2017 年 60 巻 4 号 p. 286-289
「デジタルアーカイブ」という言葉を見かけるようになったのは1990年代後半で,ほぼ20年がたつ。この20年で,情報を取り巻く環境や機器,社会は大きく変わり,デジタルアーカイブも珍しくなくなった。しかし,構築したデジタルアーカイブを維持し,十分に活用できているケースはそう多くない。
デジタルアーカイブの構築・維持・活用には,予算や人材,組織の壁など,さまざまな制約がある。また原資料・予算・人材・技術はそろっていても,法制度の壁があって構築すらできないケースなど,一組織では解決しきれない課題も多い。
デジタルアーカイブの構築と活用は,学術分野のみならず日常生活においても,ましてや今後の社会の発展においても不可欠である。世界各国・地域ではかなり構築・活用が進んでいる国・地域も多い。日本においてはデジタルアーカイブの整備が整い始めてはいるが,残念ながらさまざまな課題が山積しており早急に解決する必要がある。
「東京大学大学院情報学環 DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座」の講師陣が中心となって設立した,「デジタルアーカイブ学会」(以下,本学会)の設立総会が東京大学本郷キャンパス(図1)で開催された。
なぜ今,新たな学会を設立するのか。その点も踏まえ,本学会の概要や設立総会の模様を報告する。
東京大学大学院情報学環は,2015年11月に「DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座」を開設した注1)。この講座では,(1)学内所蔵資料を対象とするデジタルアーカイブの構築,(2)学術電子コンテンツの教育学習における活用の実践的研究,(3)権利処理における学外の関連諸機関との連携,著作者情報の集中管理・権利処理システムのプロトタイプの製作,を研究対象としている。
この講座を事務局として,2017年5月1日に本学会が設立された注2)。本学会のWebサイト注3)に,設立の趣旨が掲載されている。一部を抜粋する。
「21世紀日本のデジタル知識基盤構築のために,デジタルアーカイブに関わる関係者の経験と技術を交流・共有し,その一層の発展を目指し,人材の育成,技術研究の促進,メタデータを含む標準化に取り組みます。さらに公共的デジタルアーカイブの構築や地域のデジタルアーカイブ構築支援,法制度など,諸関連学会,研究者を繋ぎ,共通の認識基盤を形成しながら,具体的課題に取り組みます」
デジタルアーカイブに関する団体がすでにたくさん存在する今,なぜ,新たに学会を設立するのか。それについてWeb(http://digitalarchivejapan.org/wp/about/shuisho/)に,以下のように記されている。
「たしかに今日,技術は進み,ビジネスも叢生し,新しい需要も喚起され,個別の研究も進んでいます。ところがこれらを政策的な観点から結びつけ,政府,自治体,関連諸機関,教育現場,企業活動を方向づけていくプラットフォームが存在しないのです」
「中央省庁から民間企業,地域の草の根の活動までが,共に考え,共に新しい政策を形成していくことが,とりわけデジタルアーカイブの分野には不可欠」であり,「産官学民を横断し,理論と実践をつなぐ存在」として,「草の根から政府までを縦横につなぐ政策形成プラットフォームとして設立」されたところが,本学会の一番の特徴であろう。
2.2 設立総会本学会発足に先立ち,設立総会が開催された。本学会への入会申し込みをしていなくとも参加可能だったため,参加者は多く,170人を超えたという。大きな講義室がほぼ満席だった(図2)。
開会の辞として,会長の長尾真氏(京都府公立大学法人 理事長,元国立国会図書館長)(図3)が,デジタルアーカイブを利活用するために取り組まなければならない課題や連携の大切さ,本学会の意義等について語った。
来賓あいさつを,丸山修一氏(文部科学省研究振興局 参事官(情報担当)付 学術基盤整備室室長。玉井英司氏(代読))と,長丁光則氏(デジタルアーカイブ推進コンソーシアム事務局長)が行った。デジタル知識基盤やオープンサイエンスの考え方等推進のための連携の重要性と,期待の言葉が寄せられた。
続いて,会長代行の吉見俊哉氏(東京大学大学院情報学環 教授)(図4)が登壇した。本学会設立の背景や趣旨について,また「デジタル(=技術)」と「アーカイブ(=文化)」の融合を示す「デジタルアーカイブ」の意義を語り,人材育成や法制度などを政策立案につなげることの重要性を強調した。本学会でいろいろな調査を進めながら,企業との連携やある種のファンディング,そして政策立案などを,(1)デジタルアーカイブ研究機関連絡会注2),(2)デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(後述)注2),(3)本学会の三本柱で進めたいとのことだった。
その後,理事の柳与志夫氏(東京大学大学院情報学環 特任教授)から,規約や学会役員,組織,事業計画や予算,今後のスケジュール案などが提示された。
閉会のあいさつを,第1回研究大会(2017年7月予定)の共催機関である,岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所所長の井上透氏が行った。
詳しくは,Webサイトに配布資料注4)がアップされているので参照されたい。
ここで事務局を一にし,強力な連携が期待される「デジタルアーカイブ推進コンソーシアム」についても少し触れておく。これは,デジタルコンテンツの流通・利用とそれを支えるデジタルアーカイブの構築に関わる諸団体が連携し,促進のための共通の課題解決に向けて取り組むためのコンソーシアムだ。会員は趣旨に賛同する団体(企業,公益法人,NPO等)である。
各種デジタルアーカイブ関連産業の育成・発展およびコンテンツ関連産業との連携強化や,研究開発の支援,関連技術標準化の促進等を図るだけでなく,デジタルコンテンツ振興とデジタルアーカイブ利活用促進に係る基本法の制定を,国会はじめ関係諸方面に働きかけることにも重点的に取り組んでいくという。
同コンソーシアムとの連携により,予算や研究成果の実用化,政策への影響等,課題解決へ向けた取り組みの実現性が高くなるのではないだろうか。
2.4 今後の予定本学会の今後の予定を,以下に挙げる。
(1)2017年7月1日(土)14~16時 第1回定例研究会(東大本郷キャンパス山上会館会議室)
・生貝直人「デジタルアーカイブと法制度」
・石橋映里「脚本アーカイブズにおけるデジタル化」
(2)2017年7月22日(土) 第1回研究大会「デジタルアーカイブの拓く未来」(岐阜女子大学と共催)
デジタルアーカイブ振興を図るため,研究者だけでなく博物館,図書館,文書館,国家,自治体,企業の実務担当者をつなぐネットワーク形成を図る,とのことで,多方面からの参加者を募集している。
(3)2017年9月9日(土)・10日(日) アーカイブサミット2017in京都注5)におけるセッション
役員の中にはアーカイブサミット注6),注7)の中心的役割を果たしている関係者も多い。しかしそれ以前に本学会の設立目的を考慮すれば,アーカイブサミットへの参加は自然な流れであろう。
その他,学会誌発刊の計画も報告された。創刊準備号として,2017年7月には第1回研究大会の予稿集を,2017年9月には創刊号を発刊するそうだ。
懇親会は,キャンパス内の山上会館 地階レストラン「御殿」で開催された。こちらへの参加者も多く,レストラン内はかなりの密集度だった。産官学民さまざまな立場から数多く集い,閉会後も残って会談し,とても活気があふれていた。
設立したばかりの本学会ではあるが,法制度改正や政策立案にも携わってきた長尾真氏をはじめとする重鎮たちの顔ぶれから,学術機関・自治体・産業界の連携と,デジタルアーカイブ利活用促進に係る法制定への道が開かれていくことも期待できよう。
事務局である「DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座」は,2015年11月1日~2018年10月31日の3年間という時限のあるものだが,期間内に軌道に乗るようどのように取り組んでゆくのか,今後が楽しみである。
(科学技術振興機構 山崎美和)
・2016年6月 デジタルアーカイブ研究機関連絡会:産官学の連携も視野に入れた,研究機関・大学を主とする連絡会:http://dnp-da.jp/liaison-committee/
・2016年12月 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム:http://dnp-da.jp/consortium/