2009 年 42 巻 3 号 p. 328-333
症例は70歳の女性で,主訴は呼吸苦と肛門部腫瘤.2005年頃より肛門周囲に腫瘤を自覚していたが放置していた.2007年9月呼吸苦が増強したため当院に救急搬送され,陳旧性心筋梗塞によるうっ血性心不全の診断で入院となった.会陰部を中心に肛門と膣に及ぶ約8 cm大の巨大な腫瘤を認め,生検で角化扁平上皮癌と診断した.腫瘍は直腸前壁と膣後壁への広範な浸潤を伴っており,切除のためには膣壁合併切除を伴う直腸切断術が必要と考えられたが,心駆出率が40%と低心機能であったため手術侵襲が少ない経仙骨的アプローチによる局所切除を選択した.ジャックナイフ位で下部直腸を切断し肛門と膣後壁を含めて腫瘍を切除した後,小開腹で双孔式人工肛門を造設した.手術時間は3時間30分,出血量は424 gであった.術後一時的に肺うっ血を認めたがすぐに改善した.病理組織学的切除断端は陰性であり,術後3か月経過した現在まで再発は認めていない.