2017 年 60 巻 6 号 p. 447-449
国際DOI財団(International DOI Foundation: IDF)では,DOI(Digital Object Identifier)普及のため,世界各地でアウトリーチのイベントを開催している。2013年にはAiriti社と中国科学技術情報研究所(ISTIC)のホストにより台湾と中国で,2014年にはmEDRA(multilingual European DOI Registration Agency)のホストによりイタリアで1),2015年にはJaLC(Japan Link Center)のホストにより日本で開催している2)。この度,2016年1月1日に韓国科学技術情報研究院(KISTI)がDOI登録機関となり,Korea DOI Centerのサービスを開始したことを契機に,KISTIは,韓国内の学術コミュニティーへのDOIの広報を目的として,DOI Outreach Seminar in Korea(図1)を開催した。
韓国の学会などから300名を超える参加があり,担当者の予想を大きく上回る大盛況であった(図2)。
IDFのManaging AgentであるJonathan Clark氏からのDOI全般に関する説明に続いて,DONAのChristophe Bianchi氏,DataCiteのMartin Fenner氏,CrossrefのEd Pentz氏,ISTICのGuo Xiaofeng氏からそれぞれ15分ずつ,各機関の取り組みについて説明があった。以下では,その要旨(DOIシステムの一般論は紙面の都合上,他の機会に譲る)を簡潔にまとめる。
IDFから,DOIの最も重要な特徴である持続性は,データベース,プロキシ等の技術的インフラと,DOI登録機関による義務の履行等の社会的インフラとから成り立っているとの説明があった。DOIの持続性はシステムによってだけでなく人によって支えられている,というこのメッセージは印象的だった。
DataCiteは,メタデータの露出を高めることにより,データセンターとデータを引用する研究者とのギャップを埋めることに注力している。そのため,DataCiteではメタデータ検索機能の充実を図っている。また,CrossrefとDataCiteとでEvent Dataというサービスを行っており,論文と研究データとの引用関係の収集に力を入れている。具体的には,DataCiteメタデータの中の論文へのリンク情報をDataCiteからCrossrefに送ったり,Crossrefメタデータの中からデータへのリンク情報をDataCiteへ送ったりしている。今後,これらのデータを活用して,データセンターにデータの被引用情報を提供するサービスを開始する予定である。
Crossrefからは一般的なCrossrefのサービス紹介に加えて,Crossref DOIを登録していた出版社が,他のDOI登録機関に移行した際のデメリットが提示された。具体的には,3万タイトルのジャーナルへの引用文献リンクが付かなくなること,被引用リンクがなくなること,Similarity Check,Funding Data,ORCIDオートアップデートが使えなくなることが,スライド資料とともに紹介された(図3)。
韓国国内では,これまでKISTIがCrossrefのSponsoring Memberとして,韓国国内の学会等を取りまとめ,Crossrefの年会費やDOI登録料を肩代わりしてきた。しかし,2016年1月1日に,KISTIがDOI登録機関になったことを契機として,現在,Crossref DOIのKISTI DOIへの移行を進めている。KISTIのもとで,Crossref DOIを登録している学会が引き続きCrossrefの付加サービスを享受したい場合には,学会自らがCrossrefの関連経費を支払わなければならない。Crossrefとしても,韓国国内の学会がCrossrefから脱退してしまうことは快く思っておらず,それを引き留めるべく,KISTIがホストとなっている本アウトリーチイベントでこのようなプレゼンをしたものと思われる。確かに,Crossref独自の付加サービスは充実しているため,今後の韓国国内の学会の動きやKorea DOI Centerの動向は着目に値する。
KISTIでは,Korea DOI Centerの立ち上げに先立ち,韓国国内におけるDOIサービスの状況を調べることを目的として,2016年8月にソウルで行われた,DOI広報のためのセミナー参加者約300名に対してアンケート調査を実施した。
調査の結果,次の実態が明らかになった。回答のあった120名のうち,78%はすでにDOIを登録しており,そのうちの57.6%はCrossrefを利用している。DOIに登録している主要な理由として,(i)ジャーナル評価基準を満たすため,(ii)著作権管理にDOIサービスを利用するため,(iii)学術情報への永続的なアクセスを実現するため,ということが挙げられた。DOI登録対象は92.8%がジャーナル論文である。
現状のサービスの改善要望として,DOIサービス利用のためのプロセスが複雑であることが挙げられた。さらに,48.2%はDOIに関連した便利なサービスの不足を指摘している。一方,25.5%は現状のサービスに満足しており,利用されているサービスは多い順に,DOIによる検索,引用文献リンク,剽窃(ひょうせつ)チェック(Similarity Check),Crossmark注1),FundRef注2)であり,そのほとんどがCrossrefの提供しているサービスであった。
一方で74.3%がKorea DOI Centerへの参加を希望している。Korea DOI Centerへの期待は多い順に,DOI検索サービス,引用文献リンクサービス,剽窃チェック,被引用情報の提供,DOI登録の代理サービス,研究データのストレージサービス,ジャーナル論文中の図表へのDOI登録やlanding page(書誌情報ページ)作成のサービスであった。
3.2 Korea DOI Centerの立ち上げKISTIでは,2015年にDOI登録管理機関推進計画を策定し,2016年1月1日からDOI登録機関の業務を開始した。Korea DOI Centerの推進戦略は,国内の研究情報にグローバルスタンダードのDOIを登録することにより,韓国の研究成果へのアクセス向上と,そのプレゼンスを向上させることである。
具体的なアクションとしては,関連機関との協力(コンテンツ保有機関との協力,他のDOI登録機関との協力,他の識別子との連携),KISTI独自のDOIサービスの提供(DOI登録サービス,学術データ・科学データ・公共データのDOI登録,DOIシステムベースの情報サービス産業の支援),データの標準化(データの識別,標準化リンクシステムのサポート,データの収集・保存・再利用のためのデジタルキュレーションのサポート,DOIシステムへのデータの共有と引用文化の醸成)である。
3.3 先進的なサービスKorea DOI Centerでは,前述のアンケート結果を踏まえ,いくつかの先進的なサービスを提供している。DOI登録に関してはXMLファイルのアップロードだけでなく,Excelファイルでのアップロードも可能にしている。その他,保有するメタデータのOAI-PMHでの提供や,ISNIやORCID等の著者情報の登録,DOIの利用統計情報の提供などを行っている。
今後,リリース予定のサービスとして,引用文献リンク,被引用情報の提供,論文類似検査,論文の更新(修正や撤回)管理,研究支援機関情報の提供がある。
韓国の学会などから300名を超える参加があり,日本で実施したときの150名程度と比べると,韓国国内におけるDOIへの関心の高さがうかがわれた。Korea DOI Centerでは,現状で考えられるあらゆるDOIに関連するサービスを提供する予定であり,その強い意気込みが感じられた。一方で,韓国国内ではすでにCrossref DOIが普及している状況でのKorea DOI Centerのサービス開始となり,今後の韓国国内のコミュニティーがどのようにDOIを使い分けるかの動向にも注目である。それについてCrossrefも韓国国内の会員の減少について警戒している様子がうかがわれた。
その他,CrossrefとDataCiteとで連携して行っている,論文とデータとのリンク情報収集と活用の取り組みのようなメタデータを活用した付加的サービスの提供は,JaLCの今後のサービス企画にも参考になるものであった。
(科学技術振興機構 知識基盤情報部 余頃祐介,住本研一)