日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
予後からみた慢性期脳梗塞患者の嚥下機能評価と頭部CT所見
岩本 俊彦小渋 純子黄川田 雅之米田 陽一宇野 雅宣高崎 優今村 敏治
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2001 年 38 巻 5 号 p. 651-658

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抄録

脳梗塞慢性期患者における嚥下機能を評価し, 予後から評価の意義と嚥下障害に特徴的な頭部CT所見を明らかにする目的で, 脳梗塞慢性期102例の嚥下機能を評価 (Smithard 法) 後, 2.2年間追跡調査して, その予後および頭部CT所見を検討した. 対象は男性61例, 女性41例で, 平均年齢は各々75.1歳, 78.1歳と高齢であった. これらを嚥下評価によって異常の認められた陽性群 (n=33) と認められなかった陰性群 (n=69) の2群に分類した. 予後は生命予後, 死因, 脳卒中再発や肺炎罹患の有無について, 頭部CT所見は梗塞巣の型, 数, 脳室周囲低吸収域 (PVL) の程度, 脳室拡大, 脳萎縮の有無を両群間で比較した. 脳梗塞の罹病期間は陽性群 (vs. 陰性群) が平均7.1年 (vs. 4.4年) と長い傾向を示し, 痴呆例, 介助例, 意識障害例も多かった. 陽性群では観察期間中に15例 (vs. 3例) が死亡し, 年間死亡率は29.9% (vs. 22%) と有意に高かった (χ2=28.3, p<0.0001). 陽性群の死亡はいずれも誤嚥性肺炎と考えられ, 一方, 陰性群で肺炎死した1例は Wallenberg 症候群の再発によるものであった. 肺炎の併発を予測する感度, 特異度は概算で各々0.55, 0.94となった. CT所見では梗塞巣の多発, 大脳半球両側性病変, 高度PVL, 脳室拡大, 高度の脳萎縮が陽性群に多くみられ, 重回帰分析では梗塞巣の両側性多発, PVL, 脳萎縮, 脳室拡大が嚥下障害に有意に寄与していた. 以上, 陽性群では誤嚥性肺炎を併発する例が多く, 肺炎併発における予測の感度, 特異度が高かった結果より, 本法は肺炎の高リスク患者を同定しうる有用なスクリーニング法と考えられた. また, CT所見より嚥下障害は梗塞巣の多発や高度のPVL, 脳室拡大, 脳萎縮で生じ易く, 嚥下障害の発生機序は両側錐体路の障害ばかりでなく, 錐体外路や意識の障害, 知的機能やADLの低下など複雑な要因が関与していることが示唆された.

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