2012 年 53 巻 3 号 p. 229-235
瘢痕声帯・声帯溝症の病態は声帯粘膜の硬化にあり,有効な粘膜波動が阻害され音声障害が生じる.しかし現時点で確立された治療法はない.今回われわれは瘢痕声帯・声帯溝症に対し音声治療を行い,音声症状の改善を認めた症例を経験した.症例は,2010年6月から2011年6月に当科を受診し,瘢痕声帯・声帯溝症に対し音声治療を行った3例である.この内2例は塩基性繊維芽細胞増殖因子注入後6ヵ月を経過し粘膜波動の改善を認めたものの,音声疲労症状のさらなる改善を希望した症例である.他1例は嗄声の改善を希望した初診の患者である.声の誤用が粘膜波動の減弱に関連があると考えられ,声の誤用改善を目的に音声治療を施行し,過緊張性発声を緩和させ,声域拡大訓練としてVocal Function Exerciseの原理を応用した.音声治療後,全例に粘膜波動と自覚的評価の改善を認めた.音声治療によって音声症状が改善されたと考えられた.