理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-18
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ポスター発表
嚥下時における頚椎可動性と誤嚥重症度との関係
関塚 修久二木 保博
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キーワード: 頚椎可動性, 咽頭圧, 誤嚥
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抄録

【はじめに、目的】 嚥下時における咽頭期は嚥下反射による精巧なメカニズムによりオートマティックに行われている。臨床上、頚椎やポジショニングにアプローチすることで、嚥下が改善されることを経験することから、頚椎の可動性が充分であれば、食塊が通過する咽頭期において咽頭圧を受け入れることが可能になり食塊の送り込みにも有利になると考えられる。また、嚥下障害が軽度である患者の嚥下造影(以下VF)検査の画像解析時においても咽頭期における咽頭内圧の影響と考えられる下位頚椎の後方への並進運動が認められる場合がある。今回の研究は、VF画像解析を行い、咽頭侵入・誤嚥の重症度スケールによる重症度と、嚥下障害患者の下位頚椎の並進運動の関係を調べることにより、頚椎へのアプローチが嚥下障害に対しての対処法として有効であるかを考察することを目的として行った。【方法】 主治医よりVF検査依頼となった入院患者82名。平均年齢80.5歳±9.0。下位頚椎の嚥下時の後方並進移動を同一理学療法士がVF画像を動画解析ソフトDartfish Soft ware ver4.5(株式会社ダートフィッシュジャパン)を用いて解析して行った。頚椎後方並進移動に関しては明らかな頚椎の後方並進運動が認められない場合は、食塊通過直前に画像上一番鮮明な下位頚椎椎体前上縁にマーキングし、食塊通過後に再び同箇所にマーキングして、位置の移動を確認した。また、咽頭侵入・誤嚥の重症度スケールについては同一の言語聴覚士が行い、咽頭侵入・誤嚥の重症度スケールの8段階を軽度障害をA群、中等度障害をB群、重度障害をC群の3群に便宜的に分類した。統計学的処理として、頚椎後方並進運動あり、なし群の2群に分け、頚椎後方並進運動あり、なしの2群と、A群とB群、A群とC群、B群とC群の3組に対して2×2のクロス表を作成してそれぞれ自由度1、危険率5%で2試料カイ2乗検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき被検者に研究内容や目的について説明を行い、同意を得てから行った。【結果】AB群間においてのカイ2乗値が13.1(≧3.84)、AC群間では15.7(≧3.84)となり、帰無仮説が却下され共に有意差が認められた。BC群間ではカイ2乗値が3.1≦(3.84)となり帰無仮説が認められ有意差なしという結果となった。【考察】嚥下障害には疾患別の特徴や覚醒レベルよっても問題は様々である。しかし、嚥下時に嚥下反射を含めて、食塊が咽頭部を通過しようとする生理的な運動は全てにおいて共通している。嚥下障害患者は少ない咽頭圧で食道まで食塊を移動するという課題があると考えられる。今回の結果から、軽度嚥下障害者群と比べて中等度嚥下障害者群・重度嚥下障害者群には、嚥下時の圧を受け入れるための下位頚椎の後方への並進運動が認められない傾向にあることが示唆された。咽頭収縮筋による咽頭内の圧差により食塊移動が促進されるが、頚椎と咽頭収縮筋は筋膜性の連結があり、圧を受け入れるための頚椎後方並進運動可動域の有無は圧差を受け入れる要因でもあることが考えられる。また、頚椎の可動性はうなずき嚥下時など環椎後頭関節などと協調して働くためには必要な要素であるとも考えられる。【理学療法学研究としての意義】 嚥下障害は先行期~食道期に渡り様々な要因によって引き起こされる。精巧なメカニズムで行われ、徒手的な手技をはじめとした間接アプローチでは効果が乏しいようなイメージもある。また、口腔内環境や認知レベルによっても対処法も異なってくることも事実である。しかし、今回の研究で徒手的なアプロ-チやポジショニングなどで頸椎の可動域を改善・維持していくことは中等度・重度嚥下障害患者において有意義であると考えられた。訪問リハビリでも在宅での摂食・嚥下障害に対する理学療法として1つの選択肢となりうることが示唆された。今後は、咽頭圧を作りだす要素である舌骨の移動や顎関節の動きとの関係性についての検証も必要であると考えられた。

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© 2013 日本理学療法士協会
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