日本環境感染学会誌
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原著論文
透析関連感染の現状とその評価:多施設共同サーベイランスの成果
山下 恵美森兼 啓太谷口 弘美宮田 貴紀前多 香高橋 陽一大澤 忠細田 清美村田 弘美伊藤 淳又吉 慶帯金 里美多湖 ゆかり林沼 聖子水野 住恵奥 由美坪根 淑恵畠山 国頼吉川 美智代政本 紀世神谷 雅代中島 博美
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2016 年 31 巻 5 号 p. 297-309

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抄録

 我々は本邦初の透析関連感染を対象にした多施設共同サーベイランスを2008年より実施している.今回,2008年から2013年までの6年間に亘る29医療機関のサーベイランス結果を基に透析関連感染の現状とサーベイランスの成果を評価検討し,感染に影響を及ぼす因子と今後の課題を明らかにすることを研究目的とした.6年間の感染症例は350例(シャント75例,グラフト33例,動脈表在化12例,短期カテーテル205例,長期カテーテル25例)であり,1,000透析日あたりの感染率はシャント0.08,グラフト0.76,動脈表在化0.26,短期カテーテル12.16,長期カテーテル1.15であった.感染の現状は米国と概ね同水準と推察され,短期カテーテルの感染率は極めて高く,血液培養の主要な検出菌はMRSAを含むStaphylococcus aureusであった.短期カテーテルは全体の50%が透析導入時に使用され,感染までの留置日数は13.7±13.9日であった.短期カテーテルの使用と鼠径部への留置は感染の危険因子と示唆され(p<0.001),可能な限り鼠径部留置を避け,透析導入時の短期カテーテル使用を回避するための実務改善が課題と考えられた.本研究では,感染対策の質改善により透析関連感染が減少したことが明らかとなった.今後,更なる危険因子の解析と感染対策の検証が望まれ,標準的な感染対策に繋げる必要がある.

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© 2016 一般社団法人 日本環境感染学会
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