日本応用動物昆虫学会誌
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ニカメイチュウの組織培養
I. 休眠幼虫組織からの細胞移住
三橋 淳
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1965 年 9 巻 3 号 p. 217-224_4

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抄録

ニカメイチュウの休眠幼虫の組織をin vitroで培養した。材料には人工飼料で無菌飼育し,短日条件によって人工的に休眠を起こさせた幼虫を用いた。幼虫を減菌した塩類溶液中で解剖して,必要な器官または組織をとり出し,それを細切した後,軽くトリプシンで処理し,合成培地中で培養した。培地は無機塩,糖,ラクトアルブミン加水分解物,ペプトン,塩化コリン,酵母抽出物,TC-199培地,牛胎児血清,ストレプトマイシンからなり,pHは6.2に調整された。培養容器は2枚のカバーグラスとガラス製のスライドリングを組み合わせて作られた。とり出された幼虫の組織は培養容器の底面のカバーグラス表面で培養され,細胞の移住,増殖の状態は日本光学MD型倒立顕微鏡を用いて観察された。
腹部神経球から游走細胞と大形上皮細胞がえられたが,いずれも短命であった。咽喉下神経球からは細長い細胞が移住した。背脉管および翼状筋からなる移植片からは,上皮細胞,繊維状細胞,大形の多核細胞がえられた。中腸からは常に水泡状構造をともなう上皮細胞状細胞が移住した。マルピギー氏管および絹糸腺からは上皮細胞がえられた。脂肪体からは,油滴を多量に含む脂肪細胞が移住した。精巣からは大小2種の上皮細胞と游走細胞がえられ,卵巣からは3種の上皮細胞と1種の游走細胞がえられた。唾液腺,前胸腺からは細胞の移住増殖は起らなかった。これらの細胞のうち,精巣由来の小形上皮細胞,卵巣由来の大形上皮細胞および游走細胞は有糸分裂を行なって増殖し,かなりの期間生存した。
一方,精巣培養の際,in vitroでspermatocystが発育してspermatidができ上った。休眠幼虫ではspermatocystはすべて未熟で球形をしているが,培養を始めると,まず西洋梨型になり,さらに伸長して長いspermatidになり,その中に完成した個々の精子を認めることができた。一般に精子形成には前胸腺ホルモンが心要と考えられているので,この点は今後さらに検討する心要があると思われる。

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