高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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原著
音韻性失読の1症例
—読字過程と障害基盤の検討—
森 加代子中村 光
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2003 年 23 巻 2 号 p. 149-159

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抄録

音韻性失読 (PD) とは実在語に対し非語の音読が選択的に障害された失読症候群であり,古典的二重回路モデルでは非語彙経路の障害と解釈されてきた。本研究ではPDの1症例に対し,刺激材料を統制した (1) 音読検査, (2) 語彙判断検査, (3) 読字を含まない音韻操作課題を施行し,PDおよび健常の読字過程と,PDの障害基盤について検討した。検査の結果, (1) では同音擬似語効果 (同音擬似語「ばいおりん」や「ばイおリん」の読みは非同音非語に比べ良好) と同音擬似語における元の語の親密度の影響が認められ, (2) では視覚性語彙判断における非同音非語の著明な障害が認められた。これらはPDの古典的解釈では説明できず,読字の経路は実在語と非語とで完全に二分されるものではないと考えられた。また, (3) は一部の課題に顕著な成績不良が認められた。これはPDがより広く音韻処理過程の障害であるとの説を支持し,音韻操作課題の中でも種類により難易度には違いがあることが示唆された。

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© 2003 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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