日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
HbA1c 6.1%未満例の疫学調査とHbA1c値の経年変化―前期高齢者の特定健診の意義を糖代謝から考える―
今中 俊爾
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2011 年 48 巻 3 号 p. 271-275

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抄録

目的:特定健診・特定保健指導のHbA1c(JDS値)の判定値5.2%以上は,65歳以上の高齢者にとって厳しい設定と思われるが,この意義を糖代謝の観点から検討した.方法:対象は,当診療所診療圏内の外来患者および健康診断を受けた一般住民とした.(1)50歳代から70歳代のHbA1c 5.2%以上6.1%未満例の疫学調査,(2)40歳以上で,1995年以降の初回のHbA1c値が6.1%未満で,その後のHbA1c値を5年以上追跡できた症例の経年変化,を検討した.結果:(1)60歳代,70歳代では,人口の54.3%,69.3%をスクリーニングできたが,HbA1c 5.2%以上6.1%未満の割合は,それぞれ対象数に比し40.9%,36.8%であった.(2)該当した40症例のHbA1c値の5年から13年の経年変化を検討した.40歳以上75歳未満(特定健診の対象)の29例の検討では,5.2%以上の15例では平均9.6年の追跡期間では9例が6.1%以上,そのうち7例は6.5%以上に上昇した.これを65歳以上75歳未満に限定すると,HbA1c 5.2%以上の8例では4例が6.1%以上,そのうち2例は6.5%以上に上昇した.40歳以上,HbA1c 5.2%未満の19例では,HbA1c値の上昇は見られなかった.結論:糖代謝上,食後高血糖の段階,すなわち糖尿病に至らないレベルですでに大血管症を生じることが明らかにされており,HbA1c 5.2%以上6.1%未満には,ブドウ糖負荷試験による境界型,糖尿病型は少なからず存在している.既に動脈硬化を有していると思われる前期高齢者のHbA1c値5.2%以上の例では,5.2%未満例と異なって経年的にHbA1c値は上昇し,6.1%以上,さらに6.5%以上へ進展する例が観察された.さらに,60歳代,70歳代では,HbA1c 5.2%以上6.1%未満例は対象数の約4割を占めた.前期高齢者のHbA1c 5.2%以上の判定では,その時点での動脈硬化の再評価とともにその他の心血管危険因子を把握し,その結果に基づく症例ごとの生活習慣,治療への介入が望ましいと思われた.

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© 2011 一般社団法人 日本老年医学会
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