第四紀研究
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気候変動の指示者としての十勝ローム層の諸性質の変化
吉永 秀一郎
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1995 年 34 巻 5 号 p. 345-358

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抄録

連続的な堆積物であるローム層の諸性質は,堆積時の環境条件を記録している可能性がある.そこで,十勝ローム層をとりあげ,最終間氷期以降のローム層の乾燥密度,粒径組成,シルト・粘土中の石英含有率,炭素含有率の変化と気候変動との関連を検討した.十勝ローム層の乾燥密度,シルト中の石英含有率,炭素含有率の最終間氷期以降の変化は,酸素同位体比の変化と類似した変動を示した.乾燥密度,シルト中の石英含有率は,寒冷なstage 2,4,5dないしはstage 6で高い値を示した.一方,炭素含有率は温暖なstage 3,5a,5cでやや高い値を示し,寒冷なstageでは低い値を示した.寒冷なstageにおける乾燥密度の増加は,広域風成塵起源の結晶質粘土鉱物ならびに微細石英の混入の増加の影響と考えられ,それは中国黄土高原で明らかにされた寒冷気候下での北西モンスーン強度の増大に連動するものと考えられる.一方,炭素含有率の変化は,土壌中への有機物の集積の変化を意味し,寒冷なstageで減少するのは,氷期の十勝平野における植被の減少を示していると推察された.このようにローム層の性質の変化は,中国黄土高原の黄土(レス)-古土壌シークエンスと同様に,第四紀後半の気候変動の指示者として有効である.

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