病院経営上,手術件数の確保は重要な課題であるが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により手術件数の維持は困難になっている.このような状況下では,手術室,麻酔科医,看護師といった限られたリソースを効率的に活用し,1件1件の手術を円滑に遂行することが重要となる.当院では手術申込を手術室占拠時間で行い,タイムアウトで執刀医が手術時間に加えて申込時間を宣言するよう運用を変更した.その結果,申込時間と実時間との乖離が減少し,大幅な超過手術の割合が3カ月間で40%減少した.当院の取り組みから,わずかな工夫で手術部の運営効率を改善させられる可能性が示唆された.
コロナ禍による手術件数の制限を検証した.コロナ禍の2020年度は手術総数(待機手術と緊急手術)と重症症例(ASA-PS 3以上)がコロナ前と比較して減少した.翌2021年度は前年度と比較して待機手術と重症症例は増加したが,緊急手術はさらに減少した.緊急手術の減少は上腹部内臓疾患が手術以外の代替治療を行うようになったこと,重症手術の増加は新型コロナワクチン接種が普及したことが要因として考えられた.コロナ禍以降2年以上経つ現在,国内の各医療機関は自施設の医療提供の推移と特性を検証し,今後の新興感染症流行という事態を見据えた対策を図ることが求められよう.
74歳女性,右上葉肺癌に対して胸腔鏡下右上葉切除術が予定された.既往に完全内臓逆位があり,分離肺換気方法に関して術前に検討した.術式,気管支長,過去の文献を参考に,右用ダブルルーメンチューブを右(解剖学的左)主気管支に留置する方法を第一選択として麻酔計画を立てた.プロポフォール,ロクロニウム,レミフェンタニルで麻酔導入し,気管支鏡を使用し右用ダブルルーメンチューブを右主気管支に挿入した.換気困難や脱気不良なく手術は終了した.内臓逆位患者に対する分離肺換気方法についてはさまざまな報告があるが,今回経験した症例をもとに術前の麻酔計画について検討した.
「麻酔申し送りチェックリスト」を作成,使用してみて麻酔科医の意識がどのように変わるかを調査した.アンケートを実施して現状を把握した後,チェックリストを各手術室に配置し,使用を促した.3カ月後に再びアンケートを実施し,チェックリスト使用前後でどのような意識変化があったかを調べた.引き継ぎが「要領を得ない」と感じた人は86%から41%に減少し,「予期しない事態に遭遇した」のは69%から33%に減少した.9割の医師が「今後も活用したい」と考えていた.チェックリストを使用することで質の高い申し送りができたと実感した麻酔科医が増え,適切な麻酔引き継ぎに対する意識向上につながると考えられた.
経肺熱希釈法循環モニタリングシステム(PiCCOTM;VolumeView SetTM)は心拍出量だけでなく肺外水分量などの測定にも用いられている.肺外水分量を指標とした管理は過剰輸液の抑制が期待できるが,ランダム化比較試験で生命予後改善に寄与しなかったとの報告もある.患者への侵襲や医療コストも念頭に入れながら,適応を判断すべきである.
古くから乳酸値は死亡率や予後予測の指標の一つとして使用されており,現在でも敗血症や心臓手術後などを中心に周術期や集中治療管理で血中乳酸値を治療の指標とする場合がある.しかし血中乳酸値が上昇した場合,組織低酸素や嫌気性代謝の亢進によるものだけでなく,手術手技や薬剤などの影響も考慮する必要がある.最近では産生された乳酸をエネルギー源として骨格筋や心臓,脳などで利用している乳酸シャトルという考え方があり,特に運動生理学的な乳酸値の評価は大きく変わりつつある.血中乳酸値自体を低下させる努力より,血中乳酸値の上昇を引き起こしている原因を突き止めて対処することが重要である.
レミマゾラムは最近発売された超短時間作用型ベンゾジアゼピン系の静脈麻酔薬である.全静脈麻酔法Total intravenous anesthesia techniqueを用いる際には,適切な鎮静深度を維持するため,脳波モニタリングが推奨されている.しかしながら,レミマゾラム使用中の脳波は,これまで標準的に用いられてきたプロポフォールとは,ベータ波の混入が多いこと,Burst suppressionが観察されにくい点,そして概して高い処理脳波値が算出されやすい点で異なる.このように,レミマゾラム使用中には脳波モニタリングの解釈を難しくさせる要素があるため,患者の状態は総合的に観察される必要がある.
先天性心疾患(Congenital Heart Disease:CHD)患者の予後は飛躍的に改善し,それに伴い成人になってから心臓手術を受ける患者の割合も多くなっている.成人先天性心疾患(Adult Congenital Heart Disease:ACHD)では,原疾患が多岐にわたり,小児期から複雑,かつ特殊な血行動態に曝され,一般の成人とは異なった合併症を抱えていることが多い.心臓手術の麻酔管理には,病態の理解と重症度を把握し,術前評価を徹底することが重要である.当院の症例を提示し,ACHDに対する術前評価と周術期管理のポイントを述べる.
先天性心疾患患者の多くが成人期を迎える時代となり,成人先天性心疾患(ACHD:adult congenital heart disease)の患者が非心臓手術を受ける機会が増加している.ACHDは全身性の疾患であり,非心臓手術の麻酔では術前評価が極めて重要である.ACHD患者の非心臓手術の麻酔管理には,一つの麻酔方法が他の方法に優るというエビデンスはなく,個々の症例において血行動態を把握し,手術のリスクを評価して,生じ得る合併症を予測したテイラーメイドの麻酔管理が重要となる.
小児心臓手術の麻酔は小児麻酔の特殊性と心臓麻酔の特殊性を併せ持ち,敷居が高いと感じる人もいるかもしれない.大事なのは,まず小児麻酔であるという意識を持つこと,体肺血流のコントロール方法を理解すること,そして,スムーズに術後の集中治療管理につなげていくことである.麻酔方法や血管作動薬の選択など悩むことは多いかもしれないが,確固たるエビデンスはないため,薬剤の特徴を理解しつつ,施設の状況に応じた使用方法に慣れていくのがよいと思われる.
当院は年間150例程度の小児心臓手術症例数があり,国立大学病院では有数の手術実施施設となっているが,小児心臓手術を行う手術枠には限りがある.また,病院規模と比較して,ICUのベッド数が非常に少ない.苦労しながらも工夫して一歩ずつ前進している.麻酔管理では,鎖骨上アプローチによるCVC留置を含む超音波ガイド下血管穿刺,胸横筋膜面ブロックなど,さまざまな特色がある.伝統的に経食道心エコー(TEE)を積極的に使用して術中管理を行っている.体重2kg程度から適応を慎重に決めている.標準的な評価に加え,肺静脈血流評価を行い,肺動脈絞扼サイズの決定,体肺動脈短絡術,Fontan型手術の吻合異常の検出に利用している.
スタイレットは気管挿管時の操作性を向上させる有用な補助器具であるが,その剛性により気道合併症を増加させる懸念がある.本研究では数理モデルとマネキンを用いた検証により,スタイレットの潜在的リスクと安全な使用方法について考察した.まず,仮にスタイレットを直線的に抜去した場合,気管チューブ先端が大きく変位することを示した.また数理モデルにより,スタイレットの形状や屈曲角度に応じた理想的な抜去法を示した.さらにマネキンを用いた実験により,強角度のスタイレット使用は喉頭損傷のリスクを高める可能性を示した.スタイレットを使用する際は,その有用性とともに潜在的リスクやメカニズムを認識することが重要である.