高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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31 巻, 3 号
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シンポジウム I : 認知症・パーキンソン病と高次脳機能障害
  • 池田 学, 河村 満
    2011 年 31 巻 3 号 p. 249
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
  • 長濱 康弘
    2011 年 31 巻 3 号 p. 250-260
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
         典型的なアルツハイマー病 (AD) は記憶障害で発症し, その後言語障害, 失行, 構成障害などが加わる経過をたどる。しかし実際は AD の臨床像は一様ではない。病理学的に AD であっても, 記憶以外の認知機能障害 (視空間機能, 言語, 遂行機能) が前景に立つ症候群が存在する。軽度認知障害 (MCI) においても同様で, 記憶障害を主体とする amnestic MCI の他に, 視空間障害や遂行機能障害を主体とする non-amnestic MCI が存在する。ゆえに AD, MCI を診療する時は幅広い認知機能を過不足なく評価する必要がある。
         レビー小体型認知症 (DLB) では AD に比べて記憶障害が軽く, 注意・遂行機能障害と視空間障害が目立つ。AD が皮質型認知症であるのに対して, DLB は皮質下型と皮質型の特徴を併せ持つ皮質-皮質下型認知症である。たとえば時計描画のように簡易な検査でも AD と DLB の病態生理学的違いは反映される。AD では時計描画障害は側頭葉皮質機能不全による意味記憶障害に由来するのに対して, DLB では前頭葉-皮質下核回路機能不全による注意・覚醒調節障害や視空間注意障害に由来すると考えられる。このように, 認知症臨床では検査点数だけでなくその質的違いまで意識して患者と接することが重要である。
  • 鶴谷 奈津子
    2011 年 31 巻 3 号 p. 261-268
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病 (Parkinson's Disease : PD) は運動症状を主体とする疾患であるが, 近年ではさまざまな非運動症状をきたすことが報告され, 注目を集めている。本稿では, 多岐に渡る PD の非運動症状の中でも認知機能障害に焦点を当て, とくに社会的認知機能について詳しく述べる。社会的認知とは, 他者の情動表出や内的な心理状態などのコミュニケーションに重要な情報処理を担う, よりよい人間関係を築くために必要な機能である。これまでの研究により, PD 患者では他者の表情を見て情動を読み取る表情認知や, 損得の情報を学習し適切な行動を選択する意思決定過程において, 健常者とは異なるパターンが観察されている。また最近では, 社会的認知の重要な基盤のひとつである「心の理論」機能の障害の有無が検討されている。これらの認知機能障害は PD 患者の日常生活や社会活動に影響を及ぼす可能性があり, 慎重に評価する必要があると思われる。
  • ─抽象的態度の障害との関連─
    橋本 衛, 小川 雄右, 池田 学
    2011 年 31 巻 3 号 p. 269-276
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    前頭側頭葉変性症 (FTLD) は, 著明な人格変化や行動障害を主徴とし, 前頭葉・前部側頭葉に病変の主座を有する変性性認知症を包括した疾患概念である。われわれは FTLD の行動障害の背景にある心的機能の障害として「抽象的態度 (abstract attitude) の障害 ; 与えられた刺激の具体性にしばられて, その刺激の持つ一般的, 抽象的属性を洞察できなくなる」に注目した。FTLD 患者, アルツハイマー病 (AD) 患者それぞれ 13 例を対象に, われわれが作製した抽象的態度を評価する 3 つの課題 (概念化課題, 概数見当課題, 状況想像課題) を実施した。結果は, FTLD 患者は 3 つの課題の成績がいずれも AD 患者よりも有意に低かった。さらに課題の成績と常同行動の評価尺度である SRI スコアとの間に有意な相関を認めた。これらの結果から, FTLD では抽象的態度が障害されていること, 抽象的態度の障害が認知の側面のみならず意思決定にも影響しその結果常同行動のような FTLD に特徴的とされる行動障害が引き起こされることが明らかとなった。
  • 石原 健司
    2011 年 31 巻 3 号 p. 277-283
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    前頭側頭葉変性症にみられる発話障害について, 文献を概観するとともに, 進行性の発話障害がみられた自験例の臨床的特徴, 病理所見を提示し, 病変の経時的な広がりと, 臨床症状の推移について考察した。進行性非流暢性失語では左下前頭回後部を中心として病変が拡大し, 文法障害や語想起障害が出現する。進行性失構音あるいは進行性発語失行では左中心前回下部を中心とした病変が緩徐に進行する。認知症を伴う運動ニューロン疾患では, 脳幹運動神経核の障害により球麻痺が出現し, 構音障害による発話障害がみられる。さらに進行性に「皮質性」構音障害を呈する症例が稀に存在し, 両側中心前回下部病変により偽性球麻痺が出現し得ることを, 自験例の臨床病理学的検討結果より示した。
シンポジウム II : 記憶障害の神経基盤
  • 森 悦朗
    2011 年 31 巻 3 号 p. 284
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
  • ─深部電極刺激検査からの知見─
    数井 裕光, 吉田 哲彦, 貴島 晴彦, 平田 雅之, 吉峰 俊樹, 武田 雅俊
    2011 年 31 巻 3 号 p. 285-293
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    左側頭葉内側部が焦点と考えられる難治性てんかん 3 症例に対して, 左嗅内野, 嗅周囲野を中心に深部電極を留置し, 電気刺激中に記憶検査を行った。記憶検査は 3 単語を聴覚的に提示し, 即時再生させ, 60 秒の干渉課題の後, 6 単語の中から再認させるものであった。記銘・即時再生中の刺激では即時再生は障害されなかったが, 遅延再認には障害を認めた。再認中の刺激でも再認成績が低下したが, とくに嗅周囲野の刺激で低下を認める頻度が高いと考えられた。記銘中の刺激によっても再認中の刺激によっても再認成績が低下する部位があり, 記銘と想起が同じ領域でなされている可能性が示唆された。虚再認も出現したが, これは嗅周囲野を再認中に刺激した際に多かった。以上より, 海馬体の機能が保たれていても嗅内野や嗅周囲野の機能不全で再認能力が低下し虚再認が出現することが明らかになった。また虚再認出現には想起時の嗅周囲野の機能不全が関わる可能性が示唆された。
  • 西尾 慶之, 森 悦朗
    2011 年 31 巻 3 号 p. 294-300
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    海馬から脳弓を介し, 乳頭体, 乳頭体視床路, 視床前核, 後部帯状回を経て海馬へ戻る回路は Papez または Delay-Brion 回路と呼ばれ, 記憶に関わるもっとも重要な神経回路であると見なされている。加えて, 周嗅皮質や嗅内皮質から視床背内側核を経て前頭前野へ投射する神経回路の役割も注目されている。視床前核や乳頭体視床路などの Papez 回路を構成する構造の損傷が長年重要視されてきたが, 過去の神経心理研究の再検討や視床灰白隆起動脈領域梗塞についての筆者の最近の研究の結果から, 間脳性健忘においては2 つの回路が同時に破綻していることが示唆された。
  • 船山 道隆
    2011 年 31 巻 3 号 p. 301-310
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    前脳基底部健忘は, 前向性健忘, 逆向性健忘に加えて, しばしば, 作話, 注意障害, 人格変化が出現する。側頭葉内側部の損傷による健忘と比べると, 自発性作話が特徴的である。本論では, 慢性的な自発性作話の責任病巣を検討した。1 年以上慢性的に自発性作話が続いた前脳基底部健忘 8 例の病巣を重ねた結果, 自発性作話が持続する場合の責任病巣は, 前脳基底部に加え, 前頭葉眼窩面, 前頭葉腹内側に広がり, 若干右半球優位であった。自発性作話の機序として, 過去の記憶の再体験, 肯定的に歪曲, 以前に提示された記憶痕跡を抑制できないこと, 記憶再生時に記憶の断片が混合することが考えられた。
  • 加藤 元一郎
    2011 年 31 巻 3 号 p. 311-318
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    前頭前野の損傷では, 特定の記憶障害は生じるが, エピソード記憶の障害である健忘症候群は生じない。前頭前野損傷で生じる特定の記憶障害は, 一言でいうとワーキングメモリの障害であり, 短期記憶システム内にコードされた情報 (表象) の保持とその処理・操作の障害である。前頭前野の障害では健忘が生じないが, 長期記憶のコード化と検索におけるある特殊な側面の障害, すなわち, 時間的順序の記憶障害, 虚記憶の亢進, 展望記憶の障害などが認められることが示唆されている。前頭前野損傷で見られるワーキングメモリの障害に関連して, 動物で見られる前頭葉ドーパミンD1 受容体刺激とワーキングメモリ反応との間の逆転 U 型曲線が, ヒトにおいて, 前頭葉ドーパミン D1 受容体結合能とワーキングメモリ関連の遂行機能検査の成績との間でも認められることを示した研究を紹介した。
  • 菊池 大一
    2011 年 31 巻 3 号 p. 319-327
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    解離性健忘は, 脳の器質的損傷ではなく, 精神的ストレス・外傷を契機として発症し, 自伝的記憶を想起することが持続してできない状態をいい, 心因性あるいは機能性健忘とも呼ばれる。解離性健忘は従来, 精神医学的な視点から論じられてきたが, 近年は神経科学的なアプローチがなされ, とくに機能画像を用いた研究により脳の水準での機能異常が示されるようになってきた。解離性健忘の脳内機序として, 前頭葉の遂行機能システムの活動による内側側頭葉の記憶システムの抑制という説, 自伝的記憶の想起の始動に関わる右半球の前頭-側頭領域の機能的離断という説があり, 最近の研究からはそれぞれを支持する結果がともに得られている。本稿では解離性健忘の神経基盤について, 機能画像研究の結果を中心に最近の神経科学的知見をまとめ, 神経学的な視点から概説し考察する。
原著
  • 高橋 真知子, 林部 英雄, 吐師 道子
    2011 年 31 巻 3 号 p. 328-336
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    我々は言語障害者の自発話能力を簡便に測定する検査法―「文構成テスト」を作成した。高橋ら (2007) では第一段階として本検査を健常者 120 名に実施し, 本検査が自然な会話場面の話し言葉の特徴を備えた自発話を引き出し, 定量的定性的な評価を可能にすることが示された。今回は失語症者 150 名に本検査を実施し, (1) 量的質的な評価, (2) 既存標準検査との関連妥当性, (3) 健常-失語群間の判別可能性, について検討した。その結果, (1) 失語群の正答率は 12.12 %から 90.91 %であり, 健常者と同様に各対象者の個性を反映した語彙や文型が産生された。本検査の結果は失語症重症度を反映し, 誤反応のタイプと量は意味的誤りを除いて, 失語症のタイプと重症度に対応していた。 (2) 本検査成績と SLTA 発話課題成績とは r=0.639 (p<0.01) の相関があり, 基準関連妥当性が確認された。 (3) 健常群と失語群とは正答率と施行に要した時間を説明変数として判別可能であった。
  • 山本 久美子, 能登谷 晶子, 得田 和彦, 松田 まどか
    2011 年 31 巻 3 号 p. 337-344
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    両側側頭葉から頭頂葉にかけての脳梗塞により, 軽度の感覚失語症に皮質聾を合併した発症時 43 歳の右利き女性の症例を経験した。症例は標準純音聴力検査ではまったく音に対する反応がなかったが, ABR では 40dB で軽度の障害であったことから皮質聾と診断した。言語機能の障害は軽度でとくに書字は比較的良好であった。日常生活中では聞こえないという素振りを示さず, 障害に対して積極的に否認するまではいかなかったが, 無関心な状態と考えた。リハビリテーションとして読話の訓練を行ったが, その効果は訓練室内のレベルでとどまった。また, 本邦にてこれまでに報告されている皮質聾例について, 病態失認・無関心と知的機能の保存の有無という視点から文献的考察を行った。
  • 栗原 恵理子, 堀川 楊, 渡部 裕美子, 高橋 いずみ, 小林 啓志
    2011 年 31 巻 3 号 p. 345-352
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    65 歳, 女性, 右利き。199X 年, 右側頭葉と頭頂葉の皮質下の脳出血により左同名性半盲を生じた際には幻視は出現しなかった。12 年後の 200X 年, 左後頭葉の脳塞栓により右同名性半盲が加わり著しい視野狭窄をきたした後, 人と動物を中心とした複雑幻視が生じ, これは2 年以上続いた。複雑幻視に対する病識は乏しく, 病識が得られるようになったのは再発より 1 年 4 ヵ月後のことであった。本症例で, 複雑幻視に対する病識が乏しかった理由としては, 幻視が非常に現実味を帯びたものであったこと, 残存視野が狭くて周辺のみであったため対比する現実の視覚像がなかったこと, 視野障害の病識が減弱していたことなどが考えられた。本症例の複雑幻視の発現機序としては, 既存の左同名性半盲に新しく右同名性半盲が加わり著しい視野狭窄となったことと, 損傷を免れた左の側頭葉と頭頂葉の働きで視覚イメージが自発的に喚起され複雑幻視の素材となったことの両者が関与したものと考えられた。
短報
  • 佐藤 志野, 船山 道隆, 中川 良尚, 佐野 洋子, 加藤 正弘
    2011 年 31 巻 3 号 p. 353-358
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    視覚失認患者は多くの例で病識の欠如を伴うが, その機序は明らかではない。今回われわれは, 両側側頭-後頭葉の脳梗塞による統覚型視覚失認の症例において, 左延髄腹側の脳梗塞再発による右上下肢の麻痺出現後にはじめて, 視覚失認の病識の出現を認める例を経験した。再発前後で視覚失認や他の認知機能の変化はなかった。病識の獲得にはさまざまな要因が考えられるが, 本症例はその経過から, 麻痺の出現によって高次視知覚の代償を強いられたことが, 病識の改善に寄与したと考えられた。
  • 中村 馨, 葛西 真理, 田中 尚文, 石川 博康, 佐藤 正之, 大内 義隆, 三村 將, 目黒 謙一
    2011 年 31 巻 3 号 p. 359-364
    発行日: 2011/09/30
    公開日: 2012/10/13
    ジャーナル フリー
    地域在住の 75 歳以上高齢者 200 名を対象に, アパシーの有症率を求め, アパシーを有する軽度認知障害 ( Mild Cognitive Impairment : MCI) 高齢者の神経心理学的特徴抽出を行った。検査完遂者は189 名で, 健常 ( Clinical Dementia Rating : CDR 0) 群52 名, MCI ( CDR 0.5 ) 群 108 名, 認知症 (CDR 1 +) 群29 名であった。アパシーは日本高次脳機能障害学会作成の標準意欲評価法の面接による意欲評価スケール ( CAS 1 ) にて評価した。結果, 高齢者全体の 54.5 %でアパシーを認め, 健常群, MCI 群, 認知症群の順にアパシーが多くみられた。健常群と MCI 群の比較では, 記憶で有意な CDR 効果を認めたがアパシー効果は認めなかった。二次解析で CAS 1 と WMS-R 論理的記憶 I が有意に相関し, MCI 高齢者のアパシーと encoding との関係が示唆された。
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