日本鳥学会誌
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果実食者としてのカラス類 Corvus spp.: ウルシ属 Rhus spp.に対する選好性
上田 恵介福居 信幸
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1992 年 40 巻 2 号 p. 67-74

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抄録

1988-89年の冬に,大阪府下において,カラス類が就塒前に集合•休息に利用しているビルの屋上において,カラス類が吐き出したと思われるペリットと糞に由来する大量の種子を分析したところ,カラス類が乾果,特にウルシ属 Rhus のハゼノキ R. succedanea またはヤマハゼ R. sylvestrisの実を大量に食していることがわかった.
得られた41種(属)の種子のうち28種の種子が同定できた.中でも,ウルシ属の種子が群を抜いて多量に含まれていた.これは重量にして種子全体の約64%,個数にして約61%を占めていた.同定されたウルシ属のうち,6302個(99.3%)がヤマハゼまたはハゼノキで,残り44個(0.7%)がヌルデ R. javanica またはヤマウルシ R. trichocarpa であった.ついで多かったのがクマノミズキCornus macrophyllaで1271個(12.2%),トウネズミモチ Ligustrum lucidum 821個(7.9%),ナンキンハゼ Sapium sebiferum 474個(4.5%),ヤマモモ Myrica rubra 383個(3.7%),グミ属 Elaeagnus sp. 360個(3.4%),クスノキ Cinnamomum camphora 139個(1.3%)で,これら7種で全体の93.8%を占めていた.栄養分析の結果,ヤマハゼやハゼノキの果実には多量の脂肪分が含まれていることがわかった.脂肪分を多く含んだ"乾果"は,秋から冬にかけての,エサの少ない時期のカラス類の食物として,水分を多く含む多肉果(液果•核果)よりも重要な意味を持っていると考えられる.同時に,これらの種子の散布者としてカラス類の役割も重要だと考えられた.

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