日本薬理学雑誌
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特集 急性肺傷害治療戦略の現状と展望
新興呼吸器ウイルス感染症による重症呼吸不全の病態と治療標的
今井 由美子
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2011 年 138 巻 4 号 p. 141-145

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抄録

近年,SARS,H5N1鳥インフルエンザ,そして2009年の新型インフルエンザ(H1N1)と,新興ウイルス感染症が社会的問題となっている.これらの新興ウイルス感染症はヒトに急性呼吸窮迫症候群(ARDS),全身性炎症反応症候群(SIRS),多臓器不全(MOF)をはじめとした非常に重篤な疾患を引き起こし,集中治療室(ICU)において救命治療が必要となる.2009年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ(2009/H1N1)は弱毒型であったが,一部では重症化してARDS,心筋炎,脳炎などを引き起こした.その中には少数ではあるが,体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とするような劇症型のものも含まれていた.一方,東南アジア,中国などを中心に拡がりをみせている強毒型のH5N1鳥インフルエンザが,次の新型インフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクは依然として続いている.しかしながら新興ウイルス感染症が重症化して,ARDS,SIRS,MOFを引き起すメカニズムは十分解明されておらず,重症化すると決め手となる有力な治療法がない.本章では新興ウイルス感染症による呼吸不全の病態に関して,インフルエンザによるARDSの発症機構に焦点を当てて,RNAiスクリーニング,マウスモデル,ヒト検体などを用いた研究を中心に述べる.次いで,抗ウイルス薬,新しい治療薬の可能性に触れ,最後に,救命に不可欠である人工呼吸に関して,肺保護戦略の重要性に言及したい.

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