地下水学会誌
Online ISSN : 2185-5943
Print ISSN : 0913-4182
ISSN-L : 0913-4182
特集号論説
安全保障としての地下水の重要性
谷口 真人
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 55 巻 1 号 p. 5-11

詳細
抄録

国境等の水管理行政界をまたぐ水利用である国際河川・越境地下水問題は,防衛・外交・政治問題としての第1の水の安全保障の典型である。一方,飢饉・飢餓など極端な水不足や,紛争・社会構造変化などに起因する水分配の不具合,大災害などによる水にアクセスできない問題,緊急時の水利用などは,第2の水の安全保障概念に相当する。京都市災害時協力井戸制度では,2011年現在574箇所の井戸の登録があり,緊急時の水利用に備えている。一方,アジア7都市の社会構造変革と地下水利用の変化に関する解析からは,第2次世界大戦直後に地下水依存度が20~30%も上昇し,その影響・傾向は20年程度まで続いた。さらに,2011年3月11日の東日本大震災では,代替水資源としての地下水の重要性ばかりでなく,定常的に流れる地下水が有するレジリアントな資源としての側面,また緊急時の水利用としての地域コミュニティーの強さを示すことにもなった。さらに気候変動による水循環変化が人間社会に与える影響や,水がもたらす生態系サービスの評価等が第3の水の安全保障に相当する。リスク軽減とサービス向上のバランス評価と,地球環境変動の地下水への長期影響評価が,地下水の持つ水の安全保障を高めるために必要である。

著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本地下水学会
前の記事 次の記事
feedback
Top