印度學佛教學研究
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『菩薩処胎経』の著者に利用された『維摩経』-甘露の分与の記述をめぐって-
レジッティモ エルサ
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2007 年 55 巻 3 号 p. 1079-1084

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抄録

『維摩經』の「香積佛品」は, 維摩詰によって化作された金色の菩薩が衆香世界に赴いて, 香積佛から甘露を授かることが主題となっている. この品における主要な登場人物は, 維摩詰, および維摩詰が化作した菩薩, そして香積佛である. これらの登場人物に加えて, 維摩詰の部屋に集会していた大衆と, 衆香世界からやってきた香積佛の菩薩たちが登場する. ここで維摩詰は, 衆香世界からやってきた菩薩たちに向かって, 釈迦牟尼佛の教えと娑婆世界の菩薩の功徳について説明する. 但しこの物語において, 釈迦牟尼佛は次の品まで登場しない.
『維摩經』「香積佛品」の物語は,『菩薩處胎経』(以下『胎経』) の中で, 異なったメッセージを伝えるために使用されている. 本稿では,『胎経』の著者がこの話を利用した方法を紹介したい.『維摩經』「香積佛品」の物語の主要登場人物たちは,『胎経』の中では追い払われている. ここでは釈迦牟尼佛が金色の菩薩たちを化作している. また, 釈迦牟尼の食物が閻浮提から他の世界に分与されている. そして, 釈迦牟尼のみが甘露によって五道の衆生に満足と幸福を与える役割を担っている.
如来による甘露の分与は,『胎経』の中心課題を明示している様々な例の一っである. その中心課題とは, 釈迦牟尼への信仰の強調である. つまり,『胎経』の著者は, 釈迦牟尼の権威を回復するために, 釈迦牟尼中心の世界観に適合しない経の物語とテーマを意図的に利用し, これを変容しようと試みている.
本論文では, 甘露の分与の物語と, さらにこれに関連する食物と八解脱の組み合わせのモチーフについての比較を広範囲に確認した.『維摩經』の著者は『増壹阿含經』から影響を受けた.『胎経』の著者は八解脱のモチーフを『維摩經』又は『増壹阿含經』から依拠した.

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