印度學佛教學研究
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五姓格別の源流を尋ねて
佐久間 秀範
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2007 年 55 巻 3 号 p. 1112-1120

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抄録

ねらい (目的): 五姓格別というと唯識教学の旗印のように日本では考えられてきたが, 吉村誠氏, 橘川智昭氏などの研究から法相宗の事実上の創始者窺基に由来することが判った. 窺基はそれ以前の中国唯識思想が如来蔵思想に歪められていたことへの猛反発から玄奘がもたらした正統インド唯識思想を宣揚しようとし, 一乗思想の対局の五姓格別を持ち出したと考えられる. それならば五姓格別思想も, その起源をインドに辿れるはずである. これまでインドの文献資料の中にその起源を位置づける研究が見あたらなかったので, これを明らかにすることを目的としたのが当論文である.
方法 (資料): 全体を導く指標として遁倫の『瑜伽論記』の記述を用い, 法相宗が五姓格別のインド起源の根拠と位置づける『瑜伽論』『仏地経論』『楞伽経』『大乗荘厳経論』(偈文, 世親釈, 無性釈, 安慧釈) と補足的資料として『勝鬘経』『般若経』に登場する当思想に関連するテキスト部分を逐一分析し, その歴史的道筋を辿った.
本論の成果等: 諸文献のテキスト部分を分析した結果, 五姓格別思想は三乗思想と無因子の無種姓とが合成されたものであることが判った. その過程を辿れるのが『大乗荘厳経論』第三章種性品であり, 無種姓という項目が声聞, 独覚, 菩薩, 不定種性と並列された第五番目に位置づけられるようになったのは, 最終的には安慧釈になってからであることが歴史的な発展過程とともに明らかになった. その場合玄奘のもたらした瑜伽行派文献の中国語訳に基づく五姓格別思想は, 玄奘が主として学んだナーランダーの戒賢等の思想と云うよりも, ヴァラヴィーの安慧系の思想を受け継ぐものと考えられる. これは智と識の対応関係などにもいえることであるが, 法相宗の思想の基盤が従来考えられたようなナーランダーにあると云うよりも, ヴァラヴィーなど他の地域に依拠しているケースが認められたと云うことであり, これまでの常識とされていた中国法相教学の思想の位置づけを含めて, 教理の内容を吟味してゆくことを要求する内容となった.

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