日本鳥学会誌
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総説
ウミガラスの生理生態学:体温変化と潜水行動の関係を探る
新妻 靖章
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2010 年 59 巻 1 号 p. 31-37

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抄録

Schmidt-Nielsenによると生理学とは,「生き物の機能(どのようにして食べ,呼吸をし,動くか)を知ること」,さらに「どのようにして生き物が困難な環境に適応しているか」を研究することとしている.生理生態学とは,Schmidt-Nielsenのいうところの後者の研究や生理学的な手法を用いて生態学的な問題を解決しようとする学問といえる.肺呼吸する動物は水に溶けている酸素を直接利用することはできず,水は空気に比べ,約25倍速く熱を奪うため,肺呼吸で酸素を体内へ取り入れ,自らの発熱により高いレベルで一定の体温を保つ内温動物にとって水環境も困難な環境として含まれる.潜水する海鳥であるペンギン類やウミスズメ類は南極や北極の海洋生態系の高次捕食者であり,その潜水性能は高い体温を維持することによって達成されると考えられている.高い体温を維持することにより,筋収縮に関する酵素の活性を上げることができ,すばやい酵素反応は大きな力を生むことができる.しかし,海鳥のような小さな動物が寒冷な海に潜ったときに体温を維持するあるいは有酸素呼吸を可能とする生理学的メカニズムは不明な点が多い.近年,潜水性の内温動物の生理的な特性,例えば心拍や体温などをバイオロギングの技術により記録することが可能となった.ハシブトウミガラス Uria lomvia の潜水時における酸素の制約と体温上昇のトレード・オフの関係を,体温変化と体内の温度勾配から明らかにし,血流調節による潜水適応を提案し,酸素消費速度についても議論した.また,近年のペンギン類の研究成果を紹介し,バイオロギングの技術を用いた生理生態学の展望をした.

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