日本薬理学雑誌
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ミニ総説号 「薬物依存研究の新展開」
大麻による薬物依存と異常行動
藤原 道弘
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2001 年 117 巻 1 号 p. 35-41

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抄録

大麻(Δ9-tetrahydrocannabinol:THC)は身体依存, 精神依存, 耐性を形成するとされているが, 他の乱用薬物より比較的弱い.このことは動物実験においても同様である.むしろ大麻の危険性は薬物依存より急性効果の酩酊作用, 認知障害, 攻撃性の増大(被刺激性の増大)が重要である.カタレプシー様不動状態の発現には側坐核や扁桃体のドパミン(DA)神経の他にセロトニン(5-HT)神経の機能低下が密接に関与しており大麻精神病の症状の緊張性や無動機症候群に類似している.この症状はTHCの連用によって軽度ではあるが耐性を形成し, THCの退薬後はカタレプシー様不動状態は直ちに消失する.一方, 攻撃行動の発現はTHC慢性投与の15日後に発現し, 退薬時は直ちに消失することなく20日間かけて徐々に消失する.これはヒトにおけるTHCの退薬症候の過程に類似している.THCによる異常行動の発現にはカンナビノイド(CB1)受容体を介したDAや5-HTの遊離が関わっており初期2週間はCB1受容体によるDA, 5-HTの遊離抑制が関与している.これに対し慢性投与になると, シナプス前膜のCB1受容体の脱感作によるDAや5-HTの遊離とシナプス後膜の感受性増大が同時に発現することが主な原因として考えられる.空間認知記憶障害は, 作業記憶障害であり, その発現にはCB1受容体を介し, 海馬へ投射しているACh神経においてCB1受容体を介したAChの遊離阻害が重要な役割を果たしている.これらの作用は報酬系や依存の形成の解明に役立つものと考えられる.

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