日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者慢性閉塞性肺疾患例における上大静脈血流波形の検討
吉田 秀夫宿谷 正毅高岡 典子諸岡 茂稲垣 雅行道場 信孝木村 豊
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1993 年 30 巻 5 号 p. 369-375

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抄録

超音波ドプラー心エコー図法を用いて上大静脈 (SVC) の血流波形を記録し, 呼吸機能との関連から慢性閉塞性肺疾患 (COPD) における波形の変化を検討した. 対象は60歳以上の高年者44例で, その内訳は健常対照群24例 (69±6歳) とCOPD群20例 (72±5歳) である. 血流波形の指標には収縮期と拡張期の順行波 (S-, D-波) の持続時間と最大速度, IIpとD-波の開始点 (IIp-Do), IIpとD-波のピーク迄の時間 (IIp-Dx) を用いた. 呼吸機能はVC, %VC, FEV1.0, FEV1.0%, およびV50/V25について評価した. 健常例の波形では, 吸気位が呼気位に比べてS波とD-波の最大速度, 持続時間のいずれにも有意な増大を示したが, S-波とD-波から成る2相性パターンが崩れるような大きな変化は見られなかった. 一方, COPD例では, 吸気位で順行波が増大し, 呼気位ではゼロレベルを越えて上方へ変位しながら減少するなど, 呼吸に伴う著しい変動を呈する例や, 呼吸停止によってもS-波とD-波が混合して連続した波形を示す例など顕著な波形の変化が見られた. COPDの9例では波形変化のため計測が不能で, 計測可能な11例 (COPD I群) から分離してCOPD II群としたが, この群の呼吸機能が最も低下していた. 健常群とCOPD I群の比較では, S-波, D-波の最大血流速度には差がなく, 他の時間計測値の比較ではD-波の持続時間にのみ有意差が認められた. また, 1秒率とD-波の持続時間との間には有意な負の相関が見られた (r=-0.448, p<0.01). 肺の閉塞性障害に伴う右心負荷の非観血的評価には, 頸静脈脈波, 超音波法, RI法などが用いられているが, SVCの血流波形の測定はこれらに比べて容易であり, かつ良好や再現性のもとに高年者でも記録でき, 更に右心系に形態的変化をきたさない程度の早期の機能障害も診断し得る可能性が示された. 本法は肺血流そのものの測定ではないが, COPDの早期における右心血行動態の評価に臨床上有用な手段になり得ると思われる.

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