昭和学士会雑誌
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原著
失語症者へのインフォームド・コンセントに関する研究
―半構造化面接による失語症者の思いについての調査―
松元 瑞枝吉岡 尚美川手 信行水間 正澄
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2016 年 76 巻 4 号 p. 486-497

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抄録

医療従事者が失語症者にInformed consent (以下,IC)をする際になすべき支援を明らかにするために,失語症者がICについて抱いている思いを調査して検討した.対象は,在宅生活を送っている40~70歳代の失語症者で,ボストン失語症重症度尺度2~5の22名であった.まず,描画を併用しながら研究についてのICを行った.その後,失語症者に回答の選択肢を提示しながら急性期やリハビリ開始時そして退院時の日常診療におけるICについての半構造化面接を実施した.1)半構造化面接の結果を集計した.2)本研究で用いた描画と回答の選択肢についての感想を集計した.3)失語症者がICを受けた時に抱いている思いについての発話を抽出して検討した.1)の結果,説明を受けたか否かについては,急性期には覚えていないと回答したヒトが最も多かった.リハビリ開始時と退院時には説明を受けたと回答したヒトが多かった.説明が分かったかどうかについては,いずれの時期においても半数以上のヒトが分かったと回答したが,退院時に分かったと回答したヒトが最も少なかった.説明を受けた時のコミュニケーション支援については,いずれの時期においても過半数のヒトが工夫はなかったと回答した.説明を受けたことによる不安の変化については,減らなかったとどちらとも言えないと回答したヒトが多かった.なお,不安が減ったと回答したヒトは全員説明が分かったと回答したヒトであった.2)の結果,描画の提示が理解を促進したと回答したヒトが多かった.また,面接の際に選択肢が回答に役だったと答えたヒトが多かった.3)急性期に理解できていたことやリハビリについての認識がなかったこと,退院後の生活を想像困難だったことなどの発話が抽出された.以上の結果から,1.急性期の病気についての説明は覚えていないヒトが多かったが,なかには表出は困難だが理解は可能である失語症者がいることを念頭に置いてICをする必要がある.2.リハビリ開始についての説明は具体的にすることが望まれる.3.退院時の説明は,退院後の支援者と連携して行うと失語症者の不安を軽減できる可能性がある.4.ICによって失語症者の不安を軽減するためには,まず,失語症者が分かるように説明することが重要である.5.本研究の倫理規定としてのIC の際の描画の提示は,失語症者の理解を促進できたと思われる.また,半構造化面接で用いた回答の選択肢は表出の支援になったと考えられる.しかし現状では,多くの失語症者は日常診療におけるICの際にコミュニケーション支援を受けていないことが明らかになり,今後の実践が望まれる.

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