロトン駆動によるPb2+イオンの選択輸送を行った.NPOEへの相溶性が低いために,ドデシル基とヘキサデシル基を持つキャリヤー56を担持した高分子溶媒膜は,Pb2+及びCu2+に対する輸送能を全く示さない.一方,キャリヤー14を担持した高分子溶媒膜では,Cu2+に対するPb2+の選択輸送が起こることが分かった.輸送機構を明らかにするために,Pb2+及びCu2+イオン流束に影響を与える因子として,膜厚,原相pH,膜内キャリヤー濃度及び原相濃度の効果を調べた.その結果,これらの因子はキャリヤー輸送機構に基づく解析でよく説明できることが明らかとなった.Pb2+/2錯体の拡散係数は7×10-12 m2 s-1であり,これはNPOEを媒体とする液膜での金属/クラウンエーテル錯体の拡散係数と同程度の値であった.2を担持した高分子溶媒膜の輸送選択性は,Pb2+>Cu2+>Cd2+>Zn2+>Ni2+であり,これは2の抽出選択性と一致する結果であった.CTAから成る高分子溶媒膜は,ポリ塩化ビニル(PVC)から成る膜に比べ優れた安定性を示すことを,繰り返し実験により確認した.このCTA膜の安定性は,走査型電子顕微鏡による構造観察からも支持された.

著者関連情報
© The Japan Society for Analytical Chemistry 2003
前の記事 次の記事
feedback
Top