地下水学会誌
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濃飛流紋岩および阿武隈花崗閃緑岩などの酸性岩地帯の地下水の一般溶存成分.安定同位体比とトリチウム濃度およびガス分析による地下水の水循環および水質変化の推定
長江 亮二
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1996 年 38 巻 1 号 p. 51-79

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抄録

水質型.安定同位体比.トリチウム濃度.ガス組成.メタンの同位体比および湧出状況等から.濃飛流紋岩分布地域と阿武隈花崗閃緑岩分布地域に存在する地下水の流動機構および水質変化の特徴を考察した.地下水の主要溶存成分の特徴から10グループに区分され.広域的流動系に対応する流れ局所的流動系の流れ局所的~中間的流動系に依存する流動経路に分けられた.トリチウム濃度分析から広域的流動系に属するものは貯留時間が長く.局所的流動系に属するものは近年の降水に対応し循環速度が速い.特に阿武隈花崗閃緑岩分布地域では.広域的流動系と局所的流動系の差が顕著である.濃飛流紋岩分布地域は差が小さいことから.断裂の透水的性質に関係するのか.局所的流動系と混合しやすいことを示している.濃飛流紋岩分布地域および阿武隈花崗閃緑岩分布地域の地下水は.水の安定同位体比によりMeteoric Water Line付近にプロットされることから.貯留時問は異なっているが.すべて天水起源の循環水と考えられる.
地下水の水質変化は.NR.AR.G1グループの地下水は塩分濃度が低く.高pH.NaHCO3型の特徴をもち.その形成機構が安定領域図などの検討によりAL.NLグループの浅層地下水が酸性岩質岩盤中の断裂を通じて広域的流動系を流動する過程で.土壌に含まれていた二酸化炭素を消費することに.酸性岩との反応・溶脱により形成されたと推定される.下呂温泉はNR組成の地下水とNaCl型熱水の混合で形成されたと考えられる.不活性ガス組成からは.空気で飽和した地下水と美濃帯の影響の中間的なものであり両方の寄与が考えられる.朝日村農政局井(MW7a)はガス分析などの考察から美濃帯独自のものと考えられ.不活性ガス組成は塩沢・宮之前朝日村井・下島・湯屋・御嶽温泉・濁河温泉などは.空気で飽和した地下水と美濃帯独自の組成を結んだ線上に並ぶため.両者の混合したものと考えた.水質組成に関しては.美濃帯独自のものに火山ガス起源の二酸化炭素が混入することによりpHが低下し形成されたものである.遊離ガス中のメタンの同位体分析から.濁河温泉は.その水質組成からもそうであるが火山ガス起源と考えられる.(N)下島・湯屋温泉・宮之前朝日村井.(M)御嶽温泉・塩沢温泉・牧尾ダム下流については朝日村農政局井(MW7a)の美濃帯独自の堆積性メタンとKerogensなどから由来するThermogenic methaneの混合したものである.これらの結果をもとに地下水流動系と断裂との関係を考察した.N.M.GH.NGHグループは.その湧出経路が美濃帯にまで達しており.阿寺断層と直交する断層系(下島温泉の落合断層.宮之前朝日村井の猪ノ鼻断層)である.阿寺断層と共役と考えられているものの.最近の活動の証拠はみいだされていない古い断層である.このため経路がある程度塞がれており.スポット的に地形的低所の湯屋・下島などで自然湧出したものであろう.阿寺断層は410年前にも活動が知られている活断層であり.破砕帯の幅が広い.一方阿寺断層部では下呂の高温泉が知られているのみである.これは.成因が局所的なものである.基本的には活断層であるため割れ目が多く透水性が高いと思われ.広域的流動系をせき止めるような不透水部の発達が局所的なため地上に湧出しないものと考えられる.
二酸化炭素を含まないNRグループの地下水は.断裂を流動系路としているものの濃飛流紋岩下部の美濃帯に達していないようである.
阿武隈花崗閃緑岩分布地域における流動系は.地形的高所である約10kmほどはなれた山地域でかん養し.湯岐断層などの不透水性断層に流線がさえぎられて.その流線が上方に向かい地表に湧出したものである.

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