日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
分子標的薬,メシル酸イマチニブ(グリベック®)の薬理学的特性および臨床効果
都賀 稚香近藤 翠所 明男
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2003 年 121 巻 2 号 p. 119-128

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抄録

メシル酸イマチニブ(グリベック®)は,分子標的コンセプトに基づきノバルティス ファーマ社で合成·開発された慢性骨髄性白血病(CML)治療薬である.CMLの発症本態であるBcr-Ablチロシンキナーゼを標的とし,その活性を阻害することで細胞内シグナル伝達を抑え,CML細胞の細胞増殖を抑制することが示された.キナーゼアッセイおよび細胞レベルでのチロシンキナーゼ自己リン酸化における検討から,メシル酸イマチニブは,Bcr-Abl,血小板由来増殖因子(PDGF)受容体およびc-Kitチロシンキナーゼ活性を阻害すると考えられた.また,細胞増殖に対する作用の検討においては,bcr-abl遺伝子導入細胞およびCML由来細胞の増殖を抑制し,CML患者の骨髄より採取した造血前駆細胞サンプルのbcr-abl遺伝子発現コロニーの形成を選択的に抑制した.さらに,メシル酸イマチニブはbcr-abl遺伝子発現細胞に対しアポトーシス誘導作用を持つ可能性が示唆された.bcr-abl遺伝子発現細胞に対する増殖抑制作用はin vivoにおいても認められ,bcr-abl遺伝子導入細胞およびCML由来細胞の担癌ヌードマウスにおいて,腫瘍の増大または形成を抑制した.これらの結果から,メシル酸イマチニブはbcr-abl遺伝子が産生するタンパク質であるBcr-Ablの亢進されたチロシンキナーゼ活性を阻害することで,CML病態における細胞の異常増殖を抑制することが示唆された.実際,臨床試験において,これらのコンセプトから期待された効果が得られた.メシル酸イマチニブは,IFN-α不応または不耐容の慢性期CML患者を対象に実施した国内臨床第I/II相試験において,第I相部分では血液学的完全寛解率は92%,Philadelphia染色体が消失する細胞遺伝学的完全寛解率は58%であった.また,IFN-α不応例,不耐容例またはIFN-α未治療例を対象に実施した第II相部分においても,血液学的完全寛解率は92%,細胞遺伝学的完全寛解率は41%と,いずれも高い有効性を示した.主な副作用は,血液毒性,嘔気,嘔吐,下痢,浮腫(特に眼瞼浮腫),発疹,筋骨格筋障害,倦怠感であった.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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