総合病院精神医学
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22 巻, 1 号
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特集:総合病院での医師の働き方を支援する
原著
  • ―その立場や役割の多様性―
    井上 幸紀, 岩崎 進一, 引地 克仁, 中尾 剛久, 出口 裕彦, 室矢 匡代, 小林 由実, 切池 信夫
    2010 年 22 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    総合病院における精神科医の業務は往診など他科領域を含めて広い。そして設立主体や病床の有無などにより,教育指導や研究の必要性,精神科救急での役割,経営への関与など求められるものに差があり,同じ総合病院精神科医でも立場や役割は多様である。職業性ストレスは「仕事の要求・コントロール度・社会的支援の不均衡」や「努力と報酬の不均衡」などで表されることが多いが,有床公立総合病院の精神科医などでそれらは高くなると考えられる。総合病院精神科医への支援はその多様性に配慮したうえで,個別に自助・互助・公助などから多面的に検討する必要がある。例として,総合病院では症候性精神障害など複雑な症例を数多く経験できる「やりがい」を感じている医師も多く,その長所を強化することなどが自助になる。また大学などからの人的応援体制整備を行うこと(互助)や,医療秘書の導入や経済的支援の増加(公助)が必要となる。
総説
  • 和田 耕治
    2010 年 22 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    医師の健康は,医師個人のためだけではなく,医療安全の確保や地域の医療提供体制の維持にも不可欠であり,貴重な社会資源である。しかしながら必ずしも医師が健康であるというわけではない。日本では医師の過重労働や,日常的に多くのストレスに曝されていることもあり,医師の健康を維持するために医療機関や,医師会などによるさらなる支援が必要である。諸外国においては,すでに医師会を中心とした医師の健康支援が行われている。例えば,医療機関での組織的対応の促進,医師のセルフケアの啓発,医師の健康支援に関するシンポジウム,医師のための相談窓口,医師を診察する際の配慮すべき点を学ぶ機会,家族との関係の支援である。わが国の医療機関での対策の推進においては産業医の役割が大きい。50人以上の職員がいる場合には産業医を選任することが法的に求められている。精神科の医師がいる総合病院においては産業医との連携により医師のメンタルヘルスを守る対策の推進が求められる。
総説
  • 保坂 隆, 和田 耕治, 吉川 徹, 後藤 隆久, 中嶋 義文, 平井 愛山, 松島 英介, 赤穂 理絵, 木戸 道子
    2010 年 22 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    2008年6月,日本医師会内に「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」が設置され,まず現在の勤務医のストレス状況や健康状態を把握するための調査を実施した。この結果を基にして,健康をサポートするためにE-メールによる相談,電話による相談を試行したので,その結果を示し,今後の課題を検討する。方法としては,日本医師会会員中,勤務医約8万人から1万人(男性8,000人,女性2,000人)を無作為に抽出し,質問票を郵送し,無記名での記入・返送をお願いした。質問票は(1)属性,(2)自分自身の健康管理と業務量,(3)うつ症状に関する質問票(Quick Inventory of Depressive Symptomatology:QIDS-SR-16)の日本語版6),(4)今後取り上げるべき勤務医の健康支援策,で構成されている。有効回答率は40.6%で,その回答を分析すると,2人に1 人が,休日が月に4日以下であった。2人に1人は半年以内に1回以上患者からの不当なクレームの経験があると答えた。6%が死や自殺について1週間に数回以上考えていた。QIDS の総得点によれば,男性では8.4%,女性では10.6%の回答者がメンタルヘルス面でのサポートが必要と考えられた。薬物療法や休職が必要なうつ病と思われるケースは1.9%にみられた。さらに,健康支援のための相談件数は,E-メールによるものは3 カ月間で10 件,電話による健康相談は1日であったが,件数は0件であった。「医師は自らは相談しない職種である」ことが再確認された。今後の対策として病院の産業医による早期介入など,新たな対策を考えていくつもりである。
総説
  • 島津 明人
    2010 年 22 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    本論文は,近年,新しく紹介されたワーク・エンゲイジメント(仕事に関して肯定的で充実した感情および態度)について概観したものである。最初に,エンゲイジメントが活力,熱意,没頭から構成される概念であることを定義したうえで,関連する概念(バーンアウト)との異同について言及した。ワーク・エンゲイジメントは,仕事の資源(自律性,上司のコーチング,パフォーマンスのフィードバックなど)や個人の資源(楽観性,自己効力感など)によって予測されるとともに,心身の健康,組織行動,パフォーマンスを予測することができる。測定尺度として最も使用されているのがユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度であり,各国で標準化がなされている。最後に,医療場面でワーク・エンゲイジメントを向上させるための実践方法について,自助および互助の観点から言及した。
一般投稿
原著
  • 黒田 佑次郎, 岩瀬 哲, 岩満 優美, 山本 大悟, 梅田 恵, 川口 崇, 坂田 尚子, 倉田 博史, 佐倉 統, 南雲 吉則, 中川 ...
    2010 年 22 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    目的:乳がん治療により生じる更年期症状と,乳がん患者の心理社会面の関係について検討を行った。対象と方法:2007年10月から2008年11月までに乳腺外来を受診した187人を対象とした。調査に使用した質問紙はすべて自己記入式であり,更年期症状の程度を示すクッパーマン更年期指数(KKSI),抑うつ・不安尺度のHADS,がん患者のQOLを測定するFACT-G,乳がん患者に特化したQOLを測定するFACT-Bへの記入を依頼した。結果:KKSIの結果,更年期症状が6割に認められ,そのうち中等度以上の症状が6割を占めた。次に,KKSI の4つの重症度分類を基に,4群における一要因の分散分析を行った結果,更年期症状重度群が症状なし群,軽度群より有意に不安・抑うつの得点が高く,QOLが低かった(F3,17 ≧12.13,p<.01)。結語:乳がん患者が体験する更年期症状は,不安・抑うつおよびQOLとの関連性が示され,乳がん患者のQOLの維持・向上のため,更年期症状のコントロールが必要であることが示唆される。
  • ―がん患者およびサバイバーを対象としたインターネット調査より―
    松下 年子, 松島 英介, 野口 海, 小林 未果, 松田 彩子
    2010 年 22 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    背景:がん患者の心のケア・サポートの必要性が重視されるなか,患者の相談行為などの実態は明らかではない。目的:がん患者の心の支えと相談行為の実態を把握する。対象:がん患者およびサバイバー。方法:インターネットを媒体とした質問紙調査。結果:がん罹患以降日常的に「心の支えとなる人」を必要とした者は64.6%で,その担い手の大半は家族であった。患者同士で助言し合った者は46.8%で,そのうちの84.2%はそれを通じて気持が楽になっていた。精神科・心療内科医を受診した者は10.8%,セカンドオピニオンを試みた者は22.0%,スピリチュアルペインを体験した者は35.4%であり,後者の33.9%がスピリチュアルな悩みを誰かに相談していた。家族が落ち込んだ者は42.4%で,そのうちの62.7%が自身で落ち込んだ家族の相談にのっていた。考察:患者の医療者への相談行為を促進するような体制整備の必要性が示唆された。
  • 宮崎 健祐, 武井 明, 和彦 目良, 佐藤 譲, 原岡 陽一, 鈴木 太郎, 平間 千絵
    2010 年 22 巻 1 号 p. 44-50
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    市立旭川病院精神科において,思春期外来が開設された1991年1月から2005年12月までの15年間の3歳から18歳までの児童思春期患者の初診の外来統計を集計した。初診した患者の総数は1,339人(男子508人,女子831人)で,13歳以上の思春期患者が79.0%を占めていた。ICD-10による診断的内訳で最も多かった疾患は,神経症性障害(F4)で全体の49.3%であり,次いで小児期および青年期に特異的な行動と情緒の障害(F9)(13.1%),統合失調症圏(F2)(11.4%),生理的障害などに関連した行動症候群(F5)(9.0%)の順であった。近年の特徴として,広汎性発達障害(F84)や多動性障害(F90)といった発達障害圏の患者数の著しい増加があげられる。また,1,339名の患者のうち429名(32.0%)が不登校を主訴に受診しており,ICD-10によって神経症性障害(F4)と診断される患者が最も多かった。以上の結果から,思春期外来に求められる役割として,神経症性障害や発達障害圏に対する治療や支援体制の充実とともに,増え続ける患者に対応するために児童精神科医を新たに養成していくことも重要な課題であると考えられた。
症例
  • 目良 和彦, 武井 明, 宮崎 健祐, 天野 瑞紀, 松尾 徳大, 佐藤 譲, 原岡 陽一
    2010 年 22 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    精神病性うつ病のペースメーカー患者(男性,66歳)に対して修正型電気けいれん療法(以下,mECT)を施行した。本症例は,55歳時に徐脈性不整脈に対してVVIペースメーカーが植込まれ,58歳時からはうつ病相を繰り返したため薬物療法を受けていた。65 歳時から抑うつ症状とともに被害的な内容の幻聴と妄想が出現し,薬物療法によって改善されないため,当科に入院しmECTが施行された。mECTに際しては,施行前の循環器内科による心機能評価,施行前後のペースメーカーの動作確認,施行前の患者と地面との絶縁,ペースメーカー破損時の循環器内科による支援体制の確立などに留意した。その結果,ペースメーカーの破損や誤作動もなく,mECTを安全に施行し十分な治療効果が得られた。したがって,薬物療法によって治療が困難な精神症状を呈するペースメーカー患者に対して,mECTは安全で有効な治療手段の一つであると考えられた。
資料
  • 日本総合病院精神医学会医療問題委員会
    2010 年 22 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/02/14
    ジャーナル フリー
    2008年10月における総合病院精神科の実態を把握するために,718施設に調査を依頼し,452施設(63.0%)から回答があった。精神科診療を行っていない施設など53施設は除外し,399施設の結果を集計し,検討した。
    精神科が設置されている総合病院は,救急医療,緩和医療など,活発な医療が提供されている施設が多く,一般医療との連携が重要となる領域で精神科が果たしている役割は大きいものと考えられた。精神科医(研修医も含む)をはじめとするスタッフは,入院治療が可能な施設に比べて,入院病床をもたない施設では少なくなっていた。精神科病床数,精神科医師数ともに,前年度に比べ減少している施設が増加している施設よりも多かった。精神科救急医療や合併症治療は入院治療が可能な施設を中心にして行われていたが,専門的な治療病棟を有している施設はまだ少なかった。
    総合病院精神科スタッフが充実するとともに,他の診療科との連携が今以上に適切に評価されるような診療報酬体系が整備されることが必要と考えられた。
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