日本臨床麻酔学会誌
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—日本臨床麻酔学会第26回大会 シンポジウム—
麻酔科医はどこまで臓器保護に関与できるか?
脳保護
合谷木 徹
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2007 年 27 巻 7 号 p. 588-598

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抄録

  麻酔科医が脳保護に関与する場合には, 術中に脳虚血に陥る状況が予想される際や, すでに少なからず存在する脳虚血に対して, 脳保護効果を期待して周術期の管理を行うことが考えられる. 脳虚血に影響を与える生理的因子には, 低血糖, 高血糖, 高体温, 低脳灌流圧, および低二酸化炭素血症がある. 血糖に関しては, 170mg/dl以上の高血糖は脳障害を悪化させ, これは動物実験においてもヒトにおいても当てはまる. 体温に関しては, 低体温が脳保護効果に有用との報告があるが, 近年脳動脈瘤手術中の低体温が有用でないとの報告もある. 脳保護効果に関して, 動物実験において有用性が示された多くの薬物でも, ヒトに応用した場合には, 依然として明確に有用であるとは認められない状況である. 麻酔薬にはin vitro, in vivoにかかわらず脳保護効果があるとされてきた. しかし, イソフルランの脳保護効果は長期的にはみられないという報告があり, 遅発性脳障害に対する効果には疑問もあるが, イソフルランの脳保護効果はGABA-A受容体を介しているとの報告もあるため脳保護効果に有用であることは確かである. われわれは動物実験においてβ遮断薬の有用性を検討し報告した. さらにヒトにおいても有用性が示唆されるが, 結論には今後の検討が必要である. ナトリウムチャネルブロッカーのリドカインも多くの研究がなされ, 脳保護効果があるとされる. 以上より, 脳保護のためにできることとして, まず病態を把握して脳灌流を適正に維持し, 脳機能を悪化させる要因の排除が必要であり, 可能な脳保護法を適切に選択することが重要である.

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© 2007 日本臨床麻酔学会
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