日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
ケアミックス型高齢者医療の現状―医療事故内容の分析―
寺井 敏多田 斉
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2010 年 47 巻 6 号 p. 578-584

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抄録

目的:ケアミックス型老人病院における医療事故の現状について分析した.方法:2009年1月1日から12月31日の1年間に当院で報告された1,374件のインシデント・アクシデントレポートよりアクシデント事例として登録された339件を抽出し,その内訳と原因につき調査した.次に,院内の各診療区域(一般,療養型,回復期リハ,緩和ケアの各病棟およびその他の診療区域)におけるアクシデント事例の発生状況の比較を行い,最も発生頻度の高い事象に関してはその発生要因やADLレベル(FIMを用いて評価)の関与につき検討した.結果:339件のアクシデント事例のうち,表皮剥離,打撲症,皮膚切・裂傷,骨折の発生事象件数が多く認められていた.このうち,表皮剥離は全アクシデント件数の54.0%(183件)を占め全診療区域において最も発生頻度の高い事象であったが,同事象の33.9%ではその発生原因は不明であった.各病棟における上記4事象発生分布の検討では,表皮剥離は療養病棟,打撲症と骨折は回復期リハ病棟,皮膚切・裂傷は一般病棟でその発生率が高かった.表皮剥離の発生は介護行為(とくに,移乗介助)との関連が示され,同事象発生頻度の高い療養型病棟における総合FIM平均値は38.8±21.3であり,一般病棟の61.4±34.4,回復期リハ病棟の58.9±25.2,緩和ケア病棟の72.8±22.9との間にそれぞれ有意差を認めていた(p<0.01 vs 一般病棟,p<0.05 vs 回復期および緩和ケア病棟).結論:ケアミックス型老人病院では,表皮剥離,打撲,皮膚切・裂傷,表皮剥離など身体的トラブルに関するアクシデント事例の発生件数の多いことが示された.表皮剥離は発生頻度の最も高い事例であり,移乗介助などの介護行為やADLレベルの低下との因果関係が示唆された.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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