日本薬理学雑誌
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新規ジヒドロピリジン誘導体,ラシジピンの脳虚血モデルに対する効果
舩戸 秀幸甲木 由紀夫矢野 崇河野 浩之赤田 安繁佐藤 正巳植村 昭夫
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1996 年 108 巻 5 号 p. 243-257

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抄録

脳血管選択性を示す新規ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬ラシジピンの脳虚血障害に対する有効性を検討する目的で,病態の異なる3種の代表的脳虚血モデルを用い検討し,その効果をニカルジピンと相対比較した.(1)両総頚動脈閉塞および脱血による―過性前脳虚血ラットを用いた検討において,ラシジピン0.3あるいは1mg/kg,p.o.を虚血前投与すると,虚血7日後の酸好性神経細胞数の増加が抑制されて遅発性神経細胞障害抑制作用が示された.この時のラシジピン1mg/kgの効果は,二力ルジピン3mg/kgとほぼ同等であった.(2)左中大脳動脈閉塞ラットの検討において,ラシジピン1あるいは3mg/kg,p.o.を虚血前あるいは虚血後投与すると閉塞24時間後の脳梗塞重量は有意に減少した.二力ルジピンにも,30mg/kg,p.o.の虚血後投与で脳梗塞重量の有意な減少が認められたものの,この時の効果は,ラシジピンlmg/kg,p.o.より弱かった.(3)イヌの実験的クモ膜下出血後の遅発性脳動脈攣縮において,ラシジピンは,1,3および10μg/kgの椎骨動脈内投与により用量に依存して脳底動脈径を増加させ,動脈攣縮を改善した.この時のラシジピン10μg/kgの効果は,ニカルジピン10μg/kgと同程度であった.一方,無麻酔・無拘束の正常ラットを用いて水素クリアランス法により脳血流量を測定したところ,ラシジピンには1あるいは3mg/kg,p.o.により,ニカルジピンにも30mg/kg,p.o.により持続的な脳血流量の増大が認められた.しかし,同一の血圧低下作用を示す用量での脳血流増大効果はラシジピンがより大きかった.以上の結果から,ラシジピンはニカルジピンに比し優位な脳虚血時の脳組織障害改善作用とクモ膜下出血後の脳動脈攣縮改善作用を有しており,こうした脳虚血モデルにおける病態に対して改善作用を示す可能性が示唆された.

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